落葉を掻き集めていた。

 お隣の奥さんにまた薩摩芋を貰った為、すうが『焼き芋』と騒いでいた。

 最初焚火で焼き芋をしようと考えて始めたのだが、いくら自分の家の庭とはいえ火を使うと近所から苦情がくる事を思い出して、落葉掃除するだけに留めた。

 

 落ちた枇杷の葉は後で洗ってお風呂に入れようと選り分け、裏庭の大きなヒトツバタゴの近くまでやってきた。

 ヒトツバタゴは俗名「ナンジャモンジャ」ともいい、春から初夏にかけて可憐な純白の花をたわわに咲かせる。まるで枝に雪を降り積もらせたかのような清涼な光景を私達は毎年楽しみにしていた。

 紡錘状の実は秋には黒くなるが、食用ではなく鳥もあまり食べない。生り物の木ばかりの我が家では珍しい。

 

 葉が落ちた木を見上げていた私は、ふと、その裏の根元に小さな祠があるのを見つけた。

 高さ50cmにも満たないその石の祠は落葉に埋もれ風雨に晒され木の陰にひっそりと佇んでいた。

 そういえば父はよく太陽と木に向かって手を合わせていた。朝が弱い私は縁側から父が日光浴をするのをぼーっと眺めていたが、あれは日光浴ではなく祈りだったのかもしれない。


 私は祠の周りの落葉を取り除き、苔を落とした。バケツに水を汲んでたわしで丁寧に表面を綺麗にしていった。

 現れた祠は一つの岩から彫り出されたように継ぎ目もなく、つやつやと滑らかだった。薄れて形はよく分からないが花の紋が刻まれている。

 見ていると清浄な気持ちが満ちて、こんな物が庭にある事すら気付かず茫漠と生きている自分が少し恥ずかしくなった。

 これからは定期的に綺麗にしにこよう。私は集めた落葉を回収用の指定ゴミ袋に入れ、玄関の外に置いた。


 両端を落とし皮ごと塩水に漬け込んでおいた薩摩芋を濡らしたキッチンペーパーで包み、更にアルミホイルに包んでフライパンに入れ蓋をして弱火で焼く。

 完成した出来たてほかほかの焼き芋をお皿に載せ、祠の前にお供えして両手を合わせた。


「これからはちゃんと掃除しにきます」


 そういえば先刻からすうの声がしない。いつも何か食べ物を作っていると煩いのだが、卓袱台の隅に置いた焼き芋にも手を付けなかった。


 翌朝、祠に皿を置きっぱなしだった事に気付いて回収しに行くと、皿の上にはヒトツバタゴの黒い実が数粒置いてあった。

 芋は鴉にでも食べられてしまったのだろう。

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