迷い猫
その優雅な白い猫は、時々我が家の縁側の軒先を訪れる。
首輪もしておらず飼われている様子もないので、猫さえ良ければうちでお世話しようかと思ったのだが、人懐っこく近付いて来るのに捕まえようとするとスルリと逃げてしまう。
今日もやってきた猫は、縁側の沓脱石の上でニャアと細く鳴いて声をかける。私が出ていくと、ゴロゴロ喉を鳴らしながら下ろした脛に纏わりついてきた。
「ぶらさん…うちの子にならない?」
ぶらさんとは暫定的な猫の呼び名で、真っ白な外見から、シートン動物記『狼王ロボ』の奥さんのブランカ(白)から名前を貰った。
こうして口説くのは何回めだろう…。しかし猫は喉を鳴らすのをやめて、蜻蛉を見ている。
―モナカ…
―たべたい…
すうがご近所さんから貰った最中を狙っている。猫に怯える様子はないが、ぶらさんの方は警戒するように耳をピンと立てている。
私は縁側に茶器を用意して、戸棚から最中を取り出した。1つは皿の上に載せて視界の隅に置き、1つは自分で包装紙を剥く。
すると、ぶらさんが急に動いた。素早い動きで皿の上の最中を奪い、包装紙を喰い破り最中を噛り始めた。正確には薄皮を剥いで餡を舐め始めたのだが、猫が餡を食べるとは…。
今までお行儀もよく、煮干などあげても少量齧るだけだったぶらさんにしてみたらかなりの暴挙だ。
―あ…あ…モナカ…
菓子を奪われたすうの悲しそうな声がしたので、私は家の中の卓袱台の隅に残っていた最中を置いた。
―ゆるさない…
―ゆるさない…
食べ物の恨みは恐ろしいというが、あれからすうはぶらさんが来るたびに、尻尾を引っ張ったりしているようだ。ぶらさんもすうの気配を感じると背中の毛を逆立てて低く唸るようになってしまった。
「君たち仲良くしなさいよ」
私はぶらさん用に砂糖の入っていない餡を皿に盛りながら、日向ぼっこをする為に縁側に向かった。
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