第二話 少年、平野平秋水と邂逅する(8)
少年は目の前の大男を見た。
そこに、今まであった尊敬の念はない。
あるのは、憎しみと怒りを内包した子供だった。
ただ、その気迫は普通の大人なら気後れするほどの気炎だった。
「どうも、おかしいと思ったんだよ。あのマンションで出会った時、俺のことを『ナタニエフ』と言った。表札には『平野平』と書いてあったはずなのにも関わらず……だ。しかも、俺の本当の家は県指定の文化財で知っていりゃあ、そっちに行った方が格段に楽だ」
沈黙を守る少年を無視して秋水は続けた。
「つまりは、お前は俺がナタニエフの兄貴と同一人物だと知らなかった。そこで思い出した……最近、俺が解決した事件で同じ土井姓の奴がいた」
土井は唇を噛んだ。
「土井哲郎。カラーギャングの一人で組織内のナンバーツー。喧嘩の腕も知能も人格も多くの仲間から慕われていた。実際、カラーギャングに入った訳も病弱な母と弟のためのバイトという感覚だったらしいな」
秋水は言葉を止めて、少年を見た。
うつむいて表情は見えない。
「そこに内部抗争が起こった。最初は簡単な事故だったが責任の押し付け合いになり
最終的には全責任を取ってお前の兄貴は自殺した……俺は、母親からの依頼で奴らを痛めつけて警察に突き出した」
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