第3話 え?泊まるんじゃないの?

「ショートケーキ美味しかったね。藤也♪」


「.....そうですね.....」


「というか思ったけど何で敬語になってるの?」


「.....いや。お前のギャップが凄すぎて.....言葉が自動的に敬語になったんだよ。頭の麻痺で」


正直.....ここまでの甘えん坊さん女の子だとは思わなかった。

何だかそれに.....両親の話を聞いてからは山口の事を少しだけ誤解していたかもしれないと思える様になった。


それは決して悪い意味ではない。

山口も.....1人の女の子だと。

そう理解したと言う意味で、だ。

だから勘違いはしないでほしいものだ。


「ねえ!.....次何しようか」


「.....次か?.....次は.....って俺の帰る時間は.....今18時だし.....」


「え?今日はこの家に泊まるんじゃないの?だって遅いし」


「ファお!?」


は?は?.....は?

変な声が出てしまった。

俺は、!?、と思いながら直ぐに、ちょっとごめんな、と山口の部屋から出て席を外してからそのまま誉さんに確認に向かう。


すると.....給仕室に誉さんは居た。

俺を、どうしました?、と見てくる.....が。

その.....計画性有りな感じなんだが.....予想していたのか!?


「俺.....何だかこの家に泊まる事になっているんですけど.....良いんですかね?.....このままで.....」


「.....桜花お嬢様のお父様もお母様も放任主義。.....大丈夫ですよ。桜花お嬢様がそう言うのならば泊まってあげてくれませんか。いきなりで大変申し訳無く思います。此方で出来る限りの準備は致します。履歴書を見ましたが井上様は.....お一人暮らしの様なので.....」


「.....!」


俺は顎に手を添えながら。

そして.....そのまま考えてみる。

今日はアパートには鍵を掛けたから.....大丈夫だよな。


そう考えながら、だ。

山口と仲良くなれる機会だ、と思うと。

顔を上げる俺。


「.....分かりました。.....山口も悲しんでいる様ですから。それだったら慰める目的もありますしね」


「.....有難う御座います。.....貴方は突拍子でも.....受けてくれる。.....本当に良い方ですね。.....色々な人と関わって来ましたが.....その中でもダントツです。手探りで申し訳ありません」


「.....ああえっと。俺は良い人じゃないです。.....でもどっちにせよ人を悲しませるのは嫌ですからね俺も」


「.....有難う御座います」


誉さんは柔和な感じを見せる。

そうしていると、藤也ー、と声がした。

俺は?を浮かべて背後を見ると。


また後ろから勢い良くまた抱き締められた。

そして俺の背中に顔を押し当ててくる。

恋人の様に呟く山口。

悲しげな声がした。


「.....藤也。.....泊まる?」


「.....ああ。.....まあ今日ぐらいなら大丈夫だよ」


「やった!!!!!有難う!!!!!」


満面の笑顔になる山口。

それからポケットからゴソゴソと何かを取り出した。

それは.....四葉のクローバーの様な栞.....の様に見える物だ。

でも何か.....押し花に見事に失敗している。

赤面で恥ずかしがる山口。


「.....私.....その。.....ごめん。お礼と思いながらこれを藤也にあげようと思ったのに失敗した.....何度やっても」


「.....アハハ.....でも有難うな。.....嬉しいよ」


「.....そ、そう!?」


俺の手を握ってから赤いままだが花咲く様な笑顔を浮かべる山口。

子供の様な無邪気な姿に赤面せざるを得ない俺。

全くな、と思いつつ、だ。


そして誉さんを見る。

誉さんは、本当に.....懐きましたね、と笑みを浮かべる。

それから誉さんは、ささ。早くお戻りになって。桜花お嬢様。夜までパーティーですよ、と言ってくる。

やった、と喜ぶ山口。


「じゃあ藤也。.....行こう!.....この家の案内をしてあげる!」


「.....お、おう」


「行ってらっしゃいませ。桜花お嬢様。井上様」


それから律儀に何度も頭を下げる誉さんに会釈してから。

俺達はそのまま冒険をする様な形で.....屋敷内を散策する事になった。

時間は沢山出来た事を.....山口はとても喜んでいる。

その事に、まあ良いか、とも思いながら俺は引っ張られつつ屋敷内を歩いた。



「それはそうと藤也」


「.....何だ?山口」


「その山口っての止めてほしいかも。私は桜花だから。オウちゃんって呼んでほしいかな」


「.....そ、それは.....ちょっと勘弁してほしいかもしれない。御免な」


「何で?何でー!?」


御免な、と思いながらだったが。

潤んだ目で小動物の様に俺を見上げてくる。

仕方が無い.....桜花にしよう。

流石にそんな恋人関係の様な名前で呼ぶのはキツい。

いくら俺でも相当にキツい。


俺は考えながらどんどんと迫って来る桜花に、分かった!、と言ってから。

頬を掻いてからそのまま、桜花、と呼ぶ。

すると桜花はニコッとした。

そして、エヘヘ、と言う。


「ありがと!」


「.....オイ.....良い加減にしろよ.....恥ずかしい」


「えー。だって藤也だから。.....これからは私の藤也だもん」


「.....お前のぬいぐるみか俺は」


そんな会話をしながらそのまま俺達は、図書室、と呼べる場所に来た。

所謂.....本の倉庫らしい書斎の様な場所だが。

すると桜花は、私の好きな本を紹介してあげる!、と満面の笑みを浮かべる。

俺は?を浮かべると。

ちょっと待っててね!、と言いながら勢い良く期待混じりな感じで桜花は図書室に突撃の様に入る。


それから直ぐに勢い良くドサドサドサドサと嫌な音がした。

つまり本が崩れた様なそんな音だ。

俺は唖然としながら、桜花!、と慌てて思いっきり呼ぶ。


すると桜花が、助けてー!、と叫んでいた。

俺は扉のノブに手を掛ける。

そして扉を開けた。


「.....おう.....か?」


図書室に入ると。

パンツが目の前にあ.....った。

ピンクの熊さんパンツだ。

さっきも見た変わってない可愛い下着。


可愛らしい刺繍が施されており子供下着だ。

何て事を言っている場合ではない。

桜花が無数の本に埋もれている。


俺は息が出来ないだろう、と思い本を漁ってから急いで救出した。

すると救出した桜花は俺に赤面しながらスカートを押さえる。

俺を.....静かに見上げてくる。


「.....見た?.....下着.....」


「.....すまん。.....2度目だが.....今度も見た」


「もー!!!!!えっち!!!!!」


><の目をしてから無数に手を回転させて本が桜花から飛んでくる。

俺はそれを躱しながら、すまん!、と謝る。

そして桜花の機嫌を取った。

桜花は涙目で俺を見ていて頬を膨らませてからプイッと横を見る。

えっち、と言いながら、だ。


「.....すまんって.....」


「.....でも藤也だから.....まあ良いけど」


「.....いや。良くは無いだろ」


そんな会話をしながら少し経って俺達はクスクス笑う。

そして笑みを浮かべた。

少しだけ埃まみれになった彼女の肩を叩いたりしながら。

本を見つめてみるが、大きなこの場所、と思った。

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