第5話 コーヒーの触感

「んっ…」


 通りが見える喫茶店の片隅。コーヒーを飲みながら身悶える。

 いたしたあと、感触が長く体に残ってしまう。ひどい時は何日も。

 男のくせに敏感なんだね、女の恰好しているから?と言われる。


 それはそれとして、なかなか厄介な体質だ。とくにふとももとか背中のほうが残りやすい。丁寧に触られたその道筋。いまだってほら、スカートの衣擦れがあの快感を呼び覚ます。


「ん…」


 耳責めはたまらなかった。甘噛みされたり少しずつ舐められたり。私を愛撫する男の切ない吐息と水の音がリアルで…。


「あっ…」


 鎮めるために喫茶店に入ってるのに、思い出してどうする。頭を切り替えるために遠くを見る。朝の街は少しずつ働き始めている。行き交う普通の人たちが普通の仕事を始めていく。普通じゃない僕から見られて、君たちはどう思うのだろう。


 女の代用品。女が持つガードより低くて、だいたい女と同じ反応を返してくれる便利な代物。僕のポジションはそんなものだ。それでも嬉しく思う。こんなド変態の体を使っていただいてありがとうございます、としか思えない。


 最初の人は先生だった。君の旦那さんにはなれない、とふられた。あれから何年も経つけど、いまになって思う。そりゃ本物の女じゃないものな。代用品が本物に勝てるわけがない。


 かわいいもの、きれいなものを身にまとい、精一杯男の気を引こうとする。女にしてくれとせがむ。なんでもする。そして抱かれながら僕は女なのだと言う事実に打ちのめされる。男なのに。これの繰り返し。その繰り返しに沈んでいく。


 男の皮を着せられた女。その嫌悪感、醜さ。ドロドロに溶けたモンスター。それが自分。


 オトコの娘は、汚くて、気持ち悪くて、打算的で、堕落的だ。それに苦しんでる。人はそれをかわいいと言う。


 やだな、なんか、そういうの。

 すっかりぬるくなったコーヒーを飲み干す。

 少し収まってきた。自分への嫌悪感も。


 これなら歩いて行けるだろう。どうにかなんとか。

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