第6話 何かあっても遅いから

 休日、三上さんがいない事は私しか知らなかった。

 きっと、あいつだ。そう思った私は、大きいバックを準備する。


「久しぶりだなぁ……これ」


 あの時の感覚が蘇る。初めての感触、悲鳴、泣き叫ぶ声、色々な感情が渦巻いたあの瞬間。

 私はを、一生忘れないだろう。

 ここで必ず、仕留めてやる。そう思い、家を出て行った。









「ん、う……」


 ここは、どこだろう……?


「四宮さん……? 早弥ちゃん……? どこにいるの……?」


 小さな声で呼びかけてみる。だが、返事が無い。


「誘拐……された?」


 見慣れない部屋、絶対にそうだ。確信を持ってしまったからこそ、余計に不安が襲ってくる。いつもの中二病なんて、忘れてしまうくらい。


「お父さん、お母さん……!」


 ドアを開けようとドアノブを必死に回す。鍵がかかって開かないのは、頭では分かっている。でも、体が動いてしまう。

 そうしている内に、ドアがガチャリと音を立てて開いた。


「え……会長さん? どうして……」

「驚かせてしまってごめんね。三上さん、?」


 怖かった。いきなり会長さんが出てきたのもそうだが、笑顔で威圧しているのが、尚更怖かった。

 そんな会長さんの言う事を、私は、断ることが出来なかった。









 歩く。ただひたすら歩く。久しぶりの事なのに、

 歩くのには、自身があったのだが。どうやら、休憩を入れる必要があるみたいだ。


「あれあれー?どうしたのかな、お嬢ちゃん?」

「この先に用があるんです。急いでるんでどいて下さい」


 ガラの悪い人達が、私の元に集まって来た。


「おいおい、俺達の事避けて通ろうとすんなよ……。どうしてもって言うなら―――」


 その男は私の胸に手を当ててこう言った。


「金か身体払えよ」


 気持ち悪い笑顔だ。


「……分かりました。じゃあ、

「えぇーーー、いいの!ひっはっはっ、じゃあ、お言葉に甘えて―――」


 そう言った男が私の身体に触れた瞬間、











「三上さんは四宮さんの事、どれくらい知っているのかな?」

「えっと、入学式に会ってそれからで……。 四宮さんは、はぐらかすんです。自分の家の事言わないし、友達の事も。だから、何も……」


 正直に答える。不思議だと思っていた。でも、それを聞いた時、四宮さんの顔が暗くなったから、これ以上は聞かない事にしたのだ。


「ふーん、やっぱりね」

「矢野さんは知ってるんですか? 四宮さんの事について」


 身を乗り出してしまう。


「うん、そうなんだよ。僕と四宮さんはね……、













「ぎゃあああああああっ!!!!」


 触れた男の右腕を、躊躇なく刺す。


 右腕を抑えジタバタしている男を横目に、はそんな言葉をかけた。


「テ、テメエ何しやが―――」


 次はバールで男の頭を叩く。


「―――――――――」


 男は、頭から血を流して倒れ伏した。


!!!!!!!」


 笑う。がしたかったんだと。は笑いながら、集まって来た男たちに、


















「あの時、言い負かされたんだ。学校を私物化しているだろうって。僕は潔く認めたんだ。そうするしか方法が無かったから」

「……それで、どうしたんですか」

「うん……色々な人を頼ることにしたんだ。

「まさか、ですよね。会長は、やっぱり―――」

「誰が口を開いていいと言った」

「っ……」


 厳格な声が響く。


「ありがとう、お父さん。もういいよ」

「……あまり、勘づかれるなよ」


 そう言って、矢野さんのお父さんは部屋を出ていく。お父さん? どういう意味なんだろう。

 少し考え込む。

 ――――――――――まさか。


「あの―――」


 言葉が、そこで途切れる。

 なんだろう、お腹の真ん中辺りが赤くなって―――


「くっ、あ、ううっ、っ――――――」


 痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、いた―――――――


「かい、ちょ、な、にを――――」

「ごめんね、三上さん。やっぱり君は邪魔だ。死んでもらえるかな?」


 今度は、脇腹の辺りにナイフが刺さる。


「あ――――――」


 バタリと倒れる。血だまりが広がる。床が赤く染まってゆく。


「死ぬ前に伝えておきたいことはあるかな?」

「……」

「もう意味無いか」


 会長は私を一瞥すると、部屋を出て行った。






























「ふう、終わった。これでいいか」


 そう言って、は私に戻った。


「……」


 記憶が戻る。目の前を見やる。そうか、またのか。


「三上さん……!」


 こんな事にうつつを抜かす場合では無いと思い、急いで矢野修弥の自宅に向かう。

 無事でいて欲しいと願いながらも、心のどこかでは、と、思ってしまっていた。















 もう、死んじゃうのかな……。

 折角友達が出来て、こんな私を受け入れてくれて、それなのに……、こんな形で死ぬなんて……。

 お父さん、お母さんに説明してくれるのかな。誰かが、ちゃんと……。

 トントロは、心配してるかな……。 エサ、あげてないよね……。

 色々な事が頭の中をぐるぐると渦巻いている。これが走馬灯ってやつなんだろう。

 意識がもう、保てない。


「……」


 誰かが、目の前に立っている。

 だから、私は最後の力を振り絞って、言葉を紡いだ。その人が四宮さんだと信じて。


「た、す、け、て。まだ、しに、た、くないっ……!」


 仰向けからうつ伏せに無理矢理姿勢を変えたためか、更に激痛が走る。


「……っ、とも、だ、ちにっ、なって、くれた、ひとが―――――」 


 私の意識は、そこで完全に途切れた。

































 数日後、三上さんは学校に来れなくなったと、霧崎さんに言われた。

 何があったか知る権利も無いし、知ろうとも思わない。

 ただ――――――――――

 何らかの事に巻き込まれたのは確かだった。

 今日は一人で帰らせて欲しいと、皆に断りを入れる。

 彩さんは、そんな私の顔を見て、こう言った。、と。

 帰り際、空を見る。すると、口から勝手に言葉が零れた。


「つまんないなぁ……」


 その言葉に答えてくれる人は、誰も居なかった。

 

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