第2話 魔王軍の出陣式
魔界随一の刀工、カスト・ベルクが剣心と薫の為に刀剣を二振り作成した後、魔王軍の魔軍司令であるハドラーが勇者ダイを倒す為の「軍議」に参加せよ、とのお達しを剣心たちに告げてきたのだが・・・。
しかし、ハドラーは剣心たちに鷹揚に、
「緋村剣心とその仲間たちよ、折角カスト・ベルクがいい武具を作ってくれたのだ、今宵は酒でも飲みながら軍議を開こうではないか」
と、剣心たちを誘った。
「そうでござるか・・・」
剣心はその誘いに及び腰であった。
そして、その酒宴に誘われた剣心たちであったが、その宴に出されたワイン、ビール、ウィスキー、などは剣心たちは喜んで飲んだが、それに出された料理は、オオカミの丸焼き、トカゲの唐揚げ、ハブの刺身と、かなりのゲテモノ料理が出て来たので、剣心、薫、弥彦の3人はその料理にナイフやフォークをつけるのを躊躇ったが、左之助だけは、
「ま、俺は腹に入れば何でもいいや」
と、喜んで食べていた。
ここで、剣心がハドラーに今回の軍議の要件を訊いてきた。
「して、ハドラー殿、今回の軍議の要諦は何でござるか?」
「うむ、良くぞ聞いてくれた」
それを聞いたハドラーは同じく隣の椅子に座る剣心にこの世界の地図を広げた。
「この鬼岩城からはるか南東にパプニカ王国がある。そこのバルジ島に氷炎将軍フレイザードが陣取っている。そこに勇者ダイたちが攻め込んでくるのだ」
「何故、彼らが攻めてくるとわかるのでござるか?」
「実はな、その勇者ダイと親しいパプニカ王国のレオナという姫が、フレイザードの「冷凍フリーズ細胞死セルミュート」という攻撃によって、体内の細胞が凍り続ける状態になっているのだ、その魔法はフレイザードを倒さないと解けない。だから、奴らは必死になってフレイザードを倒しに来る、そこを攻撃するのだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
剣心はレオナという姫の命を犠牲にして、相手が攻めてこさせるというやり方に心中、合点がいかなかった。
それでも、剣心はハドラーに魔王軍の編成について訊いてきた。
「この魔王軍の編成はどうなっているのでござるか?」
「我が魔王軍は百獣、不死騎、氷炎、妖魔、魔影、戮魔、それぞれの師団に分かれている。だが、百獣軍団の団長、クロコダインはダイたちとの戦いで重傷を負い、治療液の中にいる。そして、不死騎団の団長だったヒュンケルは地底魔城という城で溶岩に飲み込まれた」
ここで、カスト・ベルクが剣心に目を向けた。
「かつて、不死騎団の団長だったヒュンケルは俺の作った鎧の魔剣を装備していた。お前と戦えば、どちらが勝つか?面白いところだったと思うがな・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
剣心は沈黙したままだった。
更にハドラーは別の地図を剣心に見せて、パプニカ王国を防衛する戦術を示した。
「このバルジ島は島自体がサヤエンドウのような形をしている。だから、島の西側は氷炎魔団のブリザードや氷河魔人、スノードラゴン、そして、魔影師団で防衛し、東側はフレイムや溶岩魔人、ファイアドレイクや妖魔士団で防衛するのだ」
剣心は不思議に思ってハドラーに訊いた。
「何故、敵方は二手に分かれてくるのでござるか?」
「実はな、フレイザードはバルジ島のクランカの塔の最上階に陣取っているが、そのクランカの塔の城門は島の東西にある氷の祠ほこらと炎の祠ほこらを破壊しないと城門は開かんのだよ」
剣心は杯のワインに一口入れて、ハドラーに再び問い返した。
「それで、拙者たちは何処に陣取れば良いのでござるか?」
「お前たちはそのクランカの塔の前でダイたちを待っていれば良い、まぁ、戦力分散したあいつらは塔の前にくることはないだろうて」
ここで、剣心はこの酒宴に参加した魔王軍のメンバーを見回した。
「ハドラー殿、先程の話によると、拙者たちを除けば、六大師団の団長はこの場に3人揃っていないといけない筈でござると思うが、後1人はどうしたのでござるか?」
それを聞いたハドラーは剣心に頷いて答えた。
「ああ、戮魔師団の団長のニルヴァンのことか?ふっふっふっ、あ奴はこの六大師団の団長の中で最強の猛者もさだ、それゆえ、奴の戦地は魔界のザナドゥと呼ばれる所で冥龍王ヴェルザーの配下と戦っている」
「・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙する剣心に対し、ここで、ハドラーは剣心たちに残りの六大師団の団長を紹介した。
「俺の左横にいるのが魔影軍団団長のミストバーン、そして、奥にいるのが妖魔士団団長のザボエラ、これから行われるバルジ島での戦いにおけるお前たちの戦友だ」
「よろしく・・・」
「妖魔司教のザボエラじゃ、よろしくな。ヒッヒッヒッ」
ミストバーンは言葉少なげに剣心たちを向いて頷き、ザボエラは奇妙な声を出して剣心たちに挨拶した。
ここで、酒に酔った若い女の声があたりに響いた。
「ちょっとー、あたしは日本一の剣豪、緋村剣心の妻なのよ、あんたらがどれ程に者か知らないけど、あたしらの強さに敬意を表してお酌しなさいよ」
このへべれけになった薫を制止する為、ハドラーの側近であるアークデーモンやガーゴイルが薫の座る椅子の横にやって来た。
「こら、女、少し静かにしろ!」
「うるさいわね!」
酒に酔った薫は何と素手でアークデーモン2匹とガーゴイル1匹をなぎ倒してしまった。
それを見た剣心が慌てて薫のフォローをした。
「あああ、薫殿、ここは魔王軍の大事な酒宴の席、無礼講ではござらんよ!」
その姿を見たハドラーは剣心にこう呟いた。
「緋村剣心とやら、お前は随分と恐妻家なのだな」
その後、その酒宴の最中、ハドラーは剣心と左之助に「ある物」を下賜した。
「フフフ、緋村剣心と相良左之助とか言ったな、これからお前たちに渡すものがある。一つは「奈落(タルタロス)の籠手(ガントレット)」そして、もう一つは「魔獣の爪」だ、「奈落(タルタロス)の籠手(ガントレット)」の左手の籠手は炎系、右手の籠手は暗黒系の呪文を吸収することができる、そして、「魔獣の爪」は魔獣系のモンスターを手懐けることができるのだ、それっ、受け取れい」
それを聞いた剣心は
「かたじけないでござる、有難く頂戴致しまする」
と、ハドラーに礼を言ったが、左之助の方は
「俺の右手には二重の極みがある、この鉤爪は左手に装備させてもらおうか」
と、やや不機嫌にその「魔獣の爪」を受け取った。
そして、酒宴が終わり、ハドラーやミストバーンが酒宴会場から立ち去った後、剣心は弥彦と共に妖魔司教ザボエラに迫った。
「お願いがありまする、妖魔司教ザボエラ殿」
剣心はザボエラに嘆願した。
「な、何じゃ、緋村とやら」
「先程ハドラー殿から聞いたのですが、そのフレイザード将軍の冷凍フリーズ細胞死セルミュートという攻撃を解除する呪文をこの弥彦に教えて頂きたいのでござる」
それを聞いたザボエラは驚嘆の声を上げた。
「ハアッ?!何じゃと?!何故ワシが敵方を助けるマネをせねばならんのじゃ?!」
剣心はザボエラに真顔で迫った。
「今回の戦いでは、ダイとかいう勇者をバルジ島から退かせればそれで良いこと、別にレオナという姫の命まで取る必要はないで思うでござるよ」
「エエい、うるさい!」
しかし、ザボエラはその剣心の嘆願を振り切り、持っている杖「イービルメイス」を剣心に向けてこう叫んだ。
「貴様は魔王軍の禄を食みながら、その戦術にケチを付けるつもりか?もう良い、ワシが貴様をここで火だるまにしてくれる!食らえ、メガメラゾーマ!」
この時、超巨大な火球が剣心と弥彦を襲った。
「ゴォォォォォ―――」
ザボエラが自慢げにこのメガメラゾーマの呪文の技を自慢した。
「ヒャヒャヒャ、このワシのメガメラゾーマは並みの魔術師のそれより数倍の威力がある。どおれ、もうそろそろ2人共黒コゲになっている頃かのぉ」
しかし、数秒後、ザボエラは剣心の剣技に肝を冷やすことになる。
剣心は手に持つ刀を風車の様に回転させ、メガメラゾーマの炎を躱し、その上、ザボエラに突進しザボエラの両頬に生えているヒゲを斬り飛ばしたのである。
「ザシュ」
この剣心の剣技にザボエラは驚愕した。
「な、何をするか!このワシの自慢のヒゲを」
しかし、次いで、剣心がザボエラに脅しにかかった。
「お主がお望みなら、その顔をV字型でも、A字型でも好きなようにカットしてみせてみるでござるが、いかがかな・・・?」
それを聞いたザボエラは冷汗をかきながら剣心に応対した。
「わ、わかった、フレイザードの冷凍フリーズ細胞死セルミュートを解除する呪文を教えてやる。だから、その刃をワシに向けるな」
そのザボエラの答えを聞いた剣心は了承したという素振りを示して、次いで、弥彦にこう伝えた。
「それでは弥彦、このザボエラ殿から冷凍フリーズ細胞死セルミュートの解除呪文、篤と教えてもらうのだ」
「おおっ!わかったぜ、剣心!」
弥彦はザボエラにその冷凍フリーズ細胞死セルミュートと反対の呪文「暖化ウォーム細胞セル活アライブ」を教えてもらった。
その鬼岩城での剣心たちを招いた酒宴が終わった後の数日後の深夜・・・、
勇者ダイとその同じアバン・デ・ジュニアールⅢ世という師の下で魔法を教わった魔法使いポップ、同じく「アバンの使徒」である僧侶戦士マァム、それにパプニカ王国の「便利屋親父」ことバダック、後もう1人、パプニカ王国の王家を守る「天海の賢者」の1人、海原のマリンが小さなボートに乗ってこのバルジの大渦を超えようとしていた。
このボートはそのポップの魔力で浮遊させ、そして、マリンの魔力で推進させていた。
このパーティーの中心人物である勇者ダイとは、「龍ドラゴンの騎士」である父バランと今は亡きアルキード王国の王女、故・ソアラとの間に生まれた「龍ドラゴンの騎士」と人間との混血児であった。
彼は15歳という思春期真っただ中であったが、龍の戦闘力と魔族の魔力と人間の心を持った究極の戦士の血を引き継いでいたが、その超人的な力の根源は何であるか?と、悩み苦しんだが、親友であり、アバンの兄弟子であるポップやマァムに励まされ、また自らが産まれ育った多くの怪物モンスターが住むデルムリン島で知り合ったパプニカ王家の王女レオナを救う為に「勇者アバンの使徒」であるポップやマァム、それに、パプニカ王国のマリンやバダックと共にフレイザードのいるバルジ島へ向かっていた。
ポップがマリンに尋ねる。
「マリンさん、もうそろそろこのボートのスピードを緩めてもいい頃だぜ」
「わかったわ」
ポップにそう言われると、マリンはこのボートの推進させる魔力を少しずつ抑えた。
そして、このバルジ島の中央の砂浜に着いた一行は島の西側の氷の祠をポップとマァムが、島の東側の炎の祠をダイとバダックとマリンがそれぞれ、バダックの作った爆弾で破壊する算段を取った。
しかし、その一行の動向を悪魔の目玉という妖魔士団の怪物モンスターが監視していた。
その動向を水晶玉で見ていた妖魔司教ザボエラが魔影参謀ミストバーン、そして、緋村剣心と相良左之助、そして、緋村薫に話しかけた。
「ヒャヒャヒャ、来たぞ来たぞ、愚かな夜の蛾が灯火に集まるように、ミストバーン、そして、お前らの方も準備はいいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ミストバーンは自らの手勢である地獄の鎧や怪しい影に合図をし、剣心の方も、その装備した「奈落タルタロスの籠手ガントレット」の右手で自らの刀に手を掛けて言った。
「しかと心得た、ザボエラ殿」
左之助も左手に魔獣の爪を装備して薫に話しかけた。
「嬢ちゃんよ、そっちの方の準備はいいか?」
「ええ、でも、剣心・・・」
薫は俯き加減で白鞘の刀に手をやった後、剣心の方を向いた。
その後、剣心は落ち着くようにと言わんばかりに薫の方を向いた。
「薫殿、大丈夫でござるよ、拙者はこの戦いで無益な血は流す必要は無いと思っているでござるよ」
「うん、わかったわ、ところで、弥彦の方は大丈夫かしら?」
その薫の問いに剣心は強く頷いた。
「うむ、弥彦は必ずレオナとかいう姫に掛けられた魔法を解いて帰ってくるでござるよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
その剣心と薫の会話をミストバーンは沈黙しながら聴いていたのであった。
そして、魔王軍を構成する団長やそれに率いられるモンスターは、このバルジ島でのそれぞれの配置に着いたのであった。
そのザボエラが剣心たちに指示を出した同じ時刻・・・、
明神弥彦はスティクス村の村長、メタリンから譲り受けたマジカル・カーペットに乗り、同じく一定期間譲ってもらったマリーツァの杖を右手に携え、バルジ島の南方にあるヌノメール岬を目指していた。
そして、ヌノメール岬に着いた弥彦はその岬の洞窟に走り、レムオルという自らの体の姿を消す呪文を自分に掛けて自分の体を透明にして、フレイザードがレオナに掛けた「冷凍フリーズ細胞死セルミュート」を解かす「暖化ウォーム細胞セル活アライブ」の呪文を掛ける為にレオナのいる所へ向かった。
「う――――――ん・・・・・」
この時、パプニカ王国の王女、レオナは相変わらず、ベットの上で自らの細胞が凍結させられる呪文に苦しんでいた。
そのレオナに対して、「天海の賢者」の1人、天空のエイミが必死になって炎メラ系呪文を掛け続けていた。
その時、弥彦が心の中で「暖化ウォーム細胞セル活アライブ」と唱え、マリーツァの杖からその呪文をレオナに照射した。
すると・・・、レオナの体にみるみる活気があふれ、彼女の体温は正常なものに変わっていった。
「ああっ、姫様!」
エイミの表情は急速に綻んだ。
そのレオナの姿を確認すると、弥彦はまた急いでマジカル・カーペットに乗り、バルジ島の方へ戻って行った。
「剣心!レオナって言う姫の命は何とかなりそうだぜ」
マジカル・カーペットで戻ってきた弥彦にそう言われると、コクンと頷いた剣心は帯に構えた刀に手を掛けて皆の者に言った。
「さぁ、これから剣心組の戦い、篤と見せるでござるよ」
一方、勇者ダイと別れてバルジ島の西側に別れたポップとマァムは氷の祠を破壊に島の西端にやって来た。
ポップがマァムに背負ったリュックサックから爆弾を出すとこう言った。
「さぁて、この爆弾でこっちの氷の祠を破壊しちまえば後はダイたちが何とかしてくれるぜ」
そう言って、ポップは爆弾に指先で火炎メラを出して点火させ、それを氷の祠に向け放り投げたが・・・。
「シャアアア―――――」
その爆弾の点火は待ち構えていたスノードラゴンの氷のブレスによってかき消されてしまった。
「し、しまった・・・」
ポップがその声を上げると、1匹の氷河魔人がポップとマァムに立ちはだかった。
「フフフ、俺の名は氷河魔人フェルセンアイスマン、貴様らアバンの使徒など、猫の前の鼠にも等しい、よって、魔王軍の獅子であるミストバーン様の手を煩わせる必要などないわ」
そう言って、フェルセンアイスマンはこの氷の祠にいる残りの氷河魔人、ブリザード、スノードラゴンを集めた。
「な、何しようってんだ?」
ポップはそれらのモンスターから繰り出される技に予想がつかなかったので、恐れおののくばかりだった。
「来るわ!ポップ、気を付けて!」
そして、フェルセンアイスマンが叫んだ。
「食らえ!氷結咆哮撃ドライアイススクリーム!」
その氷結咆哮撃ドライアイススクリームという技はブリザードやスノードラゴン、他の氷河魔人が口から氷のブレスをフェルセンアイスマンに向けて放ち、それを両手で受け取ったフェルセンアイスマンが両手を合わせて、極寒のエネルギー波をポップやマァムに向けて放ったのである。
「か、体が凍り付く!こ、このままじゃ・・・」
ポップは火炎メラ系呪文で自分とマァムの体を温めたが、それは焼け石に水であった。
「ヒャヒャヒャ、凍れ凍れ、凍り死ね」
フェルセンアイスマンの氷結咆哮撃ドライアイススクリームによって、このままポップとマァムが凍死してしまうかと思われたが・・・、
と、そこに、1人の若い男の声が谺した。
「ブラッディースクライド!」
この攻撃によって、フェルセンアイスマンの氷結咆哮撃ドライアイススクリームの攻撃を相殺することができた。そして、その声を発したのは、ヒュンケルという勇者アバンの一番弟子で、このノワールブレイユで剣を取らせたら右に出る者はいないとの評判の戦士であった。
「ヒュ、ヒュンケル!生きていたのね!良かったわ!」
マァムは嬉しそうにそう声を上げたが、その両脚は凍傷寸前まで凍っていた。
「良かったぜ!ヒュンケル!でも、お前どうやってあの溶岩の海から脱出できたんだ?」
ポップのその問いにヒュンケルは・・・。
「確かに、俺はあの時、ダイとの戦いに敗れ、その上、フレイザードの横槍によって、地底魔城の溶岩が噴き出たが、その時・・・」
[ヒュンケルの回想]
「駄目だ・・・、俺にはもうここから脱出する余力は残されていない・・・」
この時・・・、
1匹の海月くらげの姿をしたメタルスライムがマリーツァの杖をヒュンケルにかざし、その魔力で彼を溶岩の海から拾い上げた。
数日後、暫くして、意識を取り戻したヒュンケルだったが、そのメタルスライム、メタリンに声を掛けた。
「俺を助けてくれたのはお前なのか?」
メタリンは大きく頷いた。
「ああ、そうじゃとも」
「何故だ、何故俺を助けた?」
メタリンは何十本もある手足の1本を口ひげにあててヒュンケルに返答した。
「お主は戦士じゃな、戦士にとって、一番大切なものとは何だと思う?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ヒュンケルは暫く黙った後、メタリンにこう答えた。
「俺は戦士となった時から、いつでも、敵に真っ向から挑む気構えを忘れずに今まで生きて来た・・・」
メタリンは頷く。
「そう、それじゃ、どんな敵にも立ち向かう勇気と精神力、お主はそれを持ち合わせている。この溶岩の海で焼け死ぬには少し惜しいと思うてな、ちと手助けをしたまでじゃ・・・」
そして、メタリンはマリーツァの杖の上部の蓋を開けて、ヒュンケルの鎧の魔剣を取り出した
「こ、これは鎧の魔剣!それも完全に復元している!」
驚くヒュンケルに、メタリンがこう諭す。
「真の武具は持ち主を選ぶというが、この鎧の魔剣もお主の生命力に呼応して復元したのであろうな」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ヒュンケルは沈黙したままその鎧の魔剣を鎖の帯につなげて、このまま旅立とうとした。
「ありがとう、ところで、あんたの名前は?」
「ワシか?ワシの名はメタリンじゃ、近くの村でメタルスライム族を率いる長老をしておる」
「そうか・・・、いずれ、このお礼はさせてもらう、と言いたいところだが、俺はかつて、魔王ハドラーを倒した勇者アバンの一番弟子なのだ。訳あって、おとうと弟子たちに助太刀する」
「・・・・・・・・・・・・・・」
沈黙するメタリンに対し、ヒュンケルは続けてこう言った。
「だが、あんたはどう見たって、魔軍司令ハドラーや大魔王バーンの下にいるモンスターだろう、この俺を助けたことは、必ずや後悔することになるぜ」
その話を聞いたメタリンはこう応対した。
「お主、名は何と言う?」
「俺の名はヒュンケル、俺の育ての父だった地獄の騎士バルトスが魔界最強の剣士の名を取ってそう名付けてくれた」
「そうか、では、ヒュンケルとやら、お前は人、いや、生き物の最期とはどんな最期がいいと思う?」
それを聞いたヒュンケルは首から下げた鎧の魔剣に手を当てた。
「俺は剣に生き、剣に死すつもりだ。育ての父バルトスがそうであったように・・・」
「そうか、それは殊勝な心掛けじゃな、だが、人間たち全てがお主のような考えをしている訳ではない」
「ああ、そうだな・・・」
ヒュンケルが頷く。
しかし、メタリンはそこで、
「メタルスライムのワシが言うのも何じゃが、人間でもモンスターでも、自分の欲望の為に生き、逆に他者の為に献身的に生きても、殺されることだってある。自分の子孫を遺して、ベットの上で死ねるなんてのは一部の王侯貴族の人生を全ての生き物に当てはめるような馬鹿らしさではないのか?」
と、長い台詞をヒュンケルに返した。
「何が言いたいんだ?あんたは?」
メタリンはその何十本もある手足の1本をヒュンケルの右肩に掛けて答えた。
「お主にもいつか愛する者が現れて、その者を守りたいと思うかもしれぬ・・・、しかし、ワシはお主のような豪傑を助けたことを後悔せんよ、一生な・・・、さあ行け」
「わかった、じゃあな、さらばだ」
この後、メタリンは緋村剣心の為にその身を「刀身」としたが、それはこのメタリンの想定内であったか、それとも想定外であったのかは、それは神のみぞ知るところであった・・・。
[ヒュンケルの回想終わる]
ポップが嬉しそうにヒュンケルの回想を訊き終わった。
「そっか、お前も運がいいな、こっちもお前が来てくれれば百人力だぜ」
フェルセンアイスマンは自らの氷結咆哮撃ドライアイススクリームの攻撃をかき消されたことにいきり立った。
「おのれ、よくも俺の必殺技を、それならばもう一度喰らわしてやるわ」
そして、また、ブリザード、スノードラゴン、氷河魔人の氷のブレスをその両手に受けて、氷結咆哮撃ドライアイススクリームをまた一撃、ポップたちに打とうとしていた。
この時、ヒュンケルがポップとマァムに
「ポップ、マァム、俺がブラッディースクライドを撃つ時、それに合わせてメラゾーマと魔弾まだん銃ガンを発射させてくれ」
「オ、OKだぜ」
「わかったわ」
ヒュンケルが鎧の魔剣を構えた。
「では、行くぞ!ブラッディースクライド!」
この時、ポップとマァムはそれぞれ、ブラッディースクライドの一撃の中にメラゾーマと、魔弾銃(ガン)のメラミの一撃を加えていた。
「グ、グワァァァ―――――」
断末魔の叫びと共に、フェルセンアイスマンはこの世から姿を消した。
『フッ』
この時、突如、姿を現したのが、大魔王バーンの代理人ともされる魔影参謀ミストバーンであった。
ヒュンケルが鎧の魔剣を構えて、ポップとマァムに指示した。
「ポップ、マァム、こいつの相手は俺がする、お前たちは早く中央のクランカの塔へ!」
それを聞いたポップは嬉しそうにマァムの左肩を抱きながらこう答えた。
「そっか、サンキュー、お前も魔王軍の強敵との戦い、大変だと思うけど頑張れよ・・・、ああそうだ、この祠を爆発させる爆弾、お前に預けるぜ」
ポップはそう言って、マァムと共に氷の祠から去って行った。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ミストバーンは無言でヒュンケルと対峙した。
マァムがいかにもその手を離して欲しいような目つきでポップの方を向いた。
「ちょ、ちょっと、何するのよ!ポップ!簡単にヒュンケルを1人にしていいの?」
「うるせぇ!2人でクランカの塔に行けつうんだからそうすりゃいいだけだぜ!」
しかし、この後、2人はクランカの塔の下で天下無双、幕末最強と言われた剣の達人を目にすることになる。
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