第2話 砂糖ですか?水飴ですか?黒糖ですか?

氷姫、又は、塩対応。

それが.....山口桜花の教室でのあだ名だ。

だけど何というか.....その。

先程みたいな転け方をされると.....何だか笑いが出てしまう。

笑っちゃいけないのだけど。


必死に笑いを抑えながら俺は給仕室で採用試験を受けていた。

すると.....その試験官。

給仕室の休憩室にて召使いに当たる中年くらいの年齢だと思われる女性の佐藤誉(さとうほまれ)さんが俺に対して、合格ですね、と柔和に言った。


俺は驚愕しながら、はい?、と驚きの顔を見せる。

まさか受かる.....とは、と思いながらの感じで。

すると誉さんはこう言った。


「貴方様は桜花お嬢様のクラスメイト様なのでしょう?それから.....お金目的では無い。桜花お嬢様がこの場所に貴方様を通した時点で試験は合格ですよ。.....お金を欲しがるやましい顔をして無いのもありますが。.....これで合格じゃなかったら何を合格と言うのでしょう」


「.....あ.....はい.....」


予想外過ぎる。

何というか全て面接だったが。

無茶苦茶な試験だな。

こんな簡単に合格にしてしまうとは.....。


誉さんは俺を本当に信じた様な顔をしているし。

思いつつ椅子に座っている俺の横に立っている山口を見る。

山口は真剣な顔で俺をチラチラ見ていたが合格と言ってからニコッとした。

そして俺に抱き着いて.....くる。


まるでぬいぐるみを抱く様に、であるが.....ファ!?!?!

そしてスリスリしてくるのだが!

いきなり何してんだコイツ!

俺は慌てて誉さんを見る。

誉さんはこの対応は予想通りだという感じで柔和に俺を見てくる。


「ああ。言い忘れていました。.....桜花お嬢様は相当でかなりの甘えん坊です。.....大切になさって下さい」


「そういう事。.....ギャップに驚くかもしれないけど.....宜しくね。藤也!」


「いや.....冗談.....嘘だろお前.....!?うわ!抱き付くな!」


いきなりのハグに衝撃を受けつつ。

甘々アタックに俺は耐え難く山口を引き剥がしてから誉さんをもう一度見る。

そ。それで仕事は!?、と言いながら。


すると誉さんはこれにも冷静に対応した。

お仕事は全てお嬢様のお世話です、と笑顔を浮かべる様に、だ。

それって全然ハウスキーパーの意味が無いんだが。

この甘えん坊の相手をするって事だろ。


「私のお世話していた人を辞めさせたからね。だから.....藤也。君が来て良かった。これでいっぱい甘えれるから。嬉しい」


「.....は?.....それマジにご冗談ですよね?」


「え?何で?冗談じゃないよ?.....私は.....甘えたいもん」


すると山口は座っている俺の手を引いた。

そして、ねえ!早速遊ぼう!、と笑顔を浮かべる。

ガタンと椅子から転げ落ちる様になる俺の手をそのまま引き始める。

まるで.....花園への誘いの様に、だ。


その顔は保育園の園児の様なそんな顔だ。

誉さんに救済を求めたが、行ってらっしゃいませ、と頭を下げてそのまま言われるだけで止められる事は無かった。


俺は、ヒェ、と思いながらそのまま連行の様に連れて行かれる。

そこは山口の自室だと思われる場所だ。

待ってて。片すから、と言う山口に慌てながら聞いた。


「そ、そういえば.....お前の両親は.....?」


「.....お父さんもお母さんも忙しいって。.....みんな相手してくれないから大丈夫だよ」


「.....そ、そうなんだな。.....それは.....困ったな.....うん」


「.....藤也」


「.....何.....でしょう?」


「.....私っておかしい?お父さんもお母さんも相手してくれないからそれから甘えん坊になっちゃった感じだから」


え?.....いや。

聞いた限りでは少なくとも愛着が無いという事だ。

何がおかしいのか分からない。

甘えん坊になる理屈は整っている。


思いつつ俺は素直に答える。

顎に手を添えて、だ。

答えを待つ様な悲しげな目をしている山口に、だ。

そうなるのはおかしく無いと思う、と。


「.....だって両親に相手されないんだよね?.....だったら何か.....おかしく無いと思いますが」


「.....そ、そうだよね!やっぱり私は.....おかしく無いよね!有難う!藤也!」


と言いながらまた抱き着いてくる山口......コラコラ!!!!!

俺は慌てて引っ張りながら剥がす。

そして山口を見る。


山口は、えへへ、と紅潮して笑顔を浮かべている。

それからスリスリしてきた。

俺はまた引き剥がす。

何度目だよこれ、と思いつつ赤面で。


「.....そういえば藤也.....って良い香りがする。洗剤同じ?」


「.....あのな.....恥ずかしんだけど.....抱き付くの止めてくれないかな」


「私は◯フランだよ!ね?藤也は?」


「話を聞いて!!!!!」


そんなツッコミやらツッコミ返しやらを受けながら。

俺は暫くその場で頭をガリガリして悶えながら暴れていた。

追い掛け回されて追い掛けてくる。


そんな感じで、だ。

こんな甘いとは.....!

コイツがこんな性格だとは.....!



「藤也。.....藤也。良い名前だね。えへへ」


「.....そ、そうですか。.....お前の名前の桜花ってのも良い名前だと思う」


「そう?.....嬉しいな。えへへ」


「.....それにしてもお前の部屋もやはり広い部屋だね。やっぱり」


そう?だよねぇ、と俺に、にへら、としながら向いてくる山口。

ニコニコしながら、だ。

俺は改めて苦笑しながら山口の自室を見渡す。

扉には、桜花、と桜の模様で書かれたネームプレートがあった。


ピンクを基調にしたレースがあしらわれた部屋だが.....こんな山口のクールな感じのイメージをひっくり返す様な部屋だとはマジに思わなかった。

思いながら驚きつつ周りを見渡していると.....。

ノックがあり、桜花お嬢様、と誉さんが入って来た。


「あ。そこに置いておいて誉さん。さっきの分だよね?」


「その通りです。桜花お嬢様。.....置いておきます」


誉さんは畏まりながら。

何かを置いてから静かに頭を下げて去って行く。

俺は首を傾げながら机に置かれた物品を見る。


それはどうやら.....お菓子の様だ。

確かこれ.....アフタヌー.....何だっけか。

それの様な気がする。


紅茶や砂糖の様な物が置かれておりポットもあり湯気が立っている。

こんな時刻から三時なのか?、と思っていると。

金色のフォークを俺に、はい、と手渡された。

満面の笑顔で、だ。

何?


「今日はスペシャルだから。はい。私の口に運んで。.....それで一緒に食べよ?藤也」


「.....はい?」


何か.....うん。

言葉を理解するのに20秒掛かった。

それからボッと赤面する俺。

そして、ば。馬鹿なのか!?、と言うが。


だってこういうの私はアーンってしてもらって食べさせてもらってるよ?、と目をパチクリする山口.....さん。

え?マジで.....?

甘すぎるだろそれ.....!?

あ、アホな!?


「はやくぅ。食べようよ」


「.....あ、はい.....」


そう言えば.....いつの間にか俺、敬語になっているのだが。

しかし俺は、今はそんなものよりも、と掻き消しながら山口の口に小さく切ったショートケーキを運んでみる。

山口はそれをパクッと食べてから、美味しい!、と顔を赤くしながら綻ばせた。

やっぱり誉さんのケーキは美味しいなぁ、と言いながら、だ。

ウェイ.....。


「とうやぁ?君も食べて良いよ?」


「.....うん.....」


「なになに?もしかして恥ずかしいの?じゃあ一緒にお揃いで食べよ〜」


「もっと心臓に悪いです.....」


その.....こんな日々が何時まで続くのだろうか。

まるで夫婦じゃないか。

いや。まあここに応募した俺が悪いけど。


思いながらショートケーキのホイップを口に付けてから顔を近付けてくる山口を見つめながら後退する。

恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。

心臓がマジに止まるかもしれないんだが.....可愛過ぎる.....し。

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