第5話 一緒にお風呂

図書室から出た後に俺は給仕室、リビングなどを案内してくれた。

結局の話、本当に俺はお世話係なんだなって思う。

でも.....こんな楽な仕事に最低賃金40万。

何故かと思ったが。

今更ながらも納得し始めている。


「藤也」


「.....どうした?」


「学校では秘密ね。.....こういう関係」


「.....まあそうだろうな。.....普通に考えたらお互いにメンツがあるしな」


「.....うん。.....でも家に帰って来たら.....私、ベッタリ甘えるもん」


「お、おう」


俺は汗を流しながら苦笑いで反応する。

すると桜花は、でも本当に不思議だね.....今日出会ったばかりなのにこんなに暖かくて.....幸せなの、と言ってくる。

そして胸に手を添えて.....俺を見てくる。


「.....幸せがいっぱいって感じだね。久々に」


「.....そうなんだな。.....それは良かった」


そうしていると。

俺のスマホの電話が鳴った。

そして着信を見ると.....そこには美春の文字が。

あ。ヤベェ。今日美春が家に来るの.....忘れていた。

思いつつ俺は慌てて桜花を見る。


「桜花。すまないけど電話してくる」


「.....え?.....誰に?」


「.....ああ。俺のクラスの友人だ」


「.....あ。そうなんだ。.....うん。良いよ」


そして俺は、すまん、と言いながらそのまま玄関から外に出てから電話をする。

すると、もー!!!!!ちょっと藤也。何処に居るの!?、とプンスカ怒っている様な声がした。

俺は、すまん。バイト先だ、と告げる。

すると美春は怒るよりも先に、え?、と唖然とした。


『もう見つかったの?バイト先』


「.....ああ。ハウスキーパーの仕事だ。所謂.....お手伝いさんだ」


『.....ああ。藤也なら確かにやれそうだね。.....じゃあ頑張って。今は忙しいよね。帰って来るまで待とうか?』


「い、いや。.....今日はちょっと忙しいから」


『.....?.....あ。仕事が深夜まで?.....でも無いよね?.....だって高校生だし。.....何処でハウスキーパーしているの?』


それを言ってしまうとマズイんだが。

マジ卍になってしまう。

死語ではあるんだが.....本当にそうなる。


考えながら俺は必死に弁解をする。

また明日.....学校で話すから今日はすまない、と、だ。

すると美春は怪しがりながらも、うーん。分かった、と電話を切ってくれた。

俺はホッとしながら背後を見る。


「..........」


そこには.....嫉妬している様な顔をした.....ジト目の桜花が立っていた。

まるで小動物が俺を見ているかの様な。

怒っている感じだ。

威嚇している。

俺は冷や汗を流す。


「.....確か友人さんって.....女の子だったよね。.....浮気は許せませんなぁ」


「浮気って.....違う。俺と美春はそんな関係じゃない。安心しろ」


「.....え?.....そうなの.....って騙されないよ?藤也。怪しい」


「.....ハァ.....」


ちょっと面倒臭いが。

説明は大切。

思いながら俺は全てを説明した。

出会った頃の事とかを、だ。

すると渋々ながらも桜花は納得してくれた。


「.....そうなんだね。.....大切なご友人なんだね」


「.....そういうこった。だから俺はそんな関係じゃないよ」


「.....約束だよ?」


「.....?.....何がだ?」


「.....貴方は私のハウスキーパーだから。.....浮気しちゃ、め、だよ」


「.....そうだな。甘々のお嬢様の相手をしないといけないしな」


そんな感じで話しながら明るくなった桜花を見つつ。

そして屋敷の中に戻る。

それから俺は時計を見る。

時計は既に19時に達していた。

すると誉さんがやって来る。


「桜花お嬢様。井上様。.....お食事で御座います」


「だって。藤也。一緒に食べよ。またアーンして」


「はいはい。分かりましたよお嬢様」


この甘えん坊め。

俺は思いながらも。

図書室の一件で.....これまでの一件で悪い気は全くしなかった。

むしろ.....桜花に対しての目線が変わった気がする。

そしてまた桜花は俺に抱き付いて来る。


「藤也。.....ゆびきりげんまんだよ。.....絶対に他の女の子には傾かないで」


「.....そんな事は無いけど.....何故そこまで?」


「ふあ?.....い、いや!!!!!特に何でもない!!!!!」


ボッと赤面してから慌てて手で目の前をかき消す様に乱す桜花。

するとカチューシャが外れて床に落ちた。

俺はその事に、落ちたぞ、と拾い上げる.....と。

そこには.....イニシャルが刻まれているのに気が付いた。


「.....Y・Y.....?」


「.....あ。これ?.....これね。実はお母さんのカチューシャなんだ。.....山口百合子(やまぐちゆりこ)って言うから」


悲しげにカチューシャを受け取りながら嵌める桜花。

俺はその顔を見ながら、会いたいのか。お母さんにお父さんに、と言う。

するともっと悲しげな顔をした。


それから、当たり前だよね。ママとパパだもん。会いたいよ。仕事ばかりで帰って来ないけど.....娘なんだよ?私は、と言う。

どんな形でも娘なんだよ?、と。


「.....お母さんに抱き締めてほしいのに.....」


と泣きそうな顔になる.....桜花。

俺はその頬を両端からムニッと引っ張る。

桜花は、何するのー、と言ってくる。

そして俺は、落ち着け、と言った。


「.....親が側に居るだけでも幸せ者だ。お前は。.....きっと会えるさ。.....だから悲しい顔をするな。.....お前は笑った顔が良いんだ」


「.....藤也.....」


「泣いてばかりじゃ駄目だぞ。落ち着け」


「.....藤也.....うん。分かった。そうだよね」


こういうのも仕事だと思う。

励まして.....主人を笑顔にするのも、だ。

だから俺は笑みを浮かべてしっかり励ます。

すると目が虚になっているのに気が付く。

桜花は眠たそうな顔をする。


「.....夕食よりも先にお風呂に入ろうかな。目を覚まさせよう。ね。藤也。一緒にお風呂入ろう」


「.....冗談だろ。.....それは流石に恥ずかしさを通り越しているぞ。.....流石に」


「.....うん。当たり前。だって1人でお風呂入るの嫌だ。お化け出るもん怖いもん」


「.....お前さんの羞恥心の度合いが分からない.....」


パンツや下着を見られて恥ずかしがる癖に.....裸の付き合いはアリってマジかよ。

一緒に風呂って.....。

さすがに勘弁して頂きたいのだが.....。

誰か止めてくれ.....!

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