第一話 少年、ナタニエフ(兄)と邂逅するという話(8)

 土井少年はどんな修行をするか、怖さ半分、興味半分だった。

 だが、ナタニエフ(兄)、秋水が課したのは不動のまま肘打ちの形を維持させた。

「体に正しい型を可能な限り沁み込ませる」

 拍子抜けした。

 ただし、少しでも型が崩れると秋水が有無言わさず、修正する。

 だんだん、肩が痛み出した。

 すぐに肩どころではない。

 体全体が悲鳴を上げる。

 バランスが崩れる。

 立ち上がれない。

 覆面から覗く目は意外にも怒ってはいない。

 無表情だ。

 それが土井を立たせ、肘打ちの型をやり直した。

 やがて、部屋が夕闇に染まるころ。

 体からの悲鳴が消えた。

 全身の筋肉が硬直したように動かない。

 秋水は時計を見た。

 今度は、ゆっくりと土井の体を真っすぐにした。

 自由を得たのだ。

 少年の体は筋肉の硬直から解かれてもすぐには動かない。

「少し、休むか?」

 秋水の言葉に土井はゆっくり頷いた。


 再びちゃぶ台が置かれた。

「何で、肘打ちなんですか?」

 座ってペットボトルのお茶を飲んで土井は聞いた。

 秋水ことナタニエフは答えた。

「そりゃ、お前。拳を作るのにどれだけの鍛錬が必要だと思う? むす………、いやさ、弟だって何年も何年も努力して拳を作った。蹴りもそうだ。未熟なうちに対人でやってみろ。最悪、骨が折れるぜ。その点、肘は生まれついたときから固い」

「………理由聞かないんですね」

「聞いたところで話さんクチだろう? または嘘を付く」

 当たりだ。

「さて、休憩はこれで終わり。残りの時間で修業の総仕上げをする」

 秋水はそういうと立ち上がった。

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