第2話

紫side


目が覚めたら、私は路地裏に立っていた。


村の入口にある石碑を眺めている時、突然意識を失ったのだ。


何が起こったか分からず、とりあえず路地裏から大通りを覗くと両親や自分が変化することができる人間と呼ばれるものが沢山歩いていた。


初めは狐かたぬきに化かされたのかと思ったけどここまで完璧な幻術を使うのは何人も術者が必要だろうし、私にそんなことをするメリットも無い。


そうなると自然に考えられるのが···


(ここが人間が住むという現世?)


私はそう結論づけた。


私が住んでいた場所にはいつかまた人間と暮らしたいと言う妖怪が沢山いた。そんな者がここに来たら喜んだかもしれない。けど、私が思ったのは、


(隔世に帰りたいな···。)


ただそれだけだった。


その思いの元、私は体の中にある妖力を周りへと飛ばして何か反応するものは無いか調べた。少しでも手がかりを探すために。


すると、少し反応するものがあった。


(これは何?)


その反応がした場所に意識を集中するが、それは動き始めこちらへと近づいてきた。


(妖力を持ってるってことはこれは妖怪?もしかして、私以外にもこの世界に妖怪がいる?)


何か手がかりが掴めるかもと考えて、何もせずただ近づく妖力を感覚で追いながら待った。段々とそれはこちらとの距離を詰め、あっという間にそれは路地裏の前にまで来た。


路地裏へと差し込む光を背負ったそれはシルエットしか分からない。分かることは私のように猫耳が残ったような中途半端な変化ではなく完全な人間そのものだということだ。


突然、大通りを通る人はいなくなり静かになったことを確認して私はそれに話しかける。


「私は猫又の紫。隔世にいたはずなのに気づいたらここにいた。あなた、帰る方法知らない?」

「······。」


返事はない。


(聞こえてなかった?もう一度聞いた方がいい?そのついでに何の妖怪かも聞いておこう。)


「隔世に帰りたいんだけど、帰る方法知らない?それとあなたは何て妖怪?」

「何だと思う?」


意図的か前半の質問に対する答えは返ってこない。そんな様子に少し苛立ちながら、言葉を返す。


「分からないから聞いてる。」

「正解はなぁ。」


目の前のそれは手に何か付けたかと思うと、火の玉を作り出した。


「人間だよ。」


そう言って私の方へとそれを放った。


想像もしていない行動に私はそれを避けきれず当たってしまい、


「うっ。」


その衝撃で後ろに吹っ飛ぶ。そんな私を笑いながら男はこちらにゆっくり近づいてくる。


「いやぁ、まさか非番の日に妖怪に会うなんてなぁ。それに、自分から居場所を知らせるなんていう訳の分からない行動を取ってるし。」


醜悪に歪んだ顔でこちらを見る。


「まぁ、こっちからしたら妖怪を殺せるからラッキーだけどな!」


また、手の前に火の玉が現れる。


「どう···して?」


心の底からの疑問が口から漏れる。


両親や学校の先生、近所の人も言っていた。昔は私たち妖怪は人間と暮らしていたのだと。お互いに足りないところを補いながら暮らしており、中には結婚するものたちもいたと。私はそれを聞いて、またいつか人間と暮らすときが来るのかな?と子供ながらに考えていた。要は期待に満ちた目をしてそういう大人たちを見て、同じように期待してたのだ。私たちの生みの親でもある人間と一緒に暮らせる未来を。


そんな未来図にヒビが入る。


「どうしてだぁ?簡単だよ、お前が妖怪だからだ。それだけで十分なんだよっ!」


昔は一緒に暮らしてて、またいつか一緒に暮らしたいってみんなは言ってたのにどうして···


あまりの認識の違いに困惑していると、


「ほら、もう1発いくぞ!」

「くっ。」


何とか体を動かして今度は避ける。


「まだまだいくぞぉ!散れ、赫灰!」


今度は火の玉ではなく手のひらの上に灰のようなものが現れたかと思うと空にまく。それは宙に舞い、広範囲に降り注ぐ。私はそれを見ているしかなく、ゆっくりと降り注ぐ灰に触れた瞬間、


「つっ!」


燃え上がった。


(もしかして、これは触れたら燃え上がる灰?完全に妖力を使ったもの···。どうして人間が妖術を使えるの?)


訳が分からない状況で少しでもダメージを減らすために体を小さく丸める。


(この状況だと、相手も動けないはず···。)


体に触れると燃える灰が降り注ぐ中、動けるはずがないとちらりと目を向けるが男はなんでもない様子で降り注ぐ灰の中立っていた。


「俺も動けないはず、とか考えてたのか?はは!どうして自分を傷つける術を自分が範囲内にいる状況で使うんだよ。」


それもそうだと自分の考えは甘かったのだ今更ながら気づく。


(どうしたらここから逃げられる?)


ただでさえ、私は落妖なのだから戦っても勝ち目はないと知っている。だから、逃げる方法を考えるがあの男の注意をそらさないとそれも難しい。何とかして注意をそらさなければと考えていると、


プルルルプルルル


何かが鳴り響いた。男は音の元である何かを取り出して耳に当てる。


「あー、もしもし?今遊んでるんだけど何?」

『結界の展開が確認されたので連絡を入れました。一人では難しい場合は近くにいる者を呼びますが必要ですか?』

「遊んでるって言っただろ?ヨユーだよ、ヨユー。」

『···では、質問を変えます。その妖怪はどのような罪を犯したのですか?』

「あ?何だっていいだろ?とりあえず妖怪殺せば。」

『どうでも良くはありません。今すぐ答えてください。』

「あー、急に電波が悪くなってきたな。」


そう言い、男は電話を切る。


「さぁ、続きを···。ちっ、まだ動けたか。」


男は舌打ちをする。理由は遊び道具が目の前から勝手に無くなってたからだ。


「まあいい、すぐに見つかる。」


(それにしても反撃は無し、か。あの感じは恐らく猫又···。なのにしっぽは一つ。はっ、出来損ない程度すぐに狩れるな。)


男はそう言うと、その場を後にした。


「ここ···まで、来れば···。」


何とか死力を振り絞り、あの男から逃げ切ることは出来た。


(どうして攻撃されたの?その理由は分からない。だけど、別のことは分かる。私たち妖怪と人間との間には認識の違いがある。···だから、油断してはダメ。周りを敵と思わなくては私は殺される。それだけは嫌。何としても私は家へ帰る、必ず。)


それから、数日間体を休め妖力を体の回復に使い、傷は塞ぎつつあるものの警戒のため眠れない日が続いた。そのせいで拠点を変えようとした途中、私は路地裏で倒れてしまい動けなくなってしまった。


(寝てはダメ。起きてないといつまた襲われるか分からない。)


それでも体は動かない。路地裏から見えるそれほど大きくない道を誰かが通り過ぎる度に恐れる。あれは自分を探してるのではないか、そう思ってしまう。


警戒するように目の前の道をじっと見ていると、また人が通る。通り過ぎるまで緊張感を持ったままでいるが完全に姿が見えなくなる。


(通り過ぎた···。)


そう思い、安堵していると通り過ぎたはずの人間はまたこちらへと帰ってきた。そして、明らかにこちらに気づき近づいてくる。


(一度通り過ぎたのに···。それにこれはもしかして妖力?さっきのやつの仲間?)


近くまで来たことで近づいてくる人間が妖力を持っていることを感じる。さっき襲ってきたやつも人間にもかかわらず妖力を持っていた。そこから、こいつもさっきのやつの仲間かもしれないと思い逃げようとするが体は動かない。


人間は何か四角いものを取り出して触りだしたかと思えば、ついにゆっくりとこちらへ手を伸ばす。


(死ぬわけにはいかない!)


攻めてもの反撃と弱々しい力で噛み付くが人間はそれに対して一瞬身を引いたかと思うと、


「大丈夫だから、僕は絶対に君を傷つけたりしないから。」


そう言い、私を優しく抱き上げた。


信用なんか出来るわけない。私は人間のせいで死にかけたのだ。···それなのに、その言葉はまるで両親や友達がかける言葉のように優しく慈愛に満ちていた。


見ず知らずの世界に来て、死にかけて、どうしたらいいか分からなくて。黒くおおわれた空に光が差し込んだような気持ちだった。


だからかは分からないが、私はそれを受け入れ抵抗することはなかった。どうやら、人間は私のことを本物の猫と勘違いしているらしい。妖力についても何か使う様子は見えないし、ただそこにあるだけのように思える。それにしてはあまりにも多すぎる妖力だが、こちらとしてはありがたく体から溢れ出た分は回復のために使わせてもらった。


病院に着くや否や体の傷の深さを見られ、一度綺麗にしてもらった。


それから私を病院の元へ連れていった人間、どうやら縁と言うらしい。その人間は家に帰ってからずっと忙しそうにしていた。それも私のためのようだ。


(分からない。)


私がちゃんと会った人間は二人。一人は直ぐに私を攻撃してきた。二人目は今もこうして私のために働いてる。違いとしては、片方は私を妖怪と知り、もう片方は私を妖怪と知らないということだ。


(もし、知ってしまえば同じような行動をとる?)


そう考え、しばらくは猫として振る舞うことにした。


そして、私はもうひとつ気になることを見つけた。


(この人間の家族は?)


人間が生まれるためには両親が必要なのは知っている。なのに、それが見当たらない。私はそれを探すために家の中を走り回っていると、年季の入った部屋を見つけた。その中に入ろうとした時、


「いたいた。」


後ろから抱えられ、入ることは叶わなかった。不満を表すように一声鳴くと、


「入りたかったの?でも、もうこの部屋には誰もいないよ。···じいちゃんはこの前亡くなったんだ。今頃、お母さんやお父さんと同じ所にいるのかな?」


遠くを見すえて悲しそうな顔をする人間は泣きそうだった。私はどうしたらいいか分からず、


「わっ、何?」


頬を舐めてあげた。私の両親は私が泣きそうな時、いつもこうしてくれてたから。


「慰めてくれてるのかな?···ありがと。」


人間は少し笑顔になり、私を一撫でして居間に連れていった。


気づけば寝る時間になった。


電気を消して、横になったかと思うとすぐに眠っていた人間を眺める。


(完全に寝てる···。もし、私が妖怪だとバレたら何されるか分からない。だったらなにかされる前にこっちが···。)


鋭く研がれた爪を人間の首元にあてるが、そこから少しも動かすことが出来なかった。


(···寝よう。バレなかったらいいだけ。これでも、猫の物真似をさせれば隣に出るものはいなかった。)


そう、バレなければどうってことはない。


そして次の朝、寝ぼけて人間の姿に変わってしまったのをバッチリと見られた。


二度寝を終えて回り始めた頭で考える。


(やってしまった···。)


夢だと思い込み、同じように二度寝している人間を見る。寝たフリかと思えば本当に眠っており、それに気づいたこちらの力も抜ける。


(もう、どうでもいいや。)


一人目と同じなら攻撃してきただろうし、そんなことをしなかった人間を見て、人間と妖怪が一緒に暮らせる未来を幻視する。


「期待していい?」


そう問いかけるが返事はもちろん返ってこない。


「ふふ、冗談。おやすみ、縁。」


私はその縁の頭を優しく撫でてもう一度眠りについた。


朝、あまりの空腹に縁を無理やり起こす。


ここまで来れば吹っ切れており、むしろ堂々と振る舞ってみたが何もしてくる様子はない。


どうやら、そもそも妖怪が存在すること自体知らないみたいだ。一人目は妖怪を知っているみたいだったし、人間の中でも情報の格差があるようだ。


(楽しい。)


こうして警戒せずに自然体でいられるのは久しぶりだ。


(まだ怪我は治ってない、このままもう少しここにいても···。)


そんなことを考え始めた時、


「っ!」


ぞわりと寒気が体を襲う。私はあるものを感じとった。


(近くまで来てる···。)


私を攻撃したあの男が持つ妖力が近くまで来ていることに気づいた。


(どうしてここが?逃げ切ったと思ったのに···!)


かなりあの時襲われた場所から距離はとったはずなのにどうしてか場所がバレていることに動揺を隠せない。


(ここにいたら、縁も巻き込まれるかもしれない。)


あの人間のこちらへの敵意は尋常ではない。縁がいたとしてもそのまま攻撃してくる可能性も考えられる。そうだとすれば、妖力を扱えない縁は···。


そこまで考えた時、私の口は勝手に動いた。


「···ごちそうさま。昨日からお世話になったけどそろそろここを離れる。とても助かった、ありがとう。」


もしかしたら、同族である縁を人質にでもとれば逃げ切れるかもしれない。だけど、それをしてしまえば必ず縁は傷つく。それは嫌だった。


すぐに別れを告げ、その場を離れようとしたが足が止まる。


(もし、私が逃げきれずに殺されてしまったらこの世界で私は誰の記憶にも残らず消えてしまう。少しだけだけど、確かに私はこの世界で生きて人間を知った。それを誰かに覚えていて欲しい···。)


望んだことではなかった。しかし、私は確かにここで生きていた。それを世界に刻むように切実な願いをそこに残す。


「···私の名前は紫、猫又の紫。もう会うことは無いかもしれないけど、あなただけでも私がいたことを覚えてて···。」


元気な声で返事が返ってきた。それがどこか頼もしく、安心できた。


私は門から出るとすぐに本来の姿に戻り、妖力の反応がした方向とは別の方向へと走る。


(縁の妖力を借りたおかげでかなり怪我も治った。このまま逃げて逃げて、あいつが来れない場所まで逃げれば大丈夫。···それで、もしもう大丈夫になったらまた会いに来てもいいのかな。)


隔世には帰りたいが、その前にもう一度だけ彼に会えたらなんてことを思ってしまう。そうして、心が緩んだ瞬間だった。


「いらっしゃーい!」


通り過ぎようとした家の中から声とともに火の玉が飛んできた。


(よけ、れない···?)


突然の横からの衝撃に壁へと体を打ちつけられる。


「ぐ···。」


治りかけていた傷跡も開き、血がこぼれ落ちる。


「いやぁ、ちょっと妖力を見せてやれば反対側に逃げてくると思ったらまさかこんなに上手くいくとはな。本当に戦闘慣れしていないなぁ、いや教えて貰えなかったのか?出来損ないだからぁ?はははははっ!」


こちらの神経を逆撫でするような声でさらには馬鹿にするような内容を言い放つのはあの男だった。少しでも回復できるように会話をしようと問いかける。


「出来、損ない?」

「あぁ、妖怪の中では落妖って言うんだったか?妖術を上手く使えれるようになれば一人前と呼ばれる妖怪の中で、妖術を扱う器官が欠損した妖怪の中の出来損ない、落ちた妖ってな?」

「うっ···。」


何も言い返せなかった。


九尾の狐と呼ばれる妖怪や私たち猫又と同じように元はただの獣だった妖怪はいくらかいる。それが長い時を生き、妖力をその身に宿したことで妖怪となる。しかし、元から妖力を使えるわけじゃなかったからそれを使うための機能として体の外にしっぽが生える。それ一本が一つの妖術を宿しており、九尾の狐は合計八つの妖術を使うことが出来る。だから、猫又が持つ一つ目のしっぽは飾りでしかなくて二つ目が重要になる。


それが私には存在しない。生まれた時からそうだった。そして、それが一生生えることはないらしい。だから、私は妖術を扱うことは出来ず戦うすべを持たない。逃げ回るしか脳がないのだ。


「かくれんぼも飽きたし、そろそろ鬼ごっこでもするか。ここら辺には中にいる人間は自然と外に出ていき、外にいる人間は中に入れない結界が張ってある。だから、好きに逃げていいぜ。俺は10数えたら追いかけるからよぉ?」


男は勝手にルールを決めて私で遊ぼうとしている。そんな男に何も出来ない自分が悔しいが、これを好機と捉え逃げ切るしかない。


「いくぞ、いーち、にー、さーん···。」


数え始めたと同時に私は駆け出す。


(何としてでも逃げ切る。逃げ切って、家族や仲間の元に帰る、絶対に。)


体もプライドもボロボロ。でも、生きたいという気持ちだけはまだ残っている。それだけを頼りにただ前を見て走る。


商店街と思しき場所に出た。


(身体能力には差があるはず。このまま距離を離せば···。)


しかし、何かを踏んだかと思えば私を囲むように四つの棒が地面から出てくる。何かが起こる前に外に出なくてはと前に進むがそこまで目算で十mほど。


(間に合えっ!)


目の端で捉えた棒は三mほど伸び、まるで鳥籠のように四つの棒が赤い線で繋がった。何か分からないがぶつかってはいけない気がする。


(なら、上!)


ジャンプして三mを飛び越えようとするも上も赤い線のようなもので塞がれてそのまま体をぶつけてしまう。


「おい、起きろ。」


気を失っていた。


赤い線は炎のようで私はそれにぶつかり火傷をおうと共に跳ね返されて地面に叩きつけられたらしい。


どれくらい時間が経ったのか分からないが男が目の前にいるということはそれなりの時間が経ったのだろう。


「まさか、一つ目の罠に引っかかるとはな。歩いて追いかけてたらすぐそこにいるもんだから笑っちまったよ。」


男は傑作だと言わんばかりに笑う。


(もう終わり···?)


私を囲っていた火の檻はもう消えている。逃げようとすれば、逃げ切れるのかもしれない。だけど、体は動かない。もう心も折れてしまった。


男は一つ目と言った。まだまだこの先に罠があるのだろう。私はそれを避けながらこの男なら逃げられるだろうか。答えは否だ。そもそも、男が本気を出していれば私は出会ったはじめに殺されていたはずだ。


(私は、初めから遊ばれていただけ···。)


分かっていたことだった。その事実が余計に私を苦しめる。


私は生きているのだ。両親もいる、友達もいる、仲間もいる。確かに命を持ったひとつの生命なのだ。


(それなのに···それなのに、こいつは私をおもちゃとして殺そうとする。それが悔しい···。そして、何よりもそんな相手に一矢報いることも出来ない自分に腹が立つ···!)


どうして私は落妖なのか?


どうして妖術を使えないのか?


どうして手も足も出ないのか?


疑問がいくつも湧いてくる。


どうして···私ばっかり···?


「おいおい、泣いてんのか?化け物の涙ほど見苦しいものは無いな。そろそろ殺すか。」


気づけば涙が溢れていた。こんな男に涙を見せたくない。すぐに拭おうとするが体は動かない。


男は手のひらに火の玉を作り出して、それを私に向かって放った。


そして、それは私の足に着弾する。


「いやぁ、ミスったミスった。今度はちゃんと狙うから動くなよ?」


明らかに私を苦しめようとする意思があった。


しかし、今度は本気らしい。さっきよりも大きな火の玉を作り始めた。


隔世に住むみんなの顔が浮かぶ。そして、最後までこの男の顔なんか見たくないと目を瞑る。


(みんなに伝え損ねたことは沢山ある。後悔も。でも、最後に一つだけみんなのために願いたい。···私がいなくても元気で暮らして欲しい。それに、もしみんなが現世に来るようなことがあれば、縁のような人間に会えますように。)


私は出会えて良かったってそう思えたから。


「また会いたいな···。」


涙とともに言葉がこぼれ落ちた瞬間、何かが私に向かって火の玉を放とうとする男へ突っ込んだ。


「やめろぉ!」

「···え?」


それはもう会うことないって諦めていた人物だった。


「縁?」


いるはずがないはずの縁がそこにはいて、男に掴みかかっていた。

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