第7話 俺達の世界と君の世界と

この世界は幸せな世界だと言われているが。

俺はそうはどうも思えない。

桜花もそうだが俺もそう。


幸せな人生を歩んでいるとは到底思えないのだ。

だけど俺は桜花を見ながら。

何となくこの人生も良いな、と思い始めた。

それから翌日になって俺は桜花を安心させてから家に帰り。


そして自分で選択している(洗濯出来る)制服に着替えてからそのまま学校に向かおうとした。

すると玄関を開けると.....


膝を曲げてから頬杖をついている少女を見つけた。

所謂.....美春だ。

ブスッとしている感じだが.....ど、どうした。

こんな朝早く。


「昨日は何処に行ってらしたんでしょうね。藤也くん?」


「.....すまん。新しい会社の面接もあってだな.....」


「.....ふーん。.....ふーん..........?」


「春美。ゴメンって。マジに」


「まあ良いけど。でも不安になるからメッセージくらいは返事を返してね」


「.....はい.....」


キツく言われながらも。

飴と鞭な感じで、はい。お弁当、と渡してくる春美。

相変わらずだなコイツも。


俺に対して世話焼き女房だ。

思いつつ俺は頭を下げて受け取る。

それから登校の為に階段を降りて行く。


「それでちょっとお話があるんだけど」


「.....何でしょうか。春美さん」


「山口さんと仲良くならない?.....もし良かったら。だって何時も.....一人ぼっちは可哀想だから」


「.....え?.....あ。えーっと.....」


俺は今朝、桜花から言われた事を思い出す。

学校では距離を考えた同士で付き合おうね。甘々なんて知られたくない。だって藤也と私の秘密だもん、と言う事を、だ。

頬を掻きながら俺は春美を見る。

春美は?を浮かべて俺を見ていた。


「.....どしたの?」


「いや。何でも無い。.....お前がそう言うなら考えなくもないが.....俺はアイツは苦手だよ」


「.....でも何時迄も苦手って言っても仕方がないよ?.....可哀想だから」


「.....ま、まあ。うーん」


そんな会話をしながら歩いていると。

黒い車が通って行った。

その車には桜花が乗っているのに気が付いたが。

俺を見てから会釈だけして去って行く。

やはりクールな感じに戻っているな。


「.....山口さんと知り合いなの?」


「.....いや。ただクラスメイトだから会釈した。それだけだろ」


「.....ふーん。成程」


それから俺達も歩いて行く。

すると春美が俺に向いてきた。

藤也って女性にモテるよね、と。

いきなり何を言い出すんだ我が友人よ。

思いつつ目を丸くして春美を見る。


「だってそうでしょ?優しいしね」


「.....そうか?.....俺は.....優しくないさ」


「.....過去の件もあるからかな」


「.....そうだな」


優しいという感情は.....おかしいと思う。

そもそも優しいという感情が何かは分からない。

優しいって何だ?

そもそも優しくするって何だろう。

思いながら歩いていると。


「藤也!」


と声がした。

俺達は驚きながら背後を見る。

そこには.....頭をリボンで結んだ様な少女が立っている。

緑色のリボンで結んでいる.....え?


かなりの美少女。

あの頃の童顔が無い。

これは.....嘘だろ。

マジか?


「久々だね!私!久留米燈(くるめあかり)だよ!覚えてる!?」


「久々だな。.....小学校以来か?」


「うん。小学校以来だね。.....実はこっちに藤也が居るって聞いて.....居ても立ってもいられなくて!.....また.....一緒だね」


「.....そうだな。懐かしいな。付き合っていた頃が」


そんな会話をしていると。

中学時代からの友人の美春が???を浮かべて俺達を見ていた。

すると、あ。と気が付いた様に頭を下げる燈。

そして笑顔を浮かべた。

無邪気な笑顔を、だ。


「初めまして!私は藤也の元.....今は違うけど恋人の久留米燈です!」


「.....え?あ.....初めまして。私は来宮美春です。よろしく.....」


「わー!今はもしかして.....美春さんとお付き合い?藤也」


「.....いや。この子はダチだよ。.....付き合っているんじゃ無いけど.....でも大切な友人だ」


「そうなんだ!じゃあまた私と.....」


「.....」


あ。で。でも止めておこうね。

君が.....傷付くからね、と悲しげな笑顔を浮かべる。

そして俺の手を優しく包んでくる。


じゃあ行こうか藤也!春美さん!、と笑顔で、だ。

俺は、オイ!引っ張るなよ!、と慌てる中。

こんなボソッとした声が聞こえた。


「なんだよ。イチャイチャしちゃって」


と、だ。

誰の声か知らないが俺は振り返る。

しかしそこに居たのは春美だけ。

春美がそんな言葉を発するか?、と考えるが。

考えても答えが出なかった。



教室に入ってから.....なんだが。

凄い寒気がする。

おかしい.....4月なのに.....なんだこの寒気は。

まるで12月の寒気だぞ。


どうなっている。

思いつつ背後を見たかったが。

何か.....見れなかった。


「藤也!藤也!」


「分かった分かった!何だよ!」


「駅前にタピオカの専門店が新しく出来たの!行ってみない!?」


「タピオカの専門店?.....それは確かに美味しそうだな」


「私がお金を出すからね。付いて来てもらうんだから」


何という偶然か。

燈は俺のクラスに転校して来た。

クラスの男子どもはみんな諦めた様子で俺を見ている。


しかし俺は.....というと。

そんな男子に目を向ける暇が無い。

何故なら.....凍てつく視線が.....。

クラスのみんなも勘付き始めている。


「燈」


「うん?何?」


「お前.....寒気とか感じないか?」


「.....???.....え?」


燈は首を傾げて、そんな事ないよ?、と言う。

俺はその言葉に苦笑しながら、そうか、と言っていたのだが。

いきなりガタッと背後から音がした。

そして近付いて来る。

足音が、だ。


「.....」


「.....あ、はい。何でしょう」


その視線はまさに頂点と呼べる様な。

そんな目線だった。

鬼と言えるかもしれないが.....。

桜花である。

俺は冷や汗を滝の様に流した。


「ごめん。教室でイチャイチャするのは校則違反だから。生徒指導の先生呼んでくる。不純異性交遊は禁止だから」


「.....や、山口。.....それは流石に.....」


「不愉快」


「.....あ。はい」


教室では、あの山口が口を聞いているだと?、などと波が立ち始めた。

俺は桜花を見ながら顔を引き攣らせる。

あまりのあのギャップとかと違って何とも言えない。

怖すぎるんですけど。

すると俺に話掛けていた燈が眉を顰めて不愉快そうに立ち上がった。


「誰ですか?貴方」


「.....私は山口桜花。.....生徒会役員」


「.....桜花さんですね?.....別に不純異性交遊じゃないんですけど。話し掛けているだけです。私は藤也くんに」


「そう。.....でも私から見たら不愉快極まりない。目の前で。.....本にも集中出来ないから」


「いや。そんなに大きな声で話してないですよね?」


あの.....ちょっと。

どうしたら良いのだろうか。

思いながら俺は困惑しつつ見ていると。

今度は美春がやって来た。

まあまあ、と言いながら、だ。


「.....教室で騒ぐの良くないよ?」


「.....美春さん。この人を説得しているだけです」


「.....そう」


「.....藤也。どうしよう」


「.....いや。俺に聞くな.....」


目を・・にしながら小動物の様に俺に向いてくる美春。

何か.....燈が来てから。

ヤバい事になってきたんだが。

どうしたら良いのだろうか.....、と思いながら。

俺は盛大に溜息を吐いた。

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