第一話 少年、ナタニエフ(兄)と邂逅するという話(5)

「そもそも、なんで、居場所が分かった?」

 少し声に威圧をかけながら秋水は、少年にペットボトルのコーラを投げ渡した。

 少年は器用に受け取った。

 それだけで秋水はある事に気が付く。

「お前、野球やっているのか?」

 名前すら名乗ってない少年を誰何した。

「分かるんですか?」

「受け方がほかの奴より上手かったからな」

 その言葉に少年は少しはにかんだ。

 これで気分がほぐれたのだろう。

 少年は名乗った。

「僕、土井順平と言います」

「何で、俺の居場所が分かった?」

 秋水は同じ質問を土井にした。

「電車の音です」

 その時、背後で新幹線の通る音がした。

「これです……以前、柚餅子を作る時にナタニエフさんが『うっせーなぁ』と言っていたのを思い出して……親戚に電車オタクがいたので聞いてみたら、あの時間、干支線の音が聞こえるのはこのへんだと聞きました。あと、ナタニエフさんの動画でベランダに褌があったのを見つけました」

 秋水は仮面の下ので舌打ちをした。

――石動め……

 秋水の想像で石動が笑っているような気がした。

『いつもやたらむやみに厄介事に引っ張るんだから、たまには俺の身にもなってください』

 と、目の前に数枚の千円札に百円玉などが置かれた。

「僕の全財産です。足りないのは分かっています……」

 土井は土下座した。

「僕を最強にしてください‼」

 秋水はため息をついた。

 よくある言葉だ。

 しかし、次の言葉で出したシガーボックスから取り出したピースを潰しそうになった。

「今夜八時までにお願いします」

 確かに、『自分を強くしてくれ』というものは秋水にとって聞き慣れたものだった。

 辟易しているのも事実だ。

 己の未熟さの克服やら復讐やら……

 それを否定する気はない。

 ただ、持続させる努力が必要だ。

 実際、自身の子供である正行は地味な課題をちゃんとこなす。

 辛く、厳しい修行を課す秋水の父であり、正行の師匠である春平も「普通の子供なら泣きごと言って辞めるのに、大人と同じことを課してもやるからエライよ」と何時か言っていた。

 ついでに「まあ、あの努力が学業に向くともう少しいいんだけど」

 その父も半年ほど前に癌によって他界した。

 秋水は仮面の下で考えた。

 そして、結論が出た。

 その間、約三分。

 このインスタントラーメンが出来るほどの間に土井にとっては永遠にも感じる長い長い時間だった。

「いいよ」

 秋水は発言した。

 

 残り時間は六時間を切っていた。

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