第7話 面倒な人間

 ゆかりは自分の席に着くと首からマフラーを外し膝の上にかけた。窓側の席は暖房が入っていても寒い。紅葉色をしたマフラーは父からの誕生日プレゼントで、肌がチクチクせず気に入っている。

 父から貰う誕生日プレゼントは毎年必ず紅葉色だ。父は私が秋に生まれたからという理由で紅葉と名付けようとした。だが、母が反対してくれたおかげでそうはならなかった。そんな事があったからといって何故そうなるのかは不思議だが、父は私への誕生日プレゼントは必ず紅葉色と決めている。やはり父は面倒な変人である。


 相変わらず休み時間は教室の隅の方にある自分の席で本を開き時間を潰している。入学当初や2年に進級時のクラス替えがあった直後は声をかけてくるクラスメートもいたが、反応の薄い私とは直ぐに距離を置くようになっていった。

 いつ父の転勤があるか分からない私にとってはいつものことだし、それで良いと思っていた。

 だけど、ここ最近はいつもよりも孤独感が増している。


 「ねえねえ、スキーウエアとかはどうするの」

 「例年、荷物になるから全員レンタルなんだって」

 「なーんだ、残念。親に新しく買ってもらうつもりだったのにな」

 「えっ、ヒロは滑れるの」

 「うん、それなりにね」

 「ヒロがそう言うんなら、きっと上手なんだ。なら教えてね」

 「ずっるい。それなら私もヒロ予約」


 修学旅行が近づき、みんな浮かれているようで最近は特に賑やかだ。聞くつもりはなくてもクラスメートたちのおしゃべりが耳に入ってくる。周囲が楽しそうに賑やかになればなるほど、反対に自分の心は凍っていく気がする。

 グループ編成は先生から決められているし、準備の話し合いの時も別段ハブられているわけじゃあない。ただ、自分と他の生徒との間には見えない壁があるようで同じテンションになることもだけど、その様にみせることも難しく感じる。

 そして、教室の喧騒とは逆にただ一人勝手に谷底に落ちていく気分になる。結局のところ私が一番面倒な人間なんだ。

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