第4話 一人でも家族、一人でも幸せな家を作れる

多分、みんなも同じような盲点があっただろう。


家族って言うと、複数の人が集まってから作れるものだと思うかもしれない。だから、最低限でも二人は必要だ。


だけど、生まれてからずっといた家庭からこれほどの苦痛を与えられたら、残りの人生もこのままだと、きっと耐えられない。


この家から出るために、誰かと結婚するつもりはないけど。他人をこんな目的で利用したくなかった。


だから、私は決めた。


一人でこの家から出て、この家族から抜けて、一人で自分が幸せなれる家を作ればいい。そして、自分自身の家族になる。


そもそも、皆は一人でこの世に生まれ、この世から去っていく。誰よりも自分と過ごす時間が一番長い。だから、自分自身が幸せにならないと、この先誰と家族になろうとしても、きっと幸せにならない。


意外と、決心がついたら、物事がスムーズに進められた。


今まで何度もこの家を離れることを考えたが、中々実行しようとしてもできなかった。この家族に対する未練はあったか、それとも母を置いていくのは後ろめたさがあった。だけど、自分が壊れる寸前の今、離れないならきっといい未来がない。自分がいないから、母はもう怒らないし、目障りが消えたら楽になるでしょう。お互いのために、こういう選択は正しいと思った。


今の収入のまま、一人暮らしはちょっと厳しいので、まずは転職活動を開始した。幸いなことに、新しい仕事を見つけて、給料も前よりだいぶ上がった。何よりも、新しい仕事は自分の趣味とスキルにより合致したので、働くことは以前と比べてもっと楽しくなった。


次は新しい家を探すことだ。一人暮らしにとっていい部屋がたくさんあっても、職場の位置も考えなければならなかった。そして何よりも、今の生活圏から離れることが重要だった。近くにいると、家を出る意味がなくなるから、できるだけ今の家から遠く離れていくべきだと判断した。


そしたら、部屋をやっと見つけた。


もちろん、今住んでいるところと比べたらはるかに小さいけど、一人暮らしには最適で、周りもいろんな設備や店が充実し、とても便利な場所だ。スペースが前よりないので、あまり使っていないものをレンタル倉庫に預けることにした。荷造りと荷物を倉庫に送ることはできるだけ秘密に進めていて、家族にはバレないように必死だった。まるでスパイみたいので、スリル感でハラハラドキドキした。


ようやく、この家から、この家族から出てくる日が来た。


前日の夜、私は自分がここまで準備できたことに感心した。よくできたね、よくバレなかったね、よくここまで我慢できたねと自分に言い聞かせた。ようやく出ることが出来たね、ようやく自分が自分の家で心から笑える日が来られるね。これって本当に想像もできなかった。


もちろん、その反面では、家族のことを心配した。まあ、私がいなくても、ちゃんと生きていけると思うけど。それに、私は今まで通り母の生活費を払うつもりだし。だから、私が母を見捨てるっていう嘘を拡散されても、実際にそうしなかったから何を言われても構わなかった。ちゃんと自分を守るための証拠もあるから、平気だ。


ただ、激しい反応がぶつかってくることを想像すると、何となく怯えていた。まさか、私が本当にこの家を先に出るなんて。まさか、私はこういうことが出来るなんて。多分、向こうがすごく裏切られたと感じてるだろう。


一々そういうことを気にしなくてもいいよ。これから、自分のために、自分を幸せにするために生きよう。


案の定、予想してたこと全部的中だった。今まで以上の激しい罵声に浴びられて、それでも私は振り向かずに家を出た。


これからは本当に独りぼっちになったけど、なんだか心がとても穏やかで、未来へ対する希望が満ち溢れていた。

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