第4話
玄関のドアを開け、「ただいま」と声をかけると、リビングから理恵が顔を出した。一時期と比べると、少しは顔に覇気が戻ってきてはいる。だが今、この病院での出来事を言って余計な心配をかけたくはなかった。
自分の書斎に入り、病院でもらった資料を開いた。表紙には【エガルモンテ・ディビジ・ラマリエ症候群の治験について】とある。ピラリと表紙をめくる。【この疾患は原因・発症機序・増悪因子・寛解因子・経過・治療などまだまだ分かっていない新しい病気です。症状としては腹痛、頭痛、腰痛、胸痛、動悸、立ちくらみ、耳鳴り、筋肉痛、全身倦怠感、下腿浮腫。進行すると息切れ、呼吸困難などが生じてきて場合によっては……】
つらつらと書かれた文章に読んでいるだけで頭が痛くなった。あまりこう言った書類に目を通すのは得意でない。だがとにかく放っておいて良いことはなさそうだ。さらさらっと重要そうな部分だけ目を通す。
資料から啓治が得た情報は、とにかく色々な症状が出て段々と進行していくであろうこと。その治療はまだ確立しておらず、それの効果を見るための試験であるということ。治療の料金は保険がきき、安く済むこと。辞めたいといえばいつでも自分の意思で辞められること、だった。
ガンでも何でも早期発見と早期治療が大事であるというのはテレビや新聞で何度も見たことがあった。何でも、早い段階で見つかれば様々な治療の選択肢があり予後も良いが、それが遅れると出来る治療は限られ、手の打ちようがなくなることもあるらしい。そのために会社で毎年のように健康診断を受けているのだ。実際に啓治の部下も早期の胃がんで見つかり、内視鏡での治療を受けたようだ。
このまま放っておいて悪化し、理恵に心配をかけるのは避けたかった。治験に参加する以外に治療をする術もないのだ。参加するのが最善の策に思える。
よし。そう決めると気が変わらないうちに先ほどまで訪れていた病院に電話を入れ、参加の意思を伝えた。
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