第二話 少年、平野平秋水と邂逅する(7)

 少年は、警察が入ってきた後、気を失った。

 ただ、黒い世界にぼんやりといた。

 何もかも忘れて闇に漂う。

 静かで暖かい闇。

 不安はなかった。

 

「おい、いい加減に起きろ」

 横の何かが揺さぶってきた。

 そこで少年は目を覚ました。

 まだ、脳がぼんやりとする。

 横には大きな丸太の様な太い二の腕があった。

「ナタニエフさん?」

 うつらうつらする目で土井は仮面の男を見た。

 自分のいるところは埠頭の先端でコンクリートの縁にナタニエフ(兄)と土井少年は横に並んで座っていた。

 前を見ると日の出で、太陽は水平線から半分だけ見えた。

――なんだか、凄い冒険をしたようだ。

 土井は周りを見た。

 朝も早いが、後ろの港には数人の釣り客がいた。

 サラリーマン風の男もいれば、本格的な装備をした人もいる。

 まだ、横にいる男に修行を付けてもらってから半日ぐらいしか過ぎていないが、土井は、このナタニエフ(兄)のことがとても魅力的に映った。

 少年が欲しいものを、この男は全て持っていた。

 だが、そんな敬意の念で見る男はこう言った。

「もう、そろそろ、俺の顔を見るかい?」

「え?」

 返事を待たず、ナタニエフ(兄)は後頭部にある留め金を外した。

 ホッケーマスクの下から出てきたのは、五十歳前後の男の顔だった。

「よう、久しぶりだな」

 その言葉も意外なものだった。

 土井の表情が絶望になり、次に怒りに変化した。

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