第162話 中断と賢者現る
「ハルカの全力まで引き出すなんて、やるわねレン。だけどどこまで付いて行けるか……」
フィレンが腕組みしながら見ている。
「あの〜、申し訳ないんですけど……」
そこにギルドの受付嬢がやってくる。
「行きますよ!レン殿」
とてつもない速度でハルカがレンとの距離を詰めてくる。あまりの速さにレンですら反応が遅れてしまう。
「くっ……厳しいな」
レンは、盾を取り出して衝撃に備える。
「えっ?」
気がつくとレンは、宙を舞っていた。無敵のスキルを使っていたわけではないがここまであっさり吹き飛ばされるとは思わず驚く。
レンの落下先には、すでにハルカが立っており拳を構えている。
「転移!」
拳が当たるギリギリの所で魔法を使い、拳のほんの少し下に転移してカウンターを繰り出す。
「良いですね。やはりあなたと戦うのは面白いです」
レンの拳は、しっかりとハルカに握られていた。レンよりも小さい手にこれ程の力があるということがまた驚きだ。
「ファイヤ!」
握られている手から火魔法を発動すると、さすがのハルカも手を離した。
その隙にすぐさま後ろに飛んで距離を取る。
「もう限界ですか?でしたら終わりにしましょう!」
再びハルカが突っ込んで来る。
『マスター、ハルカに対抗するにはもうアレを使うしかありません』
ナビゲーターさんの声が頭になる。レンが迷宮都市を出る直前に得た新たな戦闘スタイルだが出来るだけもしもの時に取って置きたかったものだ。
だが、ここで全力でハルカにぶつかりたいと思った。
「ああ、やるぞナビゲーターさん。ナビゲーター及び、プログラミング発動!展開開始」
レンの髪が金色に染まり魔力が溢れ出す。
「いいでしょう!行きますよ」
レンとハルカとの距離10メートルあまり、すぐに詰まるであろう2人の真ん中に突然矢が突き刺さる。
その瞬間、2人は動きを止めて同じ方向を向くと、そこには弓を持ったフィレンとギルドの受付嬢がいた。
「さっきから中断する様に言ってるのに全く聞こえて無かったわね」
と言いながら歩いてくる。
「白熱した戦いの中申し訳ないですが、この後、ここを使う時間になってしまいましたのでご退出をお願いします」
と申し訳なさそうに受付嬢が言ってくる。
「そういえば、そんなことを受付の時に言ってましたね。すっかり時間を忘れて戦っていました」
スキルを解きながらハルカが言う。
「ふぅ……」
何やらここを使う人がいたようだ。なんとか大変な時間が終わったなと思いながらレンもスキルを解除した。
「2人とも激しすぎよ。武道大会の決勝じゃないんだから」
とフィレンに言われる。
「私は、警備の都合上大会に出れないので今戦えて満足しました。ですがレン殿が更なる力を出そうとしているのを見れなかったのは残念ですね」
とハルカが笑顔で言っている。あんなに戦った後とは思えない表情だなと思う。
「ハルカさん出ないんですか……」
少し残念だなとレンは思った。
「まあまあ、レン殿が良ければいつでもお相手しますから。それに王国最強のあいつは、私より強いですから楽しめますよ」
「そこまで勝ち上がれれば良いんですけどね。戦えたら全力で立ち向かいますよ!」
と答える。
「ふふっ、楽しみですね」
レンは、ハルカとフィレンに挨拶して宿に帰ることにした。
レンが帰っていく姿を見ながらフィレンがハルカに声をかける。
「満足したのかしら?久しぶりに思いっきり動いたんじゃない?」
「ええ、そうですね。あと少し時間が有ればレン殿の全力を見れたでしょうけど」
ハルカは、そこだけが残念だった。
「まぁ武道大会でレンが勝ち上がれば見ることが出来るわよ。楽しみね」
「そうですね、フィレン。もしかするとレン殿は私と同等、それ以上の強さをすでに持ってるかもしれない。あなたのお気に入りのレンには、私も期待してますよ」
2人は、その後も楽しそうに話すのだった。
「もう夕方か……早く宿に戻らないとな」
夕食は、みんなで食べることになってるし遅れたら特にルティアが怖いなと思う。
少し走ろうかと思った瞬間に、呼び止められる。
「やぁ、そこの君。とても良い魔力を感じさせるね。私の弟子にならないか?」
声の方を向くとボサボサした髪に、眼帯をつけた少女がこちらを見ていた。
「え!俺のこと?」
と聞いてみる。
「もちろん君のことだ。私の名は、賢者カラミィ・テーリス!君に究極の魔法を教えてあげよう!」
謎のポーズを取りながら少女カラミィが言う。
「賢者……あんたが本当に?」
目の前の少女が賢者にはなかなか見えない。
「君、私を知らないのか?むむむ……だが、関係ない!さあ私の弟子になるのだぁぁぁ!」
と言いこちらに向かってくる。
「あ、間に合ってますぅ!」
と言いレンは、回れ右して全力で走り出す。なぜかわからないが厄介なことになりそうな気がしたのだ。
「な!君、待つんだ!待てぇぇぇぇぇぇえ!」
後ろから追いかけてくる声を聞きながらレンは足を止めずに走るのだった。
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