第10話 生きろって言われて
「いずなちゃん、何があったの?」
声を震わせながら、尋ねる。
「家にね、強盗が入って来たの……。 私だけで、何とかしようって思ったけど、逃げられ……ちゃった……」
「とりあえず、中入ろう!もしケガしてたら――――――」
「ううん、もういいの。 ……多分、間に合わない」
そう言うと同時に、いずなちゃんの体から力が抜ける。
「いずなちゃん! しっかりしてっ!」
「揺らしちゃだめだよ……。 話せなく……なる」
いずなちゃんは、私の右手をギュッと掴む。
「理不尽だよね……、やっぱり。 ……まだ、生きたいって思ってる」
「いずな……ちゃん」
「頭、クラクラする。 ……殴られたから、トロフィーで……」
前にいずなちゃんは、大会で準優勝したことがあると言っていた。どんな大会かは忘れてしまったけど。
「ついでに、左足の太ももらへん……も、刺された」
左足を見る。言った通り、血がどくどくと溢れていた。パニックになっている私は、治療の事なんか頭に無かった。
「ねえ、友達だよね……。 一人ぼっちにしないでよぉ……!」
「舞ちゃん……、友達だから言えることがね、託せる事があるの……」
「何……、いずなちゃん」
いずなちゃんは一呼吸置いて、私に言った。
「生きて欲しいな……」
「うん、うん……」
「舞ちゃん……、泣いてる……? 私……迷惑かけてなかった……?」
「大丈夫だよ……。 めい、わく、なん、てぇっ……!」
涙が溢れて来ない。
「良かった……、ごめんね……」
いずなちゃんの手が、頭へ向かう。
「どんな時も……笑ってて……優しい舞ちゃんのままでいてね……」
「舞ちゃん……スマイル、だよ……?」
「――――――――っ、こう……?」
「うん、その笑顔……。 可愛いよ、舞ちゃん――――――――」
それが、いずなちゃんの最期の言葉だった。
私の大切な、たった一人の友人は、理不尽にも、命を奪われた。
翌日のニュースで、犯人が捕まったという事が分かった。
やはりというか、当然というか、いずなちゃんが話してくれた通りだった。
いずなちゃんが一人で留守番をしていると、突然強盗が入って来た。強盗は金目の物を要求したが、いずなちゃんは要求を突っぱねた。それで逆上した強盗ともみ合いになり、いずなちゃんは頭をトロフィーで殴られた後、左の太ももをナイフで刺された。
強盗はその後、目についた金目の物を大きな袋に入れて逃げた。だが、袋に穴が開いていたようで、警察も追うのが簡単だったそうだ。
私は、いずなちゃんの葬儀には行かなかった。とても穏やかな顔で私に未来を託した、いずなちゃん。
そんな友人の顔を二度も見るなんて。私には耐えがたかった。
「……」
全てを話し終えた私を見て、三上さんはこう言った。
「やっぱそうかぁ……」
空は茜色に染まっていた。
三上さんが何を思ったのか、全くわからない。とりあえず、今日は帰る事にした。
「話してくれてありがとう。私も話したいことがあるから、また明日来て」
「うん、分かった」
病院の出口までついてきてくれた三上さんに返事をし、病院を出ていく。
眩しい光が顔に当たり、少し目を背ける。
私はその光をなるべく見ないようにして帰路につくのだった。
私は嘘をついた。
三上さんに話したのは、家族と友人が既に亡くなっている事だけだ。
私の事は、話していない。
今の話だけでも、友達になろうと言ってくれた人が離れていった。
私の事を話してしまえば、恐らく居場所は無くなる。
私を見てくれる人がようやく出来た。
しばらくは―――――――――――
大人しくしててね。
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