吸血鬼、卒倒する。

矮凹七五

第1話 吸血鬼、卒倒する。

 窓を開け、空を見上げる。

「今日もいい夜空だ」

 漆黒の夜空に煌めく星々と三日月。

 灰色みがかった薄い雲が、三日月の前を横切るようにして流れる。

 窓から入ってきた風が、私の頬をやさしく撫でる。

 気持ちの良い風だ。

「さて、血を吸いに行くとするか。いい女が見つかるといいな」

 これから私は身を乗り出し、空へ飛び立つ。が、その前に……

「ガムでも噛むか」

 この前、町中の駄菓子屋で買ってきた風船ガム。これをズボンのポケットから取り出す。

 風船ガムは銀紙に包まれている。私は銀紙を剥き、中から出てきた紫色の四角い物体を口に放り込んだ。

 ガムをゆっくりと咀嚼そしゃくする。

 葡萄ぶどうのようだが、どこかデフォルメされたような味が口の中に広がる。

 くちゃくちゃという音が口から耳へと伝わってくる。

 充分に咀嚼し、味が薄くなった後、私は口を尖らせ、ガムに息を吹き込む。

 ガムが膨れ上がり、目の前に紫色の大きな風船ができた。

 いい感じだ。だが、そう思った次の瞬間……

 パン! という音がした。

 私の顔に膜状のガムが張り付く。と、同時に鼻の中にが入ってきた。

「うっ!」

 これまでに嗅いだことがない形容し難いにおいだ。

 私は数歩ばかり後ずさりした。

 眩暈めまいがする……

「あっ……あっ……」

 私はふらついた後、尻餅をつき、その場で仰向けになった。

 体を動かそうにも、動かすことができない。

 目の前がどんどん暗くなっていく……



 初めて血を吸った時のこと。

 相手は金髪のグラマラス美女。年齢は二十代後半くらい。

 下着だけのセクシーな恰好で寝ていたな……

 あれは本当に美味かった。その場で舞い上がってしまうくらい……

 その後、彼女は私のガールフレンド第一号になった……

 そして、今でも付き合っている……


 ヴァンパイアハンターと名乗るキチガイに追い回されたこともあったな……

 十字架と袋――恐らく中身はニンニク――を振り回しながら走って来るキチガイ。

 精神病院に行けよ、あん畜生めが。

 もっとも、いい年こいてあれでは手遅れかもしれんが……



 さっきから、過去の出来事が走馬灯のように巡ってくる……

 私のまぶたの中に……



 そういえば、窓を開ける前に飯をたくさん食べたな……

 あらかじめ言っておくが、私は決して肥満体ではない。

 それどころか、BMIは二十を切る。

 だが、そのこととは裏腹に、私は大食漢である。

 グルメ番組やグルメ雑誌、飯テロ動画などを見ると、ついつい食べたくなってしまう。

 食べたものは……焼肉、餃子、ペペロンチーノ、海老のアヒージョ、豚キムチチャーハン、黒マー油豚骨ラーメン……後、何と言ったっけ? あのハート型のスナック菓子……えっと、それから……

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