第5話 医療器具が欲しかったのに竹槍と核ミサイルが来た
『邪神;LV2 HP;26 MP;26』
『力;2 力;16 早さ;6 守備力;10 賢さ;101 運;6』
『スキル;神殺し、生贄吸収、肉体改変、疫病散布』
「理由は不明だがレベルが上がった」
その言葉に落胆していた教徒たちの顔に希望が灯る。
「それに伴い新しいスキルを3つ覚えた私だよ」
某低予算番組の言葉を引用しつつ、山中は
【生贄吸収】
邪神への供物として捧げられた生贄の能力とスキルを命ごと吸収する。
本人の意思は関係なく、信者によって祭壇にささげられた時点で生贄の命は邪神の所有物となる。ただし、生贄として一度に吸収できるのはLV×5体までである。
【肉体改変】
全ての生命の肉体を弄ぶ邪悪の極地となる業。体中にコブやがん細胞を作り出したり、二つ以上の生命体を同化させ二つの意思を一つの体にして弄ぶなど、神の与えた命を冒涜する最高の御業。10対以上の肉体を繋げてコープスやレギオンなどを作成すると恒常的に絶望と悲哀が手に入る。※射程はLV×1m。人数制限なし
【疫病散布】
あらゆる生物に効く疫病を創造し、散布する事が出来る。神の生み出した生命を種族ごと滅亡させるものから、生命は奪わないが1万年単位で生命を苦しめる万病まであらゆる病気が作成可能となる。散布可能な範囲はLV×LV×1mである。
「使えねぇえええええ!!!!!」
山中は絶望的な気分で言った。
先ず、生贄吸収。
これを使えばレベルは簡単に上がりそうだが、傷ついた信者たちでは供物など狩れそうにない。
というか仮に可能だったとしても「取れたての生贄です」などと何の罪も無い生き物を捧げられても困る。
倫理的な問題で使えないスキルである。
次に肉体改変。
生き物の肉体をくっつけたり切断できるJ●JO第二部の特殊能力のような技術であるが、そんな人数相手にしたら命を冒涜する前にこちらの肉体の方が冒涜されそうである。邪神と言っても山中はLV2の雑魚モンスターである。
要は強者が弱者を弄ぶための業であり、弱者が弱者に立ち向かう時に覚えてもあまり意味がない。
「狩りとかに利用できる射撃とか飛び道具技系のスキルの方がよっぽど役に立ちそうだな」
と落胆気味に邪神はつぶやいた。
そして最後の疫病散布。
使い方によっては地上の生物全てを死滅させる事が出来そうだが、射程が狭すぎる。レベルが上がってスライム3体分は強くなったが、それでも集団戦になればあっという間にボコられるのは確定だろう。
「まあ、刺し違える覚悟で誰かに感染させれば、十分強いかもしれませんよ?」
「自爆テロじゃねーか」
天使の助言(?)にツッコミを入れる。
射程2mでは散布する前に殺される可能性だって十分ありうる。
仮に長さ3mの槍で戦われたら何もできずに終わる。そうでなくても死ぬのを前提に感染させるしか方法がない。
レベルは上がったが、手に入ったスキルは世界を破滅させるようなモノばかりだった。山中が欲しかったのは信者を救うためのスキルであり、大量殺戮スキルでは無い。
「まあ、邪神ってそういう存在ですからね」
とナビ天使が言う。
「邪神って職業マジ使えねぇ…」
兵器がいくらあっても信徒を救えないじゃないか。
「医療器具が欲しかったのに竹槍と核ミサイルが来てどうするんだよ…」
絶望的な気分で邪神山中はぼやいた。
「だいたい、『あらゆる生物に効く疫病を創造』って、これを町で使えばそれだけで勝てるようなスキルをLV2で取れるっておかしくないか?」
ペストとか1914年のインフルエンザとか、コロナウイルスでも世界中が混乱したのである。医療が進んでないであろう中世ナーロッパ世界なら、その3種類の病気をばらまくだけで世界滅亡くらいできるのではないだろうか?
普通、LV2で覚えるのはちょっとした攻撃魔法か回復魔法程度で、いきなり世界を混乱にまきこむ魔法であってはならないと山中は思った。
「いえ、その疫病散布で私の故郷の住人を皆殺しにしてくれれば、少しだけ気分が楽になります」
と、物騒な事を言い出す半魚人もいたが聞かなかった事にする。
海に病原菌ばらまいても弱毒化する気がするが…
「まあ、病気ってしばらくすると抗体が出来てしまいますから、人口の8割は削れても全滅は難しいでしょうね」
と、天使がなんとか生物絶滅を防ごうと冷や汗交じりに言う。
「そっか。病気にかかっても生き残った人間は抗体ができるんだったな」
どんな凶悪な病気でも、それに勝って抵抗力を付ける生き物はいるらしい。
医療が進めば、そこからワクチンを作って疫病対策が発達するかもしれない。
「まてよ」
もう一度スキルの内容を読み返す。
そこまで考えて山中はある事を思いついた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
邪教徒たちは困惑していた。
突如現れた邪神様が、自分達を助ける存在では無い事を宣言したと思ったら急に
「そこのゴブリンよ。こちらに来なさい」
と言いだしたからだ。
ゴブリンのレオンは、この部族の中で一番戦闘力が高く、皮膚病以外はいたって健康。それゆえに
「……ああ、私は邪神様の生贄となるのですね」
と早合点したのも仕方が無い話だろう。
「しないよ!」
邪神らしからぬ慌てたような声が響く。
「は?」
「…あー、エヘン。わ、我は信者を生贄に求めるような真似はせぬ」
咳払いと共に威厳たっぷりに言いなおす。
「……では、レオンに何をなさるのでしょうか?」
恐る恐る問いかける邪教徒たち。
「欠損した肉体の復元は無理でも、皮膚病などの細菌に関わる病気類は除去できそうなのでな」
そう言うと、邪神はゴブリンの額に手をかざし
「【スキル;疫病散布】」
と、唱えた。
この時、レオンは死を覚悟した。
何しろ【スキル;疫病散布】である。
災厄の化身たる邪神様直々に疫病などをばらまかれたら、死ぬのは確定。
今まで苦しんで来た皮膚病など比較にならない程の苦痛が来るものだと覚悟をして、レオンは目を閉じた。
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