第2話 きれいな水晶

「皆さん、本日はご入学おめでとうございます。えー、この学校は――――」


 校長先生のお話、聞いてるだけで眠くなってくる。まあ、実際眠いし。

(早く終わんないかなー、雑誌見に行きたいんだけどなー)

 昨日、ついついゲームに夢中になってしまった。だから、すごく眠い。

(やりすぎたかな……。つい夜更かししちゃったよ……)

 私は四宮舞しのみやまい。有栖川高校の一年生だ。

 入学式後のホームルームでは、如何にも優等生感を出して自己紹介をした。先生の話も退屈で仕方がない。

(帰りたい……)

 今、私の頭を支配しているのはそんな感情だった。


 話も終わり、席を立って帰ろうとしたその時だった。


「ストーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーップ!!!!!」


 と、一人女の子が道を塞いだ。



「あの、どいて、欲しいんだけど」

「断るっ!!!」

「どうして、なの?」

「貴様がいい名前をしているからだ、四宮舞!」


 どういう事なんだろう。すごく、困ってしまう。


「私の名は三上雷花みかみらいか!またの名を、閃光少女ライトニングガールッッ!!」


 クラスの皆の視線が、一斉にこちらに集中する。なんだろう、すごい、気まずい。


「あの……三上さん、大じょ―――」


 私が冷や汗をかきながら話しかけたのがマズかった。


「ごおぉぉぉぉぉめえんなさああああああああああああああああいぃぃぃぃぃ!!!!」


 あれ、私、引っ張られてる?

 そう思った時には、私の姿は教室に無かった。


「はあっ、はあっ、み、三上さん、早いんだ、走るの……。 びっくりした」


 息を整えながら、私は話しかける。


「ごめんなさい、い、いきなりで。まだ、病気が残ってるみたいで……。 大した病気じゃないんだけど……」


 三上さんはゼ―ハー、ゼ―ハーとすごい息切れを起こしていた。

 お互いの息が整ったところを見計らって、話しかけた。


「ところで三上さん」

「は、はいぃ! な、なんでっ、しょうか!」


 すごい驚かれたけど、構わず話を続ける。


「どうしてここが空き教室だって分かったの? まだ私、把握出来てなくて……。 全力疾走でここまででしょ? どうして?」


 畳みかけるように質問する。


「そ、そんなに一度に言われたって……。 も、問題でもありますか?あ、あるなら言ってくれても構いませんけど、無いならその方がいいかなって、個人的にはそう思ってるからそうでいてくれると嬉しいなぁ……なんて」


 少し間が空く。頬を赤らめながら喋った三上さんは、私に向き直って言った。


「な、なんて思ってませんよ!」


 人指し指をビシッと向けて言われた。


「う、うん……?」


 何だか、訳が分からない。ちょっと困ってしまった。


「ところで、話変えるけど。何の為に呼び出したの?本屋さんで雑誌読みたいんだけど」

「あ、そうだったんですね。邪魔しちゃって……」

 申し訳なさそうに三上さんが頭を下げる。


「い、いいよ。時間はたっぷりあるから」

「なら、一緒に帰りませんか?」


 三上さんがそう提案してきた。


「いいの?」

「付き合ってもいいですよ、本屋さん。私も見たい本があるんですよ。ラノベの新作なんですけどね、ラストが衝撃的で本当にびっくりしたんですよ!まさか、あんな最後になるなんて私も本当に思ってなかったですし―――」


 ヒートアップしていく。タイミングが掴めなくてどうしたらいいかわからない。そうこうしているうちに、お昼の時間になってしまった。


「ありがとう、四宮さん。結構楽しかった!」

「良かった、良かった」


 書店を出ながら三上さんがお礼の言葉を言ってくれた。嬉しかった。


「では、お礼に」

「?」

「二つ名を授けよう!」

 二つ名……?

「ごめん、全然わかんない」

「四宮だから、死のしみこ。……かっこ悪いな。でも、いい顔してるよなぁ。舞台女優みたいな……」


 あぁ、これは、うん。話聞いてないな。そう思いながら見守っていると、ふと、三上さんの目線が鋭くなったように思えた。


「……っ、ビビッと来たぁ!」

「思い付いた?」

「ああ! 死の舞台と書いて、死の舞台デス・カーニバルと命じよう!」

「ほぉ~」


 パチパチパチパチと、拍手する。いいセンスだ。


「気に入ったよ、その名前」

「ありがとう。嬉しいな、褒められるの。初めてじゃないけど、やっぱ……嬉しい!」


 満面の笑みでそう言ってくれた。褒めて良かったと思う。


「電車来ちゃうかもしれないから、今日はここまで。また会おう、デス・カーニバルよ! とおっ!」


 三上さんは空を飛ぶようなポーズで走り去っていった。飛ばないんだ……。


「かーえろ」


 明日から、楽しい学校生活が送れるような気がした。


「三上さんって、中二病、なのかな?」


 人の事をもっと知りたい。こんな事を思ったのはいつ以来だろう。

 そんな感情を抱えながら、私も家に帰るのだった。


 




 

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