♡教えてハムおじさん♡
x頭金x
第1話
朝8時、コンビニで待機しているハムおじさんを呼びに行くのが高良田健の仕事だ。高校を中退してからいろいろなアルバイトをしたが、今の仕事が一番稼ぎがいい。ちなみにこのコンビニでも以前働いていた。従業員の人たちとは今も仲が良い。
「おはよーございまーす」
入るなり声をかける。コンビニの従業員、そしてブリーフ一丁のハムおじさんへ向けて。
「…おはよー」
と5歳の娘をもつ一重で巨乳の主婦の増谷さんがパンを整理しながら言う。
「…おはようございます」
ボソボソと漫画家を目指している35歳の陰気な赤城さんが言う。ハムおじさんは開かずの雑誌の中身を何とか見ようと必死になっている。
「おじさん、時間だよー、そろそろ行くよー」
ハムおじさんはもう少しで、金のために脱いだ落ち目のアイドルの乳首が見える所まで雑誌を開いていた。開かないように止めてあるテープが軋んでいる。高良田健はいつものように3枚入りの薄切りハムを一つ買い、店内で開けて一枚床に放り投げた。そのハムを這いつくばってハムハムするのがハムおじさんの一日の始まりだ。その様子をスマホでライブ配信する。増谷さんと赤城さんはその様子を見て見ぬふりをしている。増谷さんは相変わらずパンをパンパンにしているし、陰気な赤城さんは陰気なままだ。ところで雑誌を止めてるテープの名前ってなんなのだろう?そもそも名前などあるのだろうか。
高良田健はハムハムしているおじさんに首輪をかけて、じゃあ、行こうか、と声をかけて鎖を引っ張った。ハムおじさんは四つん這いのまま高良田健と一緒に店の外へ出て行った。
正午、いつもの公園へ着く。いつものベンチに座ろうとしたが、そこには子連れの母親2人が座っていて、遠くで走り回っている娘達を眺めながら歓談していた。高良田健はその2人の前に立ち、無言で交互に2人の目を見つめた。子連れの母親2人の表情が徐々に強張っていく。中々イケメンの爽やか君の隣に、鎖で繋がれた四つん這いのおじさん。恐怖!!2人は恐怖を押し殺しながら、高良田越しの娘達の無事を確認する。娘達は相変わらず走り回っている。母親達2人はど、どうぞ、と言っておもむろに立ち上がり、脇を通り抜けると全速力で娘達の元へ向かって走り出した。
「おじさん!!行け!!」
と高良田健は2切目のハムを母親達の走る方向へフリスビーを投げるように投げた。おじさんははっはっはっとよだれを垂らしながら同じ方向へ走り出し、空中で見事にハムを口でキャッチした。そしてもう少しで娘達に届く一歩手前で、2人はハムおじさんにキャッチされた。ハムおじさんは興奮している。ブリーフがはちきれんばかりに盛り上がっている。母親達は叫び、喚きながらハムおじさんをボコスカと殴ったり蹴ったりしている。もちろんおじさんのハム太郎は元気なままだ。
高良田健はその光景をいつものベンチに座ったまま見ていた。そしてブリーフ一丁のおじさんを足蹴にする母親達を娘達が見ていた。しばらくすると母親達が娘を抱き抱えて公園から飛び出していった。やがて警察がやって来るだろう。
地面に虫ケラのように横たわっているおじさんのハム太郎は元気だろうか?きっと元気だろう。高良田健は最後の一枚を自らの口に放り込んだ。
♡教えてハムおじさん♡ x頭金x @xzukinx
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます