双生児
縁側で目を覚ますと平坦な表情の同じ顔が両側から私を覗き込んでいた。怪異ではない。近所に住む幼馴染みの双子だ。両親が居なくなってから時々私の様子を見に来る。
「風邪引くよ」
「不用心だね」
人の顔を覚えるのが苦手なので、顔だけ見ているとそっくりな一卵性双生児は見分けが付かないが、私は声で聞き分けた。
同時放送ではあったが、風邪と言った方が椎和(しいな)で不用心と言った方が桑悟(そうご)だと分かった。椎和の声はやや硬く桑悟の声は少し柔らかい。
「椎、桑…」
『その呼び方やめて』
二重音声で嫌がる彼らは子供の頃から散々「シーソー」とからかわれうんざりしているのだ。猫の仔のように三人一緒に育ったが、別段艶っぽい関係にもならず今に至る。
草食どころか植物なのではないかと彼等の親も心配しているくらいだ。実際彼等は上背はあるもののひょろりとした痩せ型で動物めいた生気はあまり感じられない。
三人ともぼうっとしているので、幼稚園の頃は部屋の隅に気配もなくじっとしていると、行方不明になったと先生方によく捜索されたものだ。
「今日はどうしたの?」
「お母さんが温泉旅行に行ったからお土産持って行けって。温泉饅頭」
「ついでに様子見てこいって」
「いつもすまないねえ」
『おばあちゃんか』
ステレオ放送の突っ込みを聞きながら、お土産の包みを受け取りお茶を入れる為に立ち上がった。
―おまんじゅう…
―おまんじゅう…
「はいはい。今あげるから」
「また何かいるの?」
独り言を言う私に椎和が尋ねてきた。子供の頃から一緒にいる彼等は私が何かを聞いているのを知っていて、だからといって否定もせずに受け止める希少な存在だ。
「いるようないないような…」
食べ物を置いておくといつの間にか消えているので、私が一人で食べてしまっているのでなければ、其れは居るのだろう。
「ふうん…」
それ以上追求する事も無く流した彼は、縁台に座って欠伸をした。釣られたように桑悟も欠伸をする。
「確かにここは眠くなる…」
私は卓袱台の隅に温泉饅頭を二個置いて、ウトウトし始めた双子の間に座り、日向ぼっこをしながらお茶を飲んだ。
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