第一話 少年、ナタニエフ(兄)と邂逅するという話(9)
――修行の総仕上げ
この言葉に土井は緊張は最高潮になった。
そんなことは全くに気かけずナタニエフ(兄)はちゃぶ台を移動させた。
土井はやることが無く、何となく後ろを振り向いた。
街が夕暮れ色に輝いていた。
その優しい光は少年の記憶を呼び覚ます。
思えばあの事件以来、どれだけ時間が過ぎたのだろう?
感傷に浸る少年の前にナタニエフが立ちふさがった。
「立て」
その声は今までとは違い冷たく感じた。
ただ、必要最低限のことだけ口にする。
「は……はい」
表情は分からない。
マスクの目の部分から見える目も陰で見えない。
土井少年は立った。
改めてナタニエフ(兄)、秋水の身長に驚く。
今まで見てきたどの大人たちよりも大きい。
その男は不意に今まで着ていたバスローブを脱ぎ捨てた。
少年は驚いた。
男の全身が傷だらけなのだ。
見た事のないものまである。
だが、この『ナタニエフ』を名乗る男がどれだけの地獄にいるのかも見せつけた。
ナタニエフ(兄)こと秋水は土井と同じ目線になるように
「俺を殺す気で、突け」
今までのような、どこかおどけた様な雰囲気の声ではない。
それどころか、目の前の、傷だらけの全裸の男が怖くなった。
目は土井がふざけたり逃げることを許さなかった。
体が恐怖で硬直する。
大型の肉食獣の前に立った時に口から漂う血や肉の臭いまで感じる。
土井は、震える体を無理やり殺した。
ゆっくり、確実に一歩を踏み出し、ナタニエフ(兄)こと秋水の鳩尾に自分の肘を当てた。
長い、長い時間に感じた。
男は言った。
「これで、終わりだ」
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