第5話 お姉ちゃんだから

「ねえ、三上さん」

「何?」

「セイレーンは、半人半鳥だって」

「えー、半人半魚だよ」


 朝、三上さんがこちらに寄って来たので、気になっていた事を言う。正直、反論にはムッと来たが、半人の部分は変わらないので、良しとする。


「半人は一緒だね。うーん、可笑しいね」


 そう言って、三上さんは苦笑した。

 すると―――


「戻れ―、朝会やるぞー」


 先生が入って来たので、席に着く。


「聞いていると思うが、うちのクラスに転校生が入る事になりました。どうぞー」


 ガラリとドアが開く。入って来たのは、三人の女の子だった。その子らを見るやいなや、私は可愛いと思ってしまった。だが、そんな事よりあの三人の反応が気になった。周りを見渡すと―――

 三上さんは目を輝かせ、ゆいちーは驚いた表情を、須藤さんは困った顔をしていた。


「じゃあ、自己紹介を」

「はい、先生」


 真っ先に口を開いたのは、私から見て左の子だ。


「初めまして。今日からこのクラスに入る事になりました、古那彩ふるなあやです。皆さん、よろしくお願いします」


 そう言って深々とお辞儀をする。

 次に自己紹介をしたのは、真ん中の子だ。


「えっと、その、あ、あの、わ、私は、古那香耶ふるなかやです。……よろしくお願いします」


 顔を赤らめ、とても緊張している様だった。

 最後は右の子。


古那早弥ふるなさやです。よろしくー!」


 元気そうだった。


「というわけで、仲良くしてくださいねー」


 そう言って先生は、半ば無理やりにでも時間を終わらせたのだった。






 放課後、朝の事がずっと気になっていたので、三人を呼び出そうと思ったのだが……。


「何でついてきたの?」

「友達だから」


 六人になってしまった。いや、私も入れて七人だ。


「しょうがないから、話進めるよ」

「「はーい!」」


 元気な二人が手を挙げて、笑顔で参加の意思を表明した。


「六人は知り合い?」

「そうだよ。小学校の時からずっと。中学の時はバラバラになっちゃったけど、集まれるなんて思わなかった!」


 三上さんが喜んでいるのを見ると、相当嬉しいみたいだ。


「私達は三姉妹なんです」


 彩さんは、おしとやかだ。


「……」


 香耶さんは、須藤さんの後ろに隠れている。顔は、須藤さんの右肩辺りから少し出ていて、可愛かった。気づいた私は、ニコリと笑う。


「っ……!」


 顔を真っ赤にしてサッと隠れる姿もまた、可愛い。


「そうだよ。だからみかみんにね、番犬ケルベロス三姉妹って呼ばれてるんだ」

「同士よ、ばらすなと言ったであろう!」


 三上さんが怒っている。


「くっくっくっ、そうでなくてはな、閃光少女。お前は、稲妻のようなツッコミが取り柄だ!」

「何を言う!ボケはいつもお前だろう、フレンド!」


 ギャーギャー騒ぐ二人を横目に、彩さんが口を開く。


「早弥と雷花ちゃんは似てるんですよ。背も同じくらいですし、あの通り性格も似てて……」

「……かくしご」


 小さな声が聞こえた。須藤さんの耳は、その言葉をしっかりキャッチしていたようで―――


「何か言った、香耶ちゃん?」


 優しく聞き返した。


「っ……、何でもない。 ……いじわる」


 そう言って須藤さんの服の袖をギュッと握った。


 照れ隠しだろうか、とても可愛い。


「香耶、出ておいで」

「いやだ……。 恥ずかしい……」


 彩さんが呼んでも、香耶さんはそう言って隠れてしまう。


「ごめんなさい、四宮さん。香耶、この通り照れ屋で……」

「そうなんですね。でも香耶さん、可愛いですね」

「っ……! う、ううっ」


 私がそう言うと、香耶さんは急に飛び出してきて、彩さんの背中にサッと隠れた。


「香耶~お顔見せなきゃだめでちゅよ~」

「や、やめ、は、恥ずかしい。貴奈ちゃん助けて」

「ん~、何か言いました~?」

「意地悪しないで二人ともっ。頑張ったんだから、今日はもう―――」


 香耶さんに対しての行為がエスカレートしていく。

 一方で、あの二人は漫才をしている。


「ゆいちー、騒がしい」

「……? 私は騒がしくないですよ」


 なんという事だろう。私の渾身のボケが通じなかった。


「意外と真面目だね、ゆいちー」

「そうですか? 固いとは言われますよ」

「それを真面目というんだよ」


 そんなこんなで、放課後の時間はあっという間に過ぎて行った。






「遅くなっちゃいましたね」

「そうですね」


 後ろを振り返る。

 香耶さんの周りを皆が囲んでいる。きっと質問攻めに合っているのだろう。遠くから見てもオドオドしているのが分かった。


「今日はこの辺で」

「えっ、ここって、すぐそこ」

「そうですよ、ご近所です」

「いつでも会えるんだ……」


 感心してしまった。いや、考えてみれば感心してる理由なんて無いけど。


「えっ、あ、ちょっとは……」


 その質問が何を意味しているのかは分からなかったが、そう答えた。


「香耶!早弥!帰るよー!」

「はーい、今行きまーす!」


 早弥さんはグイグイと香耶さんの腕を引っ張る。その時、香耶さんとの視線が合った。


「……」


 息を飲んだ数秒後、はっ、と気づく。周りをキョロキョロと見回す私を不審に思ったのか、三上さんが声をかける。


「大丈夫?」

「可愛い……」

「?」

「香耶さん、すごく可愛い……」


 私はしばらく、香耶さんの可愛さに見とれてしまっていたのだと思った。


「三上さん」


 呼んでみる。


「三上さん……?」


 返事が無い。

 振り返ると、そこには―――



































            三上さんのバックが落ちていた。



















 


 

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