第11話 帰って来た
翌日、三上さんに来てくれと言われたからには、行かなきゃいけないのだと思った。携帯を開くと、催促のメールが何通も来ていた。
「……」
呆れて声も出なかったが、こうなってしまっては仕方無い。私は病院へ飛んで行った。
「むーーーーーー」
「怒ってる?」
「むーーーーーー」
「怒ってる、の?」
「そんなには……」
いじるのが好きなんだなぁと思ってしまう。三上さんとの約束に三分くらい遅れた。けれど、三上さんは私にちょっかいを出して迎えてくれた。
「よく来たな、デス・カーニバル。私の話を聞きに来たのだろう?」
「……良かったの、私の話の後で?」
「うん。いい。四宮さん、前から気になってたの」
そう言いながら慌ただしく動いている三上さんを、目線で追いかけながら話そうと試みた。
「あー、三上さん」
「さ、行こっか!」
「どこに?」
「退院します!」
まったく聞いていなかった。本人も言わなかったみたいだし。だから率直な質問をぶつける。
「ご両親には?」
「言ったよ」
「私にはなんで言わなかったの?」
「忘れてた!」
「……」
やっぱり呆れる。何を考えて生きているんだろうと思う時がある。
「そうそう、トントロの面倒見てくれた?」
「なんで?」
「お母さんに会いに行ったんでしょ。当然」
ふんす、と鼻息を荒くして言い返してきた。
「……」
そのまま病院を出る。
「四宮さんって暇そうだね」
「え……。 暇じゃないよ」
「ううん、顔でわかるよ」
なんで見透かされるんだろう。回り込んでまで顔を見てきた三上さんを無視して進む。
「久しぶりの休日なんだからさ、楽しんでいこうよ。ね?」
「……死にかけたんでしょ、三上さん。元気だね。 ……羨ましいくらい」
「……」
三上さんも黙ってしまう。言い過ぎたと思っていると、突然こんな話を切り出された。
「じゃあさ、付き合ってよ。誘ったのはこっちだから」
「え……?」
「そらそら、ゴーゴー!」
「わっ、ちょ、ちょっと―――」
背中をグイグイと押されてしまう。
今日は、三上さんに振り回されそうな一日になりそうだ。
「この道へ、我は行く!」
指をビシッと指した方向を見る。一本道だった。
「出発だー! あ、あんまり迷惑かけちゃいけないよ、トントロ。OK?」
トントロは、わん! と答える。
「今更だけど、犬だったんだね。トントロ」
「うん、面倒見てもらわなかったせいで太っちゃったけどね。 ……面倒見てもらわなかったせいで太っちゃったけどね!」
大事なことなのだろうか、二回も言った。
「日が暮れるかもよ、早く行こう」
「もう、四宮さんのせっかち」
三上さんの事を急かして、私達は散歩に出かけた。
「お母さん、三上さんの事、どうでもいいって言ってたよ?」
「ああ……、うん。まあ、今はしょうがない。あのね、四宮さんが会いに行ってくれて良かった」
「……?」
「私ね、弟がいるんだ。今は離れてるけど……。 部活でね、大会に出て優勝したの。テニスだったかな、多分。強豪校だから、とにかく大会、大会って……。 忙しそうだから、お父さんと一緒に暮らしてるの。大会がある時はいつもそうしてる」
「ルーティンなの、それが?」
「うん。あの時も大会があるからいなかったんだよ、弟」
「じゃあ……」
「まだ始まってなかったし、四宮さんの話の方が新鮮だったのかも。 ……お母さんには信頼されてるから、問題は無かったのかも」
話を聞いていても、どうも不自然だ。トントロと散歩をするため、三上さんの家に立ち寄った時、家の外から話を聞いていても、お母さんは特に三上さんの事を心配しているような素振りは見せなかったからだ。
「本当に愛されてる? 不自然だよ、なんか」
「……まあ、ね……」
三上さんは、言葉を濁す。
「でも、よそはよそ、うちはうち。だから、気にしたらいけないのかも」
そう言って私に微笑む。
「神社行かない? トントロ帰らせたら、一緒に行こ」
「はいはい。分かりました」
今日は一日とことん付き合う事になった。半日程度だろうと高を括っていた私は、腹を決めるしかなかった。
「中学の時に意気投合した親友がいてね、その子は、ここの神社の巫女さんやってます」
まるでテレビで見たかのような手の動かし方に、つい目線が追いやられる。
「……すごいね」
「それだけ? ……まあ、そうだよね」
三上さんも同じ方向を見る。
敷地もそうだけど……まあ、何か色々大きいのがわかった。
「それで、その知り合いって人はどこに……?」
「あそこ」
指を向けている三上さんと同じ方向を見ると、マスクをつけた巫女さんが、竹ぼうきで道を掃除しているのが見えた。
「ゲストの四宮さん、私と一緒にお話を伺いに行きましょう」
「恥ずかしいの?」
「一人じゃ恥ずかしい、から……」
そう言って顔を赤らめる三上さん。
久しぶりにそんな顔を見た気がする。
上目遣いで服の袖を掴んでいる三上さんを、ぐいと引っ張り、連れて行く事にした。
「あのー、お話があるんですけどー」
棒読みで尋ねる。
「はい、なんでしょう?」
「この人があなたに会いたいって言って駄々こねてたんでー、連れてきましたー」
三上さんをその人の目の前に出す。
「……」
「……」
一歩離れた場所から見守る私。
「雷花ちゃん……だよね?」
「う、うん……、そうだ―――」
なんとその子は、三上さんだと分かった瞬間に抱き着いてきた。
「久しぶり! 会いたかった!」
「う、苦しい……、たす、助けて~」
余程腕力が強いのだろうか。抱き着かれた三上さんは、私に助けを求めていた。
助けないでいると、その人は突然、私にも抱き着いてきた。
「うわっ、な、なんですかっ、あのっ」
「舞ちゃん、久しぶり!」
「……!」
舞ちゃん―――――そう、言われた。
私を舞ちゃんと呼んでくれたのは、いずなちゃんだけだ。
なんで、どうして―――――
考えていると、背中から痛みが走る。
「――――――――――っ!」
ドサッと倒れる。
「ごめん! 大丈夫、舞ちゃん!」
そう言って、その人は顔を近づけたまま話しかけてくる。
今にも唇と唇が触れそうなシチュエーション。三上さんは見ているだけだ。
「あの、どいてくれませんか……?」
「へっ、あっ、ごめんね。巫女なのに、はしゃいじゃって……」
慌ててどいたその子は、巫女装束を直しながら話をする。
「感動の再開だね、二人とも。続きは中入ってしようよ、ね?」
「あの、掃除は……」
「ん? ……あっ! 掃除!」
慌てて思い出したのか、せっせっと続きを始める。
「先に待っててー!」
何だか、すごそうな人だ。興奮したり、仕事したり。
「三上さんは知り合いだけど、私の事は知らないよね、あの人」
「ウンソウダネ、ハヤクハイロウヨ。オカシト、オチャガ、マッテル」
「……仕方ないなぁ……」
寒くも無いのに寒そうだという雰囲気を演じている三上さんをなだめながら、私達はお邪魔させて頂く事にした。
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