♡家に着くまでが遠足でした♡

x頭金x

第1話

 樺島良輔の人生が決まったのは、小学5年生の遠足だった。学校から歩いて30分程にある、小高い山へ登るのが、その小学校の伝統だった。樺島の両親も、兄も、姉も、その山に遠足で登っている。その山を登り終えて家に帰るまでが遠足です。


 夜、話題は勿論良輔の遠足の話になった。良輔は、学校に集合して山の麓に着くまでの短い間に、友達の神田君が水筒のお茶を全部飲み切ってしまった事、列の乱れを注意しようとした担任の吉本先生が車道に身を投げ出した時にトラックに轢かれかけた事、山の中腹で猪を見た事、山頂からの景色が綺麗で、遠くまで見渡せた事、などを嬉々として話した。兄姉も、両親も、そうだった、そうだったと、頷きながら良輔の話を聞いていいた。瞬間、良輔の心が鉛の様に重たくなるのを感じた。何年も、何十年も変わらず、その山に登るという行為そのものに、何とも言えない虚無を感じたのだ。


 だから良輔はその山を手打ちにする事にした。中、高と弓道部に入り、弓の腕を鍛えた。同時に二宮金次郎ばりに働きながら本を読み、体と脳に同時に経済学を叩き込んだ。そうして大学在学中に企業し、卒業と同時に上場、TIME誌が選ぶ世界で最も影響力のある100人に25歳で選ばれた。


 そうして良輔は小学5年生の遠足の時に登った山を買い、猪を矢で射り、木を切り、山の土で海を埋め立て、県の陸地を増やした。そして平になりポッカリと空いたその土地の真ん中に句碑を立て、良輔は放浪の旅へ出かけた。その句碑にはこう書いてある。


「山を崩しても独り」

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