ガトーショコラ

「我々は資本主義社会の奴隷だと思うんですよ」


「急にどうした」


 椎和が怪訝そうに私を見る。三人ともクリスマスに予定がないので持ち寄りでパーティーをしようという事になったのだが、桑悟が持ち込んだシャンパンを飲み、いい気分になった私はいつもより饒舌になっていた。


「クリスマスだバレンタインだハロウィンだ、果てはイースターまで祝おうとしている輩も結局は企業戦略に踊らされているだけではないか。国民の何%がキリスト教徒だと言うのだ」


「めんどくさい酔い方してるね」


「チキンもオードブルも人一倍食べてたくせにね」


 双子は呆れたように顔を見合わせている。知った事か。日本には八百万の神々がいるのにこれ以上神を増やしてどうする気だ。私は手酌でシャンパンを注いでグビグビ飲んだ。


「あ…結構高いやつなのに…」


「その上、飲み会やらパーティーに参加しない人間への圧も酷い。クリスマスに一人でいる事の恐怖に震える必要など全くないのに、クリぼっちなんて言葉まで生み出しおって。なんだあの同調圧力は」


「会社で嫌な事でもあった?」


「別に」


 ただちょっとしつこく誘われて断ったらちょっとしつこく圧をかけられてちょっとしつこく嫌味を言われただけだ。

 大して親しくもない人達の集まりに参加したところで壁の花か椅子のシミになるだけだ。


「ケーキを食べるぞ」


「まだ食べるの?」


 私は桑悟の呆れた声を無視してシャンパンの瓶を持って立ち上がった。残り少なかったので瓶から直接煽っていると、後ろで桑悟の「あああああ」という悲しげな声がする。


―ケーキ…


―ケーキ…


 すうがウキウキしたように近くを漂う気配がする。私は酔いも手伝ってついそっちに意識を向けて話しかけた。


「ケーキ食べような〜。ガトーショコラだぞ~」


「誰と話してんの?」


「誰でもない」


 正体が分からないので怪異扱いだが、妖怪かもしれないし、神様か天使かもしれない。クリスマスの妖精ならプレゼントが欲しいところだ。

 6号ホールを豪快に4等分したガトーショコラの一切れを卓袱台の隅に置き、甘い物が苦手な椎和の分まで食べた私は、そのまま炬燵で眠りについた。


 翌朝起きると喉がカラカラで、ガンガン痛む頭の脇には酒瓶が転がっていた。酒瓶の口には小さな柊の枝が挿し込まれていて、青々とした葉が眼に眩しく映った。

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