第5話

また長い待合室での時間を過ごした後、中野先生と対面した。

「ああ上杉さんこんにちは。どうぞおかけください」

そう促されて椅子に腰掛ける。

「今日から治験を始められるということでよろしいですか」

「はい。よろしくお願いします」

啓治は頭を下げた。先生はマスク越しにニコリと笑った。

「まあまあ、そんなかしこまらないで下さい。ところで現在のところ症状はありませんか」

「そうですね今のところはほとんど……。何かあったかな」

「まあ論文による一般的な経過ではまだ何の症状もないことが多いようですね」

「ああそうなのですね、よかった。私も今のところは大丈夫そうです」少し安堵の気持ちを覚える。

「それはよかったです。では今日からこの薬を毎日一錠ずつ服用していただくことになります」


そう言って渡されたのは一見ラムネ菓子のようにも見える錠剤だった。1シート10錠入りのものが3シートで1ヶ月分の薬だ。

「くれぐれも飲み忘れはないようにお願いしますね」

「はい、分かりました」とそれを受け取る。

「何か、治験について質問や聞きたいことなどありませんか」パソコンに向かって何かを打ち込み終えた中野先生が啓治に尋ねた。

「あの、副作用とかってどうなっているんでしょう」前回から少し気にかかっていたことだ。

「ああ、副作用についてはですね、薬剤としての安全性は第一相臨床試験、まあ簡単にいうとこの前段階の試験で確認されています。ただ、長い時間服用していく上でどうなるかというのは正直私たちにも分かりません」

「なるほど」

「まあその場合も上杉さんの意思でいつでも止められますので、ゆっくり観察していってもらえばと思います」

「はあ、分かりました」

「ああ、それとですね、このお薬なのですが服用し始めてから効能が出るまでにしばらく時間がかかります。その間に頭痛、腹痛といった症状が出てくることが報告されていますので、痛み止めも処方しておきますね」

「そうなのですね、分かりました。ありがとうございます」

「ではまた1ヶ月後、お大事に」

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