第6話 ブンカの違い

 西暦二XXX年──


 地球人は銀河系に存在していた〈地球外生命体〉つまり宇宙人との接触に成功していた。

 宇宙船に乗った地球側の調査員は何度も宇宙人の住む惑星に行き来し、それぞれの文化を伝え理解し合っていった。


 そして今日、互いの親交をより深めようと宇宙人側の使節団を地球にある一流ホテルに招き、各国歓迎のパフォーマンスを披露する親睦会が開催されていた。


「それでは、次は日本が誇る伝統芸能をお見せ致します」


 司会を務める首相が自動翻訳機を使って、ホールに集まる宇宙人たちへ説明した。


 すると舞台袖から、隈取を施した歌舞伎役者が現れた。その姿に宇宙人たちは一斉に感嘆の声を上げ、場の雰囲気は次第に盛り上がりを見せた。


 その後も演劇は淡々と進み、無事に終演を迎えた。

 最後に役者達が揃って舞台に並び、宇宙人たちへ感謝の挨拶を始めると、最前列に座っていた宇宙人の一人が長い腕を大きくしならせ何かを投げつけてきた。

 あまりのスピードに反応が遅れた役者の頬を、その何かがかすめた。


 役者の頬から一筋の血が流れ出すと、それを機に他の宇宙人たちも腕を振り上げ、一斉に何かを投げつけ始めた。


 何を投げつけているのかは全く見えないが、そのスピードと壁や床に当たった時の鈍い音からして、それはまるで弾丸のようにも思えた。


 突然の出来事に辺りは一気に騒然となり、舞台に居た役者達も命からがら舞台袖へと逃げ込んだ。中にはそれが腕に当たり血を流す者までいた。


 首相は真っ赤な顔で使節団の隊長に詰め寄った。

「一体どういうつもりだ! これは我々への敵意と受け取ってもよいのか!」


 しかし使節団の代表は質問の意味がよくわからないといった様な態度を見せ、こう言った。


「そうではありません。我々は日本の文化について必死に勉強してきました。その時資料にはこう書いてありました。日本ではこのような舞台を見終わった時、この国で使われている硬貨を舞台へ投げ込む〈おひねり〉という文化があると」


 首相は唖然としながら振り返り舞台を見ると、そこには壁や床一面に大量の日本硬貨が突き刺さっていた。



    

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