第6話 佳織との2人きりの食事
2人で笑いあって落ち着いた頃、佳織は剛の前に立ってクルリを回った。
しかし、こういったことに不慣れな剛、なぜ佳織がそういう行動をとったのかが理解できていない。
「何にも言ってくれないんですか?」
しびれを切らした佳織がそう言って剛に催促をするのだが、剛にはその意味が全く伝わっておらず剛はただポカンとしている。
なので、佳織はもう一度剛の前でクルリと回った。
しかし剛からは何もない――なので、
「もう、新田さん。私のこの服どうですか?」
と言われて、剛はようやく佳織の行動の真意を理解した。
そして剛はその場に勢いよく立ち上がると、
「あ、はい! とてもよく似合ってます!」
と、結構大きな声で応えた。
剛のその大きな声で近くのゲームで遊ぶ客の視線が剛と佳織に集中する。
「あ、に、新田さん、そ、そこまでハッキリ言われると……嬉しいのもあるけど、は、恥ずかしいです――」
と佳織がゆでだこになり、頭から煙を出してその場で小さくなっていく。
その二人を見た周囲はというと、
――ちっ! リア充爆発しろ!――
――いまどき、あんなベタなことするカップルいるんだ――
――いーなー、俺も彼女できたらやってもらいたい!――
――他所でやってくれませんかね、他所で!――
こんな具合であった。
まあ、そもそも恋愛に不慣れな2人なのであるからして、何がベタで何が彼らのある種怒りを買っているのかすら理解できていないのが現状なのであるが、まだ恋人にもなっていない2人の空間がそこにはあったのである。
周囲からの視線が集中していることを理解した復活した佳織は、
「あ、に、新田さん……そろそろ、で、出ましょうか――」
と正面から剛の左手を取った。
「へ? あ、そ、そ、そう、ですね――」
と2人はちょっと早足でゲームセンターを出るのであった。
ゲームセンターの入っているバスターミナルを出たところまでは良かったのだが、まだ夕食には早い時間帯。
なのだが、博多駅から離れてしまっても佳織が予約しているところは博多駅ビル内にあるため、2人は一度博多駅ビルに戻ることにした。
博多駅ビルの2階に上がると、佳織が当然という感じでアパレルショップに入っていったので剛も佳織についてショップに入った。
ちらちらと服を見ている佳織を見て、
「伊藤さん、よ、洋服好きなんですか?」
と剛が佳織に尋ねると、1枚のTシャツを広げたまま剛を見て、
「そうですね、自衛官だといつも同じ服装ですから、どうしても洋服には目がいってしまいますね」
と、恥ずかしそうにしながら広げたTシャツで顔半分を隠す佳織。
「そ、そうなんですね――自衛官って、や、やっぱり、大変ですよね?」
と、剛は自分が経験した事のない世界であることもあって、何気なく尋ねてみた。
佳織は見ていたTシャツを畳んで元あった場所に戻すと、
「そうですね、私達の仕事は日本国を守ることにあるので、一般の方から見ると大変そうに映るのかもしれませんね」
「日本を守る――ぼ、僕はそんなこと、考えたことも、ありませんでした――」
「普通ならそうかもしれませんね――でも新田さんのお仕事も実は日本を守ることにも繋がっているんですよ?」
「え、そ、そうなん、ですか?」
「はい。日本を守る、私達の仕事ではこれを『国防』なんて言ったりもしますけど、これは何も自衛隊だけの専売特許ではないんです。色んな仕事が日本を守ることに繋がっているんですよ」
佳織はそう言って、1枚のTシャツを取って体の前に広げて見せる。
「このTシャツだって、もしかしたら海外で作られたものかもしれないけど、でもこのTシャツを日本国内で誰かが買ったとしますよね。1枚だけじゃ何にもならないかもしれないけど、これが何枚も売れると、消費税や会社の税金として国にお金が入ります。その税金の一部が防衛費として自衛隊の活動費に割り当てられるんです」
「あ、だから、ぼ、僕もその一部に、なっているんですね?」
と剛が言うと、佳織はニッコリ笑って、
「そうです。だから日本で働くすべての人が日本を守ることに繋がっているんです。そして私達はその最前線に立っているだけのことなんです。もちろんそういう事がないことに越したことはないのですが、世の中そんなことばかりではないことは歴史が示してくれていますよね」
「ぼ、僕、そんな風に、か、考えたこと、なかったです――」
と、剛が羨望の眼差しで佳織を見つめる。
佳織は剛の視線をうけてちょっと赤面して、
「実はこれ、前期教育隊の時の班長からの受け売りだったりするんですよ」
とちろっと舌を出しておどけて見せる。
けど、剛には前期教育隊とか班長という言葉の意味がよくわからず、その意味を尋ねると、
「自衛隊には約半年間の基礎教育期間があって、私のいる陸上自衛隊では前期と後期を約3カ月ずつ行うんです。で、その前期では部隊行動の基礎教練を行います。所謂集団行動というやつですね。もちろんそれだけじゃなくて軍事的な訓練や武器を使った訓練も行うんですけど。そして、班長というのは、部隊における最小構成である『分隊』を取り仕切る人のことを指すんです」
「そうなんですね――ぼ、僕、まだ頭の中で理解、できていませんが、に、新田さんが凄いところで仕事をされている、という事だけはわかりました」
と、剛はやっぱり佳織に羨望の眼差しを向けるのであった。
一方佳織は、
「そ、そんなことないんですけどね――」
と、手元にあるティーシャツを広げて真っ赤になった顔を隠した。
――私なんかより、新田さんの仕事の方が凄いと思うんだけどな――
その後、佳織は剛に真っ赤になった顔を見られないように顔を隠しながら服を選んでいき、佳織が白生地に黒のグラフチェック柄の入ったノースリーブワンピースを取って広げたところで、
「その服、伊藤さんに似合いそうです」
と剛が言った。
言われた佳織は「え?」とそのワンピースを広げると剛に正対してワンピースを体に当てて、
「似合いますか?」
と剛に尋ねた。
「はい、似合ってます――そうですね、その服に薄いグレーというかベージュっぽいものを合わせると、良いかも――」
と突然流暢な口調になる剛。
その以外な一面に、佳織は剛の言うとおり、近くにあったベージュのロングTシャツを取って、ロングTシャツの上にワンピースを重ねる形で合わせてみる。
「あ、確かにいいかも――新田さん、服選び慣れてませんか?」
と佳織が剛に尋ねると、
「あ、ぼ、僕、い、妹がい、いまして――よく、ふ、服選びに、つ、付き合わされるので――」
と、今度は剛が顔を赤くして答える。
「あ、妹さんが。良いお兄さんされてるんですね」
と、クスリと佳織が微笑んで、剛が選んだ服をもう一度合わせてみて、
「すみません、ちょっと試着してみても良いですか?」
と佳織は剛に尋ね、剛から了承の返答を貰うと、試着室に入っていった。
しばらくして、試着を終えた佳織は試着室のカーテンを開けて剛に見せてきた。
「新田さん、どうですか?」
と、佳織はワンピースのスカートをつまんで広げてみたりクルリと回って後ろを見せてきたり。
そんな佳織を見た剛は、
「はい、よく似合ってます!」
と返答した。
剛からの返答ももらい、ブーツを履いていったん外に出てみて試着室の姿見で全体を見てみる佳織。
一通り見てみた佳織は、試着室に戻って元の服に着替えて出てくると、
「この服、買ってきますね」
と、佳織は会計に行った。
1人置いてけぼりを食らった剛は、手持ち無沙汰になってどうしていいかわからず、あっちきょろきょろ、こっちきょろきょろと小動物のようになってしまうのであった。
会計を済ませて戻ってきた佳織は、そんな小動物な剛を見てクスクス笑い、
「新田さん、お待たせしました!」
と購入した服の入った袋を左上を通して肘で持つと、右手で剛の左手を取って手を繋いだ。
「え? あ、い、伊藤さん――」
「新田さんの服、私が選んでも良いですか?」
と佳織は剛の顔を覗き込んで言った。
「え? あ、は、はい――」
と、剛ははじめ意味が分からずも頷いた。
「じゃあ、こっちです」
と佳織は剛の手を引いてショップのメンズコーナーに行くと、佳織は剛に似合いそうな服を選んでいく。
「新田さん、どんな服が好みですか? 先日の服だとチェック柄でしたけど、今日はカーディガンですよね」
と佳織が聞いてきたので、剛は何も考えず、
「あ、これ、中沢さんから誕生日のプレゼントにと貰ったものなんです」
この一言で、佳織が停止してしまった。
「あ、あかり先輩から――」
と固まったまま佳織が言うと、また何も理解していない剛は、
「この服で、い、伊藤さんと、食事してきなさい、と――」
とありのままを言った。
すると、佳織は停止状態から高速移動で剛に正対すると剛の両肩を掴んだ。
「に、新田さん――わかりました! でも新田さん、これからは私に新田さんの服選ばせてください!」
と、佳織は瞳に炎を燃やしてそう言った。
佳織の気圧された剛は、
「は、はい――」
と頷くだけしかできなかった。
剛から了承を得た佳織は、ブツブツと何やら言いながら剛の服を選んでいく。
そして、茶色のボトムにベージュのロングTシャツ、茶色いニット生地のジャケットを選び、
「すみません、新田さんこれ試着してもらっても良いですか?」
と佳織に服を渡された剛は、「は、はい、わかりました」と試着室に入って渡された服に着替える。
最後のジャケットを羽織ろうとしたとき、佳織から「大丈夫ですか?」との声が聞こえてきて急いでジャケットを羽織った剛がカーテンを開けると、
「うーん、良いんですが……すみません、こっちのボトムに変えてもらっても良いですか?」
と佳織が持っていた別のチノパンを出してきたので、剛は「わかりました」と受け取って着替えるとカーテンを開けた。
「うん、こっちの方が似合ってますよ」
と佳織は満足そうに頷いて、
「あ、でも裾合わせないとだめですね。ちょっと呼んできますね」
と佳織は剛の買う買わないの答えも待たずに店員を呼んできて、剛はその勢いに任せるままに裾を合わせる。
――お金足りるかな、最悪カードかな――
と思案している間に裾合わせが終わり、元の服に着替えてカーテンを開けると、
「あ、新田さん、服預かりますね」
と佳織が手を出してきたので、言われるがまま剛は佳織に服を渡して靴を履いた時にはすでに佳織の姿はなく、きょろきょろと佳織を探していると、佳織が手ぶらで現れた。
「あ、あれ? 伊藤さん、服は?――」
と剛が呆気に取られて尋ねると、
「今日は私からプレゼントです。先日、新田さんお誕生日でしたし、何もお渡しできてませんでしたので」
と佳織がニッコリして当然ですとでも言うように言ってきたので、
「い、いえ、それじゃ悪いです。ぼ、僕の分は僕が――」
「新田さん、私からのプレゼントはイヤですか? この服、あかり先輩から貰った者なんですよね?」
と佳織が目をウルウルさせて上目遣いで見てくるものだから、
「は、はい――お、お言葉に、甘えさせて、いただきます――」
と剛は折れてしまった。
折れた剛に対して佳織はというと、もう満開の笑みで「はい!」と答えたのであった。
裾の直しを終えて、服の入った紙袋を剛が受け取ろうとしたところ、佳織が「私が持ちますよ」と剛の前に入って袋を受け取った。その2人の初々しい光景に店員はにこやかに微笑むと、佳織に紙袋を渡した。
ショップを出てからも剛が荷物を持つといっても
「これは帰るときに渡しますから、それまでは私が持ちます」
と佳織は頑なに聞かないため、結局剛が折れてしまった。
その後、ウィンドウショッピングなどをしながら時間をつぶして、予約時間の午後6時が近づいてきたところでビル9階にある串カツ屋に入った。まだ6時前だというのにすでに結構な人が入っていて、店内には食欲をそそる上げたての串カツの匂いが漂っていた。
佳織が店員に予約していたことを伝えると、4人掛けの個室に通された。
個室に入ると入口の右側に席があり、テーブルの右端は壁にくっついていて、椅子は両側共に固定式のソファになっている。
上座に剛を座らせた佳織は下座に座る。2人の衣服の入ったそれぞれの紙袋を奥に置いた佳織は、手前側に座った。
剛もカーディガンを脱ぐと佳織の目の前に座り、テーブルの上で手を組んだ。
「新田さん、手を見せていただいても良いですか?」
と突然佳織が言ってくるので、「いいですよ」と剛は佳織の前に両手を出した。
すると、佳織は剛の左手を取って自分の右手と重ねる。
佳織の手よりも一回り剛の手の方が大きい。
「やっぱり男性の手って大きいんですね」
と重ねた手をまじまじと見る佳織。
「そうですか? ぼ、僕、何もして、こなかったので――」
と剛が言うと、佳織は剛に微笑むと、
「確かに新田さんって手は大きいけど指は細いですよね」
「そ、そそ、そう、ですか?」
「今日、新田さんと手を繋いでいましたけど、握り心地というのか、感触がとても良くて――」
と言ったところで、佳織と剛の目が合い、2人共赤面してしまう。
「わ、私……いったい何を言っているんでしょうね――」
と剛の手をテーブルの上に置くと手を離した。
自分の手から離れていく細い小さな手を剛は目で追いかけ、佳織は手を離してしまった事を後悔するような表情をする。
その時、
「いらっしゃいませ、本日はご予約ありがとうございます。お料理はご予約いただきましたお任せ串盛り合わせ御前を2名様分でよろしかったでしょうか?」
と、店員が入ってきて、2個のコップとウォーターサーバーを置いて料理の確認をしてきた。
「あ、は、ははは、はい! だ、大丈夫です!」
と、佳織は声を裏返しながら返答したのだが、店員は何事もなかったかのように「承知いたしました」と去っていった。
店員が去って行っても動悸が止まらない佳織。
「に、新田さん、だ、大丈夫、ですか?」
と、剛がコップに水を入れて佳織の目の前に置いた。
「あ、あああ、ありがとう、ございます」
と、佳織はコップの水を一気に飲み干す。
「な、何か――僕と逆転したような声でしたよ?」
と剛はくすくす笑いながら言う。
一瞬ポカンとする佳織だったが、剛の言う意味が分かると、
「あ、確かに、そうだったかもしれませんね」
と笑いだした。
佳織はただお互いの手を合わせていた時から店員に見られていたのかもしれないという事と突然の店員の声と相まってびっくりしただけだったのだが、剛にはそれを理解するにはもう少し経験値が必要なようである。
一方、その頃ホールでは、
「ねえねえ、7番個室のカップル、もうラブラブでさ。入るには入れなくて」
「え!? それは見てみたかったな!」
「ねえねえ、7番のお客さんってちょっと不釣り合いなカップルさん?」
「そうそう! もうね、彼女さんの方がぞっこんっぽいよ。けど彼氏さんの方はまだあんまり。もしかしたらこれからカップルになるのか、お見合いしたカップルなのかなあ」
「へえ! ねえ、次私行っても良い?」
「あ、お任せ御前2つだから、一緒に行こうよ。もしかしたらまたラブラブなところを見れるかもよ?」
「ええ! いくいく!」
「あ、しずちゃんだけずるーい! 私も行きたーい!」
「ネネは後でデザート持っていってよ」
「わーい! かおたんだーいすき!」
「たんはやめい!」
「そお? かおたん、可愛いと思うよ?」
「ええ、なんかさ、たんってオタクっぽくない?」
「あ、わたしオタクだから」
「ネネはね、いいのよ可愛いから」
「やった! かおたんから可愛い貰った!」
「おーい、7番個室さんの料理できたぞー」
「「「あ、はーい!」」」
店員のかおたんとしずちゃんは、剛と佳織の注文した御前をカウンターから受け取ると、7番個室まで運んだ。
その時、剛と佳織はまだ手のことで話をしていて、今度は剛の右手と佳織の左手を合わせて大きいの小さいのとやっていて、
「お料理お待たせいたしました」
と個室に入ると、2人はぱっと手を離して2人共に耳まで真っ赤にしている。
剛と佳織の前に御前を置いたかおたんとしずちゃんは、笑顔で2人をチラリとみると個室から出て行った。
「あ、あれは鼻血ブーなほどに初々しいラブラブっぷりですわ!」
「でしょでしょ?」
「もー彼女さん可愛いし、彼氏さん、ちょっとぽっちゃりだけどなんか小動物というか」
「そうそう! いいよねあの2人!」
「うん、ちょっと彼氏さんにはもったいないかなってくらいの可愛い彼女さんだったけど、どっかで見たことあるんだよな、彼女さん」
「あ、そういえば! 私も見覚えある!」
「なんだっけなー――」
「あ、思い出した! 彼女さん自衛隊さんだよ。この前女性自衛官の一団が来たじゃない」
「あー、あったねめっちゃ食う女子会の一団」
「そうそう、それよ」
「あーなるほど。ってことは? 彼氏さんも自衛隊さん?」
「いや、まさか――でも今日の量じゃ彼女さんのお腹満たされないんじゃないかなあ」
「ってことは、彼氏さんは外の人?」
「かもね」
「ってことは、お見合いカップルかなぁ」
「その可能性高いよね」
「高いね」
個人情報駄々洩れのかおたんとしずちゃんであった――
というか、まだ剛と佳織はカップルにすらなっていなかったりするのだが……
一方、料理が届けられた剛と佳織はというと――
料理を前に2人ともに赤面して固まっていた。
そんな2人に目の前に置かれた料理の匂いが届き、
「た、食べましょうか――」
「あ、そうですね――」
剛が促して佳織が同意して2人が串を一本取って口に運んで一口食べてみると、
「こ、これ、美味しいですね!」
と剛が目を見開いて言うと、
「でしょー? ここ部隊の先輩に教えてもらって、それで新田さんとぜひ一緒に来たかったお店なんですよ!」
と、佳織の表情から恥ずかしさが消えてぱっと花が開いたように笑顔になる。
「こんなお店が、あったなんて知りませんでした」
「あ、でも――ここはあかり先輩には内緒ですからね! 絶対に2人だけで来ないでくださいね!」
「は、はい! 来ません!」
という剛の答えに満足げな表情をすると、にこやかに食事を再開する佳織。
一方、念を押された剛はというと、
――なぜ、そこまで中沢さんと来ちゃいけないなんて言うんだろう?――
女心を全く理解していない剛であった。
そんなこんなで楽しく食事をするうちに、2人共にこやかに話をしていると、ホール係のネネが2人のデザートを持ってきた。
しかし、かおたんとしずちゃんから聞いていた2人とは印象が全く違っていて、
――おかしいな、この2人なんだよね?――
と、まじまじと2人の顔を見るネネ。
「あ、あの、な、なにか――?」
と、剛からドモりながら尋ねられたネネは、
「あ、あはは――なんでもないです。お似合いのお2人だなと思って……」
とネネは慌ててそう繕うと、
「え? そんなお似合いだなんて……」
と佳織がポッと頬を朱に染める。
「あ、あはは――どうぞごゆっくり――」
とネネが去っていく。
剛と佳織が食事をしている7番個室から出たネネはというと、
「あの2人なんだよねえ? でもラブラブなのはわかったけど、初々しいってのはなんかイメージが違うというか――でも彼女さん? もしかしてデブ専なのかな、あの人のルックスならもっといい人良そうなものだと思うんだけど……まあ彼氏さん? はいい人そうだったけど――でも小動物ってのはわかる気がするなあ――」
とブツブツ言いながら戻っていくのであった。
デザートのアイスクリームも食べた2人は食後のまったりとした時間を過ごしていた。
「新田さん、今日はありがとうございました」
「あ、い、いえ。ぼ、僕の方こ、そ――い、伊藤さんのような女性と、い、一緒に、食事させて、いただいて、楽しかった、です」
佳織の屈託のない笑顔に当てられた剛は、自分の顔が熱くなっているのを感じて俯きながらもそう言った。
そんな剛の表情に佳織は頬杖をついてクスクス笑うと、
「新田さん可愛い。私、新田さんとまたデートしたいです。新田さん、また私とデートしてもらえますか? もしまだ、というならお食事だけでも構いません」
と、佳織は頬付けをついたまま、剛にそう願いを告げた。
剛は、そんな佳織を、そして自分のことを「可愛い」といわれたことで、余計に顔に熱が上がってきて、
「あ、あの、その――ぼ、僕の、ほ、方こそ――ぼ、僕で良ければ――」
となんとかそこまで言い切ると、コップの水をグイッと煽った。
「よかった。あの、もしよければ――次は新田さんの行きたいこととか、したいこととか一緒にできればいいなと――だめ、ですか?」
「え? ぼ、僕の、ですか?」
「はい、新田さんの、です」
「えと、その――ぼ、僕――お、女の人が、よ、喜ぶ場所、とか――ぜ、全然、わ、わか、わからない、んですけど――」
「大丈夫ですよ。新田さんの好きなことで良いんです。新田さんの見たい映画とか、そんなことでも構いません。私は新田さんのことを一つでも多く知りたいんです」
「な、な、なんで、そ、そこまで、ぼ、ぼ、僕、の、ことを?――」
そう剛に言われた佳織は、一瞬言葉に詰まった。
別に剛をだまそうとか、そんなつもりはない。
佳織はただ、今自分が感じているこの気持ちを確かめたいだけ、でも、剛は柳沢三曹から聞く彼氏さんや、下川三曹から聞くドケチこと鳴無三曹とは一味も二味も違う男の人のような気がして、佳織自身が感じているこの気持ちをはっきり伝えた方が良いのか、それともまだこの気持ちを隠しておいた方が良いのか、それがわからなくて言葉に詰まったのだった。そして、佳織にとって男性とデートしたのは今日が人生で初めて出会ったのもあって、どうしたらいいのか、でも今それを相談できる人はどこにもいない。
だから佳織は自分で決めなきゃいけないのだった。それが間違った選択だったとしても――
しばらくの沈黙の後――
「あ、あの――新田さん。聞いてもらえますか?」
と、佳織は剛の反応を見るために、佳織自身卑怯だとも思ったのだが、そう間を置くことにしたのだった。
「あ、は、はい――」
剛も何を聞かれるのかわからなくて、でも何を聞かれても別に困ることは何もなくて、でも過去の体験から少し怖いのも事実でもあったのだが、ここは聞こうと姿勢を正した。
「じ、実は私――新田さんに惹かれているんです」
と佳織は今自分が感じているこの気持ちを剛に伝えることにした。でもこの気持ちが一体何なのか自分自身でもよくわからない。
「え?」
剛も剛で、突然の佳織のカミングアウトに驚いた。剛としては、こんな頼りない自分自身を女性から好かれるとは全く微塵も思っていなかったのだから、今日のことだって、これで終わり、そう思っていた。
きっと、佳織はいくら服を着飾ったとしても自分のこの頼りなさ、そしてバスターミナル前で泣いてし舞うという失態をおかしてしまった自分を、きっと佳織は呆れかえってしまっていて、今は食事に行くという約束だったから笑顔で話してくれていた、そう思っていたのだから佳織のカミングアウトは剛にとって意外で非現実的で――
「でも、この私の気持ちが何なのか自分自身でもよくわからないんです。だからもっと新田さんのことを知りたいんです」
「えっと――でも、こんな僕ですよ? ぼ、僕、今日、泣いちゃって、な、情けないところを――」
「そんなことないですよ!」
剛が自虐感から自分を卑下していることに耐えかねた佳織は少し大きな声で剛の自虐発現を止めた。
「誰だって泣きますよ。それに、泣きたいとき泣けないことは、それこそ辛いことです。私はそれを姉から教わりましたから――だから、新田さん――そんなに自分を、責めないで、ください――」
と、男関係から引きこもりになった姉を見てきた経験を持つ佳織はそのことがフラッシュバックして、泣き出してしまった。
「あ、す、すみません!」
と自分が泣かせてしまったと勘違いした剛が声を上げたが、
「あ、違います。私、ちょっと姉のことを思い出してしまって――」
「お姉さん?」
「はい、ちょっと――ね――」
これ以上は聞いてくれるなと言っているような信号をキャッチした剛はそれ以上は聞かず、佳織がしてくれていたように剛は佳織が泣き止むまで待った。剛が情けなくも泣いてしまった時、佳織がただそこにいてくれたことが嬉しかったから、剛も佳織に倣って待つことにしたのだった。
しばらくして佳織が泣き止むんだとき、剛はカーディガンのポケットからポケットティッシュを出して佳織に渡した。
「あ、すみません。ありがとうございます」
「い、いえ。昼間、い、伊藤さんが、僕にも、してくれました、から――」
「あ、そういえばそうでしたね」
「はい――それに、い、伊藤さんも、泣きたいときに泣けないのは辛いって、い、言って、ました、から――」
「はい、ありがとうございます――」
「だから、お姉さんと、な、なにが、あったのか、わかりませんが、ぼ、僕で役にた、立てるなら、き、聞きます、から――」
「はい、ありがとうございます――その時が来たら、聞いてもらえますか?」
「は、はい。ぼ、僕でお役に、立てる、なら」
「ありがとうございます――」
佳織はエへへと照れ笑いというか嬉し笑いというかそんな笑顔を剛に送ると、
「あの、それで、次いつがよろしいですか?」
と、佳織は次の剛とのデートの日取りの良い日を尋ねた。
「あ、そ、そういえば、その話、でした、ね」
「はい、新田さんの好きなことや好きなものを知りたいので、映画とか――」
と佳織が言ってきたので、剛はスマホを出して、佳織が与えてくれた映画というヒントから剛の気になっていたアニメ作品の上映スケジュールを確認した。
その作品とは、佳織も見ているという魔法少女アイの劇場版であった。
魔法少女アイの劇場版は週明け水曜日からの公開であることを確認した剛は、この劇場版を佳織と一緒に見ようと提案することにした。
「あ、あの――」
「はい」
「えっと――」
「大丈夫ですよ、慌てなくても大丈夫です。もし今決められないようでしたら、またRINEを頂ければ――」
「あ、あの――見たい映画がありまして――」
「あ、はい!」
と、佳織が返答して前のめりになって剛の話を聞こうとする。
「あの――今度の水曜日から公開される映画があって、アニメなんですけど――男が見るようなものじゃないんですけど、ぼ、ぼくはこの作品がす、好きでして――そんなのでもよければ――」
「はい、良いですよ! 別に新田さんがアニメを見てるからって非難することなんてしませんよ。だって私もアニメ見てますもん。なんなら録画しても見てたりもしますから。大丈夫です」
「あ、ありがとう、ございます――では、も、もしよければ、来週の土曜日とか、い、いかが、でしょうか?」
「来週ですか? ちょっと待ってくださいね」
と佳織はスマホのカレンダーを開いてスケジュールを確認する。
――良かった、消防班も演習もない日だ――
「はい、大丈夫です。来週、何時ごろにしましょうか?」
「え? え、えっと――」
「午前ですか? それとも午後? あ、もし遅くなるようでしたらそのようにすることもできるので遠慮なく仰ってくださいね?」
「え? あ、は、はい――えっと――」
剛は上映スケジュールをもう一度確認する。上映は午前はやってなくて、午後0時半、2時半、4時半であることと上映場所がカナルモールという博多駅と天神とのちょうど間にあるショッピングモール内の映画館であることを確認した剛は、2時半か4時半のどちらかが良いだろうと、その上映時間を佳織に告げると、
「それなら、2時に今日と同じ場所で良いですか?」
「え? あ、はい――良いですけど――モールでなくてなぜ駅なんですか?」
「あ、それは――」
と佳織は少し顔を朱に染めて、
「に、新田さんと、モールまで歩きたいな、と――」
と、佳織はそう言ってから顔を手で覆い、真っ赤になった顔を剛に見せまいとするのだが、佳織は耳が出ているショートカットであるため、真っ赤になった耳までは隠せなかったのだが、恋愛経験値ゼロの剛にはそこまで見通すことは無理であったが、自分と歩きたいという佳織の言葉から、その光景を想像して、剛もまた顔を真っ赤にして、頭から湯気を出す。
「ぼ、ぼ、ぼぼぼぼ、ぼ、ぼ、く、で――えっと――僕で、その――よろしければ――」
と、何とか言い切った剛。そんな剛をちらっと見て、やっぱり恥ずかしくて、指をちらっと開けたところから剛を見ながら、
「は、はい。よ、よろしくお願いいたします――」
何をどうよろしくお願いするのか言った佳織ですら内心自分で自分自身に突っ込んだ。
でも、なぜかその一言で剛に佳織の意思が通じた。
「わ、わか、わかりました。で、では、ら、来週、ど、土曜日の、お昼2時で――」
「あ、はい。2時に今日の場所で――」
「はい、わかりました――、あ、なんか人も増えてきたみたいですね――」
「あ、そうですね。出ましょうか」
「あ、は、はい。あ、きょ、今日はぼ、僕が、僕に、はら、はら、はらわ、払わせて、くだ、くださ、い」
自分が払う、そう言いたい剛は、何とか、どもりながらもなんとか言い切った。
これは「食事くらいお兄ちゃんがごちそうしなきゃダメだよ」と妹の芽衣に言われていたことだった。
しかし、
「あ、それはダメです」
と、あっさり佳織に拒否されてしまった。
剛は「え?」と目を点にする。
「食事代は割り勘です」
「え、で、でも――きょ、今日はふ、服も買っていただきましたし――」
と食い下がった剛であったが、
「あれは、私からの誕生日プレゼントですもの。プレゼントなのに新田さんが払うのもおかしいでしょ?」
という佳織のド正論に二の句が継げなくなる剛。
「ね、もし新田さんとお付き合いすることになったとしても、その時も私はどちらかに負担がかかるような関係にはなりたくはないんです。なので、割り勘でお願いします」
と畳み込んでくる佳織に屈しようとしたとき、芽衣から言われた事と一緒に芽衣の顔が脳裏に浮かんだ。
『もし割り勘と言われても、支払いはお兄ちゃんがして、あとで半分を貰うというくらいはできないとだめだよ』
――そ、そうだよね――
「え、えっと、じゃあ、僕が支払うので、あ、あとで半分頂く、という事では――」
と必死に食い下がってくる剛の必死な表情に佳織はクスッと笑うと、
「では、今日はそれで――。あ、次は私の番ですからね」
「え?」
「ですから、今日はお会計では、新田さんにカッコつけさせてあげます。なので、次は私にカッコつけさせてくださいってことです。あ、もちろんお店の外で半分をお渡しするので、次はお店の外で半分を頂けますか?」
「あ、は、はい――で、では、そういう、こと、で」
「はい、そういう事で」
とクスクス楽し気に笑う佳織。
その佳織の笑顔に、再び胸の鼓動が強くなる剛。
剛は会計を済ませると、佳織と一緒に店を出た。
しばらく言ったところで、佳織は代金の半分を剛に渡してきた。
「あの、どうしても受け取らないとダメですか?」
「はい、ダメです」
と瞬殺された剛は佳織から代金の半分を受け取った。
ちゃんと受け取ってくれた剛に、佳織はまた笑顔を見せると、剛の左手を右手で取って手を繋いだ。
今日、何度も手を繋いでいたのだが、なかなか慣れない剛は体をビクッとさせる。
「新田さん、できたら私と手を繋ぐことに慣れてほしいです。私も男性と手を繋ぐのは恥ずかしいんですから」
と佳織から言われた剛は、
――それなら手を離してくれると、助かるのに――
と思った。
「あ、新田さん。今それなら手を離して、って思いましたね?」
と佳織が言ってきたので、剛は再びビクッとする。
「あ、図星だったんですね、ひどいです――」
と左手で目頭の涙を拭うしぐさをする。
その佳織のしぐさを見て、
「え? あ! す、すみません! あ、ああの、手を離してほしいというか、い、伊藤さんのような、女性と、て、手を、繋げる、ことが、その――う、嬉しくて――ですね――だから、その――」
と、剛は、必死に繕おうとしてつい本音が出てしまう剛なのであった。
「あ、そんな、嬉しいだなんて――えっと、う、ウソでも嬉しいです――」
と佳織は剛に照れながらも笑顔を見せる。
そして再び剛の鼓動が強くなる。
――なんでこんなに胸が苦しくなるんだろう? でも新田さんの笑った顔をずっと見ていたい気持ちになる。何なんだろうこの気持ち、芽衣に、なんて聞けないよね。また心配かけちゃう――
それ以降剛はなかなか話題も出せず、でも佳織を見ると佳織は嬉しそうな楽しそうな表情をしている。
JR改札で佳織を見送ろうとしたのだが、佳織が剛を見送りたいというので、2人は地下鉄の改札前で別れの挨拶と来週の予定の確認をして、剛が佳織から手を離そうとしたとき、佳織は剛の手を強く握って話そうとしなかった。
「あ、あの。い、伊藤さん?――」
「あ、す、すみません。えと、来週、楽しみにしてます」
「あ、は、はい――あ、あと、ら、来週、今日待ち合わせ場所でおはなし、した、ふぃ、フィギュア、も、持ってきます、ね」
「あ、パンくんですね! はい、楽しみにしてます」
「あ、は、はい。では、また――」
「あ、はい――楽しみにしてます」
「では――」
「はい――」
そうして2人は手を離して、剛が改札をくぐり、剛の姿が見えなくなるまで佳織は剛を見送った。
「新田さん――ああ、何で自衛隊っていつでも外出できないんだろう。ううん、そんなのわかりきってることじゃない。わかってて入ったんだもの。私が投げだしたらきっと新田さんに嫌われちゃう。よし、来週まで頑張る!」
と、佳織は小さく拳をぎゅっと握ると、
「私も帰ろう――あ、当直にお土産買って帰らなきゃ。うーん、プリンで良いよね」
と、佳織は駅のコンビニに入っていくのだった。
ほんの少し前――
剛と佳織が地下鉄博多駅の改札前で別れようとしていた時、たまたま彼氏と別れてJRで帰隊しようと地下街からJR改札へ向かおうとしていた柳沢三曹が剛と佳織を見つけた。
「ん? あれ、は――佳織、だよな。へえ、あれが例の彼か――ルックスはちょっと、だけど佳織幸せそうだな――」
柳沢三曹は、陰から2人を眺めて、佳織が剛を見送ってコンビニに入って行ったので、コンビニの前で佳織を待ち伏せした。
途中、飢えた男がナンパを仕掛けてきたけど、柳沢三曹は持ち前の鋭い眼光でナンパ男を瞬殺で追い払った。
「あんなのがいるから佳織を一人にできないんだよなあ。あの彼氏車持ってたらいいんだけど――イヤ余計なお世話か。佳織だって格闘徽章持ってるもんな」
そう、佳織は陸上自衛隊において徒手格闘という自衛隊式格闘術の初級指導者資格を持っていたりする。陸士長の頃に訓練に入り、その可愛いルックスからは考えられないほどに強い格闘術を発揮し、訓練において自衛隊における勲章でもある第5級賞詞を受け、第15号(両端が紫色でその間がオレンジ色でその間に赤い縦線の入った)防衛記念章を胸に着けている優秀な自衛官でもあるのだ。なので、ナンパ男になんてそうそうやられはしないほどに強いのだ。
しばらくすると、佳織が新たにコンビニの袋をもって出てきたので、
「かーおり!」
と、柳沢三曹は後ろから声を掛けた。
「きゃ!」
と佳織は飛び上がって瞬時に構えの姿勢を取るが、その相手が柳沢三曹であることを確認すると、
「なんだ、驚かさないでくださいよ、柳沢さん。階級つけて呼びますよ?」
「あ、階級呼びは勘弁!」
「もうっ! 今帰りですか?」
「うん。彼氏仕事関係で呼び出されちゃってね」
「あら、それは残念でしたね」
「まあ仕事だし、仕方ないからね」
「それは、仕方ないですね」
「そ。でさ、佳織ぃ、さっき見てたんだけどぉ」
と柳沢三曹がニヤニヤしながら佳織の肩を抱く。
一瞬ドキッとする佳織であったが、
「へ、へぇ……な、何をみたんですか?――」
と平然を装ってはみたものの動揺しまくりで返答する佳織。
そんな佳織をみて柳沢三曹がお腹を抱えて笑い出す。
「もう、何なんですか?」
と頬を膨らませてジロッと柳沢三曹をにらむ佳織。
「あぁごめんごめん。いやぁあの佳織は可愛くってさぁ。もう恋する乙女って感じで、ククク――」
と言いつつも笑いが堪えられない柳沢三曹。
「もう、何のことですか?」
「いや、ごめんごめん。でも、あれが佳織が紹介されたっていうあのイラストの彼なんだね」
「え? 見たって、もしかして――」
「そう、見てたんだよ。一部始終」
「ほ、ホントですか?」
「そ、マジもマジ。大マジ」
「ええ、まさか柳沢三曹に見られるなんて――」
「ええ、いいじゃん。可愛かったよ佳織。もう食べちゃいたいくらいに」
「もう!」
と顔を近づける柳沢三曹の顔を手で押しのける佳織。
「おや? 佳織が化粧してる?」
「へ?」
「ほうほう、あたしたちと飲みに行くときでも化粧なんてしなかった佳織が化粧かぁ」
「だって――」
「うんうん、わかるよ。あたしも同じだったからさ。だから、なんでも相談しなよ? まああの彼ならそんな問題もないとは思うけど、でもぱっと見の話だからさ、なんでもいいから相談はするように」
「はい、ありがとうございます」
「よし! じゃあ帰るか!」
「はい、あ柳沢さん、当直にお土産は?」
「ん? だってほら、佳織が持ってんじゃん」
「え? いや、これは私の――」
「2人からってことで」
「えー?」
「あ、そう。なら佳織からの相談聞いてやんない!」
「え? なんでそうなるんですか!」
「じゃあ2人からってことで。 安い相談料だと思うよ? しかも今後ずっと何回相談にのってもその金額を超えない」
「柳沢さん、ずるいですよ」
「そうよ? あたしはずるい女なのさ」
「もう! わかりました。だからちゃんと相談に乗ってくださいね?」
「おう! もちろん! あたしに任せとけって!」
「うーん、今ので信頼度落ちちゃいましたよ?」
「あ、テメ」
「きゃー」
女同士でじゃれ合いながらJR改札まで歩く佳織と柳沢三曹であった。
僕の彼女は婦人自衛官 防人2曹 @SakimoriSgt
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。僕の彼女は婦人自衛官の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます