第二話 少年、平野平秋水と邂逅する(5)

 土井は息を飲んだ。

 不良リーダーの胸に銃口が押しあてられ、ナタニエフ(兄)の太い指が引き金にかけられている。

「何が……望みなんだ!?」

 リーダーは恐怖に震えながら目の前の男に聞いた。

 ホッケーマスクをして表情は分からないがナタニエフ(兄)は淡々と言った。

「ないよ」

「『ない』? 欲しいものはないか? 金か? 女か!?」

「だからぁ、俺には何もないよ」

「俺の親父は有名な国会議員と知り合いなんだ! 欲しいものは何でもやる‼」

「じゃあ、お前の命をくれ」

 恐怖で半ば泣き叫ぶリーダーを言葉でもいたぶる。

 土井を抱えているナタニエフ(弟)は慣れているのか軽く嘆息をする。

「親父にも困ったものだな」

 そうつぶやいたのを土井は覚えている。

 他の不良たちはいつの間にか逃げていた。

 ナタニエフ兄弟、土井、不良リーダー以外、だだっ広い倉庫の中には誰もいない。

「あいつら……」

 逃げた仲間たちに呪詛を吐くようにリーダーは怒った。

「ま、同じ穴の狢だ。諦めろ」

 ちょっと慰めるようにナタニエフ(兄)はついに引き金にある指に力を込めた。

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