第3話 神から見捨てられた者(邪教徒)たちへ

 人里離れた洞窟の中。

 山中は邪神として召還された場所を見回す。

 最初はおどろおどろしくて恐ろしかった祭壇だったが、落ち着いて見回してみるとみると、その姿はけっこうみすぼらしかった。


 おどろおどろしく見えた洞窟も、単なる洞穴だし、動物の骨のオブジェも石を削って作った稚拙な工作品。

 彼を崇める信徒の数も13人位しかいないようだった。日本のカルト宗教でももう少し信者を集めている。どれだけこの世界の邪教徒は少ないのだろうか?などと山中は思った。

 それに気が付いたのか、司祭らしき男が頭を下げて弁解する。

「申し訳ありません邪神様。ここに居るのは神や魔王からも見捨てられたような者たちばかり。飢えを癒すために動物を捕まえる事も出来ず、このようなまがいものとなってしまいました」

 動物の頭蓋骨を模した木製の仮面を被った司祭は平伏して詫びる。

 良く見れば、その右手は失われている。

 見れば、たった13人程しかいない信徒はいかにも、か弱そうである。


 体が緑色だけでなく赤色で、皮膚病患者のようになったゴブリン。

 羽が破れているハーピー。

 歯が折れ、顎の半分も無くなっている狼のような化け物。

 半魚人らしいのはヒレや腕の一部が欠損している。これでは泳ぐ事は出来ないだろう。

 足が2本欠損したケンタウルスらしき者もいる。


 邪教徒という触れ込みにひるんでいた中山は内心ほっとしながら、素直な感想を心中漏らしていた。

『ここは傷病病棟か何かかな?』と。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ここに集まった者は、皆 怪我や病気で群れを追いだされた者ばかりなのです」


 腕と足を一本ずつ欠損したケンタウロスの司祭は事情を説明した。

 羽の破れたハーピー姉妹はとある群れの長の娘だったが、ある日ドラゴンの子供に戯れで襲われ、片翼を失った。

 空を飛べなくなった彼女は群れについていけず、父からも見捨てられたという。


 ゴブリンも一時は群れ一番の勇士と呼ばれたが、皮膚病に罹ってからはかゆみで実力が発揮できず群れからも病気が移ると迫害され出した。しまいには妻や息子からも『醜い』と嫌われて追い出されたらしい。

 他の連中も同じで、この集落の住人は漏れなく体の一部が欠損していたり病気にかかって群れを追われている。


 そんな魔物を集めて邪神を呼び出そうとしていたのが、この司祭とゴブリンだったようだ。

「私ハ幸セに暮らシていタのに、ちょっトしタ不運デ全てヲ失っタ」

 やけどでただれたような皮膚のゴブリンは、幸せだった日々を懐かしむように言った。

「ダカラ神が憎イ!ゴブリンの神。私の皮膚を醜い色に変えタ!妻子タチ。私ニ石を投げタ!」

 泣きそうな顔でこの世の理不尽について怨嗟の声を挙げる。


 ハーピーの娘も狼もケンタウルスも、ほんの少しの理不尽によって人生(?)を滅茶苦茶にされ、神に救いを求めても叶えられなかった棄民の一人だった。


 ――なるほどな。気持ちは凄くわかる。


 中山は怪物たちに親近感を覚えた。

 邪神を信じるというのは、こうした『』なのである。

 信じる神から見放されたら、その対極――邪神しか信じるモノはないのだろう。

 この世界の神もろくでもないサボリ野郎か、無能に違いない。

 

『やっぱり神は邪悪。この世にいてはいけない存在だな』


 そう中山は決意を新たにした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る