4.宴は終わる。されど……

 「ふむ。ところで、青年、いくら熱心なクリスチャンだからと言って、どうしてこんな大それたテロに加担したのだ? この場には、青年が神聖視する天使も何人か参加しているのだぞ?」


 意地の悪い目つきで彼を見る私をなだめつつ、夫がとりなすように尋ねます。


 「……さんが」

 「ん?」

 「ファミィさんが、悪魔なんかの義娘になることが、我慢ならなかったんだ!」

 「ふぇっ!? ファミィ、ですか?」


 あらあら、どうやらこの青年、うちのファミィに片思いというか横恋慕していたみたいですね。

 まぁ、確かに、ファミィはその美貌と優しく穏やかな性格、さらに天然なところも含めて、研究室に出入りする若い男性陣からはアイドルみたいな扱いをされてますけど。


 「ファミイさんは、こんな僕にもやさしくしてくれたんだ!」


 ──あ、自己陶酔的語りに入った。


 いわく、この世に降りた最後の天使。

 いわく、絶滅寸前の大和撫子の系譜を引くお嬢様。

 いわく、あらゆる人に分け隔てなくその笑顔と優しさを振り撒く聖女。


 ……なんというか、母親の目から見ても150%美化された「理想のお嬢様」像が、青年の心の中で構築されているようです。

 親の欲目を除いても、十分いい子だとは思いますけど、さすがにそこまで完璧超人じゃありませんよ?


 結局、想い人が「悪魔の娘」になることが嫌だったというのが、(建前はともかく)ゲオルグ青年が今回のテロに加担した動機のようです。


 短絡的かつ愚かですね~。

 過激派の目的は示威行動、及びこの場にいる人間側の重要人物達(あわよくば私)を亡き者にして、上手くいきかけている悪魔と天使の人間界在住に水を差すつもりだったのでしょう。


 この場には、さまざまな種族が集ってますが、肉体的にはやはり人間が一番脆いですしね。そういう状況に陥った時、青年自身は無事に済むとでも思っていたのでしょうか?

 まぁ、人間には手を出さないから、と騙されていた可能性も多々ありますが。


 それにしても……。


 「青年よ、その思考には、一番最初の部分で問題があるぞ」

 「──知ってるさ。ファミィさんは、人造人間だって言いたいんだろ? でも現在では、たとえ人の手で生まれた者だってキチンと”人”と認められてるんだッ!」


 いえ、それは確かにそうなのですが、そうじゃなくて……。


 「えっと、ゲオルグさん、ですか? ファミィは、ファミィのこころは、悪魔なんですけど?」

 「…………は?」


 キギーーーッと錆びたブリキの玩具のような音を立てて、ゲオルグ青年が、製作者である私のほうに視線を向けます。


 「ええ、娘自身が言うとおり、ファミィの中にはファムカと呼ばれていた悪魔の魂が宿ってます。さらに言うと……」


 一瞬のタメを作ります。ああ、青年が絶望に満ちた表情でイヤイヤと顔を左右に振っています。うふふふ──ダ~メ、ちゃあんとお聞きなさい。


 「ファムカ自身の性別は、男の子ですよ?」

 「うーーーーーーーわーーーーーーーぁーーーーーーーーーーん!!!」


 あはは、真っ白に燃え尽きたみたいですね。

 そもそも、多少なりともファミィと親しい人には、彼女が自分で素性を打ち明けますから、このゲオルグ某は、その域にすら達していない単なるストーカーだったのでしょう。


 廃人と化した青年を拘束して控室に片づけた後、披露宴はつつがなく進行、終了したのでした、まる。


 「うーむ、我が奥方は、ある意味我ら悪魔よりも数段狡猾だな」

 「キャルを怒らせるのだけは、やめたほうが無難そうねー」


 魔族、天使の大立者が、失礼極まりないことをボソボソ話しています。

 失敬な! 私は正当防衛やそれに類する行動でしか、自分の力を使いませんよ?


 ちなみに、くだんのゲオルグ青年なのですが、ちょっと驚いたのですが、アカデメイアには正式に退学届が出されており、また太陽系統合政府の戸籍台帳からも、「ゲオルグ・G・ユーフォミア」の名前は消えてました。


 どうやらちょっと脅しが利きすぎたようで、ジバン財閥が早速手を回したようですね。うむ、見事なトカゲのしっぽ切り。いえ、ジバン自体は何も悪いことはしてなかったのですから、自業自得というべきなのでしょうけど。


 つまり、ここにいるゲオルグと名乗る青年は見事なまでに身元不明の犯罪者なわけで、このイカレポンチの処分は、自治権を盾に私たちアカデメイア(と言うか、学長たる私)が行いました。それは……。


 「うれしいでしょう、ジーナ。こうして憧れのファミィのそばにいられるのですから」

 「──はい、奥様。(うっ、うっ、うっ……)」


 やや旧式な少女型(大体12、3歳相当)メイドロボにその魂を移して、ウチの自宅の家事手伝いをしてもらってます。


 このメイドロボは、量産型ですのでそれほど高性能というわけではありません。せいぜい見かけどおりの運動能力しか持ちませんし、身体強度もほぼ同年齢の人間の少女に準じます。


 また、旧式ですので、ファミィやジブリーの擬体と違って月経・受胎など一部の機能は、まだ備わっていません。

 まぁ、12、3歳で妊娠というのもさすがに早すぎますし、必要ないでしょう。


 食事については、原則的には専用の流動食と少量の水・お茶を飲める程度で、あとは手首関節から睡眠中にバッテリー充電。もっとも、調理作業のための味見くらいはできるようにしてありますが。

 加えて、あらかじめ頭脳部にメイドとしての基礎知識と基本動作は入れてありますから、家事全般について困ることはないはずです。細かい部分の補正と調整は、これからこの家で働くことで自然となされていくはずですしね。


 そうですねぇ──この格好で10年ばかり真面目に働いてくだされば、元の体に戻してさしあげてもよろしいですわ♪


 「お母さま……ちょっとこぁいですの」

 「うむむ、やはり我が奥方は、ある意味我ら悪魔よりも数段残酷だ」


 ──ファミィ、あなた、聞こえてましてよ(♯)


-Continued to “The Meidoroid Witnessed”-

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