第4話 ハプニングと共に

 ゆいちーと須藤さんと友達になってから、一週間が過ぎた。教室で本を読んでいると男子が一人、突然話しかけてきた。


「君、三上さんの友達の四宮さんで合ってるよね?」

「はい、そうですけど……」


 誰なんだろう、同じクラスの人かな……。私がそう考えていると、三上さんが乱入してきた。


「おはよう! この完璧パーフェクトが、お前に興味があると言って、むぐうっ!」


 その子は三上さんの口を片手で塞いだ。ナイスアシストだと思った。


「ぷはっ……何をするぅ!」

「そこまで。これ以上僕の事を詮索しないで欲しいな。み・か・み・さ・ん?」

「申し訳ありません! じゃ、じゃあ、またぁ……」


 脅迫に怯えたのか、三上さんはそそくさと自分の席に向かった。


「ごめんね、邪魔が入ったね」

「いえ、別に……。 えっと、あなたは……?」

「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は矢野修弥やのしゅうや。三上さんが言っていたんだけどね、成績優秀で運動も出来る。女子にも好かれてる。だから、ハーレム系主人公だってさ。まあ、僕は恋愛なんて興味ないけど」

「はあ……」

「突然で悪いんだけど、今日の放課後って空いてるかな?もしなら、僕に付き合って欲しいんだ」


 そう言って、彼、矢野さんは手を差し出した。


「今日は、ちょっと……」

「じゃあ、いつにしようか? 三日後はどうだい?」

「それくらいなら、大丈夫です」

「そう、良かった。君とのデート、楽しみにしているよ? 四宮さん」


 そう言い残して教室を出て行った。どうやら、他クラスの人だったようだ。

 自覚してないんだろうけど、キザっぽいな。何だか似た雰囲気を感じ取った私は、三日後に備えて、彼の身辺調査を始めるのだった。




 自分でも、よくここまで調べたと思う。

 放課後の貴重な時間を奪われた事。それに、だと知った事。さて、どうしてやろうか……。今はまだ、仮面をかぶった方がいい。






              










「好きなものはあるかい? 僕が奢ってあげるよ」


 学校から徒歩五分の場所にあるカフェに連れて行かれた。に乗る事を考えた私は、敢えて高そうで美味しそうなのを注文することにした。


「じゃあ、チーズケーキとショートケーキのセット。カフェオレもお願いできる?」

「もちろん、注文しておくよ。水でも飲んでて」


 まるで、自分の事は気にするなとばかりに、私だけにメニューを渡した彼は、そのまま私の言った通りの注文を済ませる。

 注文をし終えると、改めて私に向き直った。


「えっと、四宮さんはどうしてこの高校に入学したのかな?」

「中学の時、色々あって……。 それでここに」

「色々って、例えば?」

「普通、女の子にプライベート聞く?」

「失礼だよね、ごめんごめん」


 開き直った感じで謝罪をしたが、どうも誠意を感じない。私の事を侮蔑しているのか……?


「でもさ、気になっちゃったんだよね。君の素顔が、どうしても」


 そう言って、笑みを浮かべながら私の方を見た。

 怪しい。どう見ても普通じゃない。目を細めた感じ、怪しい笑みを浮かべた顔。まるで、


「お待たせしました。チーズケーキとショートケーキのセットとカフェオレです」


 店員さんにお礼を言い、向き直る。


「これは僕の推測なんだけど……」


 一呼吸、止める。


「その頃、やつれてたでしょ。四宮さん」


 チーズケーキに向かっていたフォークが止まる。


「何で知ってるんですか、その事?」

「……さあ?」


 あの話は嘘じゃなかった。だとしたら……。


「矢野さんは、生徒会長だよね?周りの人を権限で脅してたりするの?」


 鋭い質問をぶつける。だが―――


「僕を疑うのかい? 美味しくなくなる前に食べなよ、それ」


 仕方なく、チーズケーキとカフェオレに手を付ける。美味しい。だが、こんな事の為に呼び出した訳ではないのは、もはや明らかだ。


「質問、いい?」

「なんだい?」

「ホームぺージに載ってる校長先生の名前、じゃなかった?」

「そうだけど、どうかしたのかい?」

「矢野さんは、何てこと、ないよね?」

「……」


 黙りこむ。そうだろうと思っていた。

 この三日間、身辺調査で役に立ったのは生徒会副会長の証言だった。









「修弥くんの事を教えて欲しい?」

「ええ、そうなんです。実は……」


 そう言って、話を進める。彼女は情報通の副会長、霧崎安比奈きりさきあいな。彼女の情報はやや抜け目のある所もあるが、正確だ。須藤さんが、この人なら信じられるよ、と言ってくれたので、それに賭けてみることにしたのだ。


「ふーん、そんな噂がねぇ……」


 眼鏡の位置を調節し、指で髪をいじりながら聞いていた彼女は椅子から立ち上がり言う。


「調べとく。前から気になっていた事が多かったの」

「そんな簡単に……良いんですか?もしバレたりしたら……」


 不安になった私はもう一度確認を取る。


「大丈夫。探偵に憧れて情報通してるから」


 振り向きざまに、私の唇に人差し指を当ててもう一言付け加えた。


「霧崎流格言その1。91


 余計に不安になった私を見て、クスッと笑い部屋を出ていく。

(勝負は三日後……。行けるかも!)

 グッと、拳に力を入れる。それまでは、霧崎さんの事を信じようと思った。








「それにね、私、。後、


 そこまで話すと、矢野さんは苦笑交じりで口を開いた。


「よく分かったね。ここの高校はなんだ。でも、私物化しているわけじゃないよ」


 白々しい。よくそんな嘘を吐ける。そう思った私は、もう一歩、踏み込んだ質問をした。


「確か、パンフレットには書いてあることが、実際の生徒手帳には。変だよね?優秀な生徒を残すとか何とか書いてあったけどさ、生徒の事を知ってるのはあり得ないんじゃないかな?しかも、その人達の昔の事なんて」


 ショートケーキを一口食べて話を進める。


「この高校の風紀を守る為に、昔悪い事をした生徒を、会長の権限で脅して退学させてる。違う?」

「……」

「だんまりは認めたことになるよ、会・長・さん?」


 これで、仕返し程度になったかな? さて、どう出るか……。

 様子を伺うために一旦黙り込む。

 数十秒が過ぎて、矢野さんの様子が少し変わったように感じた。


「あははっ、面白いね。僕と対等な立場で話そうと思うなんて。ねぇ、四宮さん?」


 もう一つくらいは秘密をバラしてもいいだろう。


「ズルしてるでしょ?先生も脅して、テストの答案も最初から知った上で受けてる。本当のあなたは。親の権限、ましてやスネかじってここにいるんだったら――――」


 一呼吸置いて、突き付ける。


「会長失格だよ?」


 本当なら、その言葉と共に、力強く握りしめたフォークを喉元に突き刺してやりたい。

 昔の私だと思ってなめてかかった事を後悔させてやりたい。

 でも、それは今じゃない。

 だから、今はまだ―――――――
























             















「ごちそうさまでした。お金、お願いしますね。矢野会長?」


 そう言って、私はお店を後にするのだった。






























「ふふっ、はあ……とんだお人だ。探偵気取りで僕の事をバラすなんて」


 暴かれてしまった。上手く言いくるめる事も出来なくも無かったが、バックにはきっとがいたはずだから、余計に口を出せなかった。



 僕の力を誇示出来る最高の舞台だと思ったのに。あいつのせいでまた無茶苦茶にされるのか。


「仕返しか……、やれるもんなら、やってみろよ。今度こそお前を―――」


































 私刑、それが良いのかは分からない。でも、積み木を上から取っていくように、ドミノを少し邪魔するように、人生も少しずつ狂わせる事が出来る。

 あいつに、それをやられた。だから、今度はもう、逃がさない。


「啖呵切っちゃった。 ……これからどうしよーかなー」


 でも、少しスッキリした。

 一つは放課後の分。もう一つは―――

































                 復讐だ。

 

 

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