お赤飯

 毎月、月初めには赤飯を炊く。

 陰暦では、朔日を月の始まる日「1日」とし、月の始まりは「月立ち(つきたち)」が転じて「朔日・朔(ついたち)」となる。

 無事に過ごせた1か月を感謝し、 また新しい月の無事を祈るのだと母が言っていた。


―おせきはん…


―もちもち…


 すうがそわそわと周囲を漂っている。

 私は洗って水に浸けた餅米に、煮ておいたささげを汁ごと加えた。

 餡は苦手だが豆は好きなので祝事がなくても良く作る。


 ささげは、不溶性食物繊維が多く便秘の改善に役立ち、ビタミンB群が豊富で、ストレスを和らげる働きのあるパントテン酸、葉酸を含み、さらに、抗酸化ビタミンであるビタミンEも含むので、動脈硬化、皮膚や血管の老化を防ぎ、免疫力を高めてくれると言われている。

 ミネラル、カルシウム、リン、マグネシウム、カリウムも多く含まれるので利尿作用があり、疲労回復や高血圧の予防に役立つ。

 

『赤色には邪を退けたり災いを避けたりする力があるの』


 母は赤飯を作りながらよくそう言っていた。退魔はどうか分からないが、美味しくて健康になれるなんて昔の人の知恵は素晴らしい。


『南天の葉を飾ると良いのよ。防虫防腐効果もあるし、難が転じるって意味で縁起がいいの』

 

 米が炊ける良い香りが家の中に漂う。洗った南天の葉を添えて卓袱台の隅に置き、赤飯を少量盛った皿を裏庭の祠にもお供えに行く。


―おなか…


―ぽんぽん…

 

 縁側の沓脱石でサンダルを脱いでいると、家の中から少々苦しそうだが幸せそうなすうの声が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る