第4話 邪神様LV1 出来る事は神を殺す事(だけ)です

よくみれば、信者たちの中には体の一部が欠損していたり、皮膚が変色してただれている傷病者だらけである。

 もしも神様がいるなら、こういう奴らを救ってやれよ。


 そう思った。

 仮にこの世界に神様がいたとしても、俺は仲良くなれそうにない。


「事情は分かった」

 と邪神たる山中は信徒たちに告げた。


 ―――彼らは自分と同じ、世界の犠牲者だ。


 ならば神となった自分が救わずして誰が救うと言うのだろうか?

 邪悪の化身であるはずの新米邪神は義憤にかられた。

「これ、普通ならうちの上司である神のやるべき事だったんですよね…」

 と邪神といっしょに転移してきた天使が疲れた目でつぶやいた。

 

 邪神とはいえ神は神。

 こうなったらゆるいラノベみたいに、邪神とは名ばかりの良い神様になって、信徒とキャッキャウフフな楽園を作ったり、時には誤解から他民族とバトルマンガみたいな展開になりつつも互いに実力を認めあって手を組むような世界にしていこう。

 そう思う山中。ところが


「あ、ですよ」


 天使から言う。

「なんやて工藤」

「誰が少年探偵ですか。これを見てください」

 天使はステータス画面を指さす。

 そこには



『邪神;LV1 HP;13 MP;13』


 某RPGのスライム並の貧弱な生物が、そこにはいた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 邪神に転生したと思ったら、最弱のような生物になっていた。

 称号詐欺も良い所である。

 もしもこれがゲームで、長い戦いの末にたどり着いたラスボスのHPが13しかなかったら詐欺だと思うだろう。

 それが当の本人ならなおさらである。

「……で、でも曲がりなりにも神なのだから、なにか

 山中は自分のスキルをのぞいてみた。


【スキル;神殺し

 内 容;神と呼ばれる存在を理屈抜きで殺害できる。邪悪な存在に相応しいスキル】


 あったわ。


「そうだよ。たった一つだけのチートスキルはむのうを殺すために使ってしまったよ」

 あの時はスカッとしたけど、どうして俺は願い事を3つにしてくれ。と頼まなかったのか?悔やんでも悔やみきれない。

「何で、こんな無駄な能力を手に入れてしまったのか?とは悔やまないんですね…」

 呆れたように天使が言う。

「いや、必要だろ。あの無能に罰を下す力は。」


 山中は真顔で答えた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

『邪神;LV1 HP;13 MP;13』

『力;1 早さ;3 守備力;5 賢さ;101 運;3』


 これで神と名が付くとは、詐欺も良い所である。

「邪神様。どうされました?」

 おっとりした顔のハーピー(妹?)が言う。

 その表情は崇拝と期待に満ちている。

 そりゃそうだろう。俺だって残業で死にそうな時に『神様助けて!』って祈って神様が出てくれば、自分をこのクソみたいな世界から救ってくれるだろうと期待する。とてもじゃないが『いや、俺はゴミ屑みたいな能力しかないからお前たちを救うなんて無理だよ』などと、無慈悲な事をこの純真無垢な少女に言えるはずもない。邪神だけど。

 だが、出来ないものは出来ないのである。


「うむ。お前たちを助けたいのは山々なのだが…」

 と、彼らの希望はかなえられない事を告げようとする。

『うう…………言いにくい』

 クソ上司が失敗して丸投げされた仕事の尻ぬぐいで御客様に謝罪しに行くくらい気まずかった。


「……どうやら……その……なんだ、私は神を殺す事にだけ能力が特化しているようでな…」

 その言葉に邪教徒たちの顔が明るくなる。

 自分たちがお呼びした邪神様は、この最低な世界を生みだした神を殺せる存在らしい。


 山中は正直に、自分が使える力は神を殺害する事だけに特化している事。

 そして自称神は既に殺害済みである事。

 それにも関わらずレベルが低く、他の生き物を倒すには能力が余りにも低い事。

 それゆえに、誰も助ける事が出来ない事を正直に告げた。

「……すまぬ。私は神を殺す事しか出来ないようだ」

「そ…そんな…」

 絶望的な表情で、目の前の怪物はへたりこんだ。

「神から見放され、邪神様までもダメとなれば、私はどうしたら良いのでしょうか…」

 最後の希望が絶たれて泣き出す者までいた。

 気持ちは分かるが、泣きたいのはこっちである。


 邪神LV1。出来ることは神を殺すだけ。


 新人時代にパワハラ部長から「使えない奴」と言われた事はあったが、自分でも邪神がここまで使えない奴だったとは思ってもみなかった。


 というかHP8って…。

 某RPGのスライムと同レベルの弱さである。

 おまけに出来ることと言えば神を殺すことくらい。

『そんな能力を持っているのは世界中でアナタだけです』

 と、ナビ天使はいうが一芸特化しすぎだろう。

 この世界の邪神とはスズメバチかカメムシみたいな存在なのだろうか?

「腕を失い、国を追われ、神からも見放されておすがりできるのは邪神様だけだと思っていましたのに…」

 屈強そうなオークが娘を抱き寄せると、娘はわっと泣き出した。

 勝手に期待されて勝手に呼ばれた身としては知ったことではないのだが、この世のあらゆる不幸を一身に集めたようなオークが悲しそうに泣いているのを見ると胸が痛い。

 最後の希望を賭けて有りえない奇跡を望んだのに、現れたのはタダの邪神むのうでした。


 これは、あんまりだ。


 山中自身もそう思った。

 神でも仏でも、何でも良いので助けてやってほしい。

「何か良い方法は無いものか…」


 邪神のスキルには回復という概念が無いらしい。

 まあ、ラスボスが回復魔法連発したら戦う方はたまったもんじゃ無いもんな。

 そう思いながらも、彼らの生い立ちを聞いた山中は何とかしたかった。


 だが、山中は何もできない。

 無力だ。

 レベルと言う概念が有るなら、敵を倒せばレベルがアップするかもしれない。

 だが邪神の能力は想像以上に低く敵を倒す前に殺されかねない。

 協力して戦おうにも仲間たちは戦闘どころか日常生活を送るだけでも困難な状態だ。


 逆転できない程の底辺。


 もはや世界から見捨てられ、何の希望も無いまま死ぬのを待つだけの存在となってしまった。

 この13引体のあわれな生き物は、最後の望みも断たれて死んでいくのである。


 そう思っていた時、信じられない事が起こった。




『LVが上がりました』




 

「え?」


 何もしていないのに邪神である山中の体が光り出した。

「じゃ…邪神様。いかがなされました?」

「レベルが…上がったと言われた」

「ええええ!!!!!」

 何もしていないのに何故かレベルが上がった。

 不可解な話である。だが、

『力が2あがった。早さが3あがった』

 実際にレベルは上がり、わずかではあるが、能力がアップする。

 ということは、何か新しい能力でも手に入るのではないだろうか?

 そう思った山中の予想は当たった。


『邪神は新しいスキルを覚えた』


「よっしゃあああああああああああああああああああああ!!!!!」

 やっぱり、異世界転生とくればご都合主義なチート能力か反則級のチート能力だろう。

 テンプレとか馬鹿にしてごめんなさい。やっぱり王道は最高!山中は何かに感謝したい気分でいっぱいだった。(ただし、むのうは除く)

 さあ、回復能力か凶悪なスキルよ来い。

 そう思った邪神たる山中に以下の言葉が響いた。


『邪神は『疫病散布』のスキルを手に入れた』

『邪神は『生贄吸収』のスキルを手に入れた』

『邪神は『肉体改変』のスキルを手に入れた』



「邪神様。どこへ行かれるのですか?」

「ちょっと、この世界のむのうクズに抗議しに…」

 ――少しでも期待した俺がバカだった。

 そう、邪神は自嘲した。

 世界はどこまでも弱者に厳しく、わずかな希望ですら嘲笑うあざわらうような仕打ちをしてくるのであった。

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