第152話 暗闇と幽霊
「馬鹿なぁ……こんなにもあっさりと」
斬られた人魚が驚きながら言葉を出す。
「私の方があなた達よりも速く動くことが出来た。それだけ……」
カチンと剣を鞘にしまいながらエリアスが答える。
「なんか凄く格好良かったなぁ!私もあんな動きしたい」
とミラが歓喜している。
「ありがとう、ミラ」
エリアスが笑顔で答えながらこちらを見る。
「うかうかしてたらあっさり追いつかれそうだな。エリアス、凄かったぞ!」
とレンは言いながらエリアスの頭を撫でる。
「えへへ」
目を細めて嬉しそうにしている。
「ちっ……さっさと次の階層に行きな!」
と人魚が奥の扉を開ける。斬られた場所が少し治っている気がした……迷宮の力だろうか?と思う。
「さっきのドライアドもだけど、本性の性格悪すぎないかしら」
とルティアが言う。
みんな、そうかもしれないと思うのだった。
扉に向かいながら、何か仕掛けてこないかルティアとミラはいつも以上に警戒しながら進んでいく。
だが、心配は杞憂に終わり53階層に足を踏み入れるのだった。
「暗いな!」
53階層は、真っ暗だった。そのためレンは、光魔法の玉を作り出す。
「なんだか、嫌な予感がする」
と言うエリアスの髪の毛は逆立っている。
「迷宮は、予想の上をいくな。火山でも来るかと思ってたら今度は真っ暗闇か」
周囲を見回しながらアンナが言う。
「少し進んでみるか!」
と言いレンが一歩前に進むとみんながその後ろに続く。
「………なんでみんな俺の後ろに?」
レンから5メートル程距離を開けてみんなが歩いている。
「なんだが、オバケが出そうな気がするからかしら?」
「もしかしたら突然目の前に飛び出してくるかもしれないし……」
魔物と戦うことが出来るのに幽霊は、怖いようだ。ルティアのオバケという言い方がなかなか可愛いと思う。
「そうだな、私もゴースト系は遠慮したいな」
「私もだよ、お姉ちゃん」
アンナとアイリも得意ではないらしい。
「私は、オバケなんて怖くないからな!勘違いするなよ、レン!」
ステラの発言は、本物だと信じたいが嫌な予感しかしない。それてあなたもオバケ呼びか、と思う。
俺は、囮ですか……と思いつつ少し進んで後ろを振り返る。
「どうしたのレン?」
エリアスがこちらを向いて言う。
「みんな、後ろに真っ白な女の人が!」
レンがみんなの後ろを指差して言う。
「「「「「キャーーーーー!」」」」」
全員が一斉に悲鳴を上げる。後ろを見ないようにレンの方に走ってくる。
すると、パタン…と倒れる音がしたので見るとアンナが気絶していた。
「冗談だったのに、こんなに効果があるとは……」
とレンが呟く。その瞬間、空気が凍る。
「今、冗談と言ったかしら!」
「それは、あんまりじゃないかな?レン」
ルティアとエリアスの声だ。
「あはは……ほんの出来心で〜……ヒイッ!」
気を取り直して一行は進んでいる。レンは、間違ってもからかうのはやめようと思った。幽霊よりも怖いものを知ったのだ。
ちなみに気絶したアンナは、レンが抱えている。お姫様抱っこというやつだ。
後ろからエリアス達の羨ましいという声が聞こえてくるが、気にしないことにした。それなら前に来なさい。
「私は、怖くなかったぞ!」
とステラは言っていたが涙目では説得力がない。
アイリもエリアス達の近くにいて離れる気はないようだ。
だいぶ先に何かがいるのを感じ取るが言ったら冗談とかで怒られそうなので黙っておくことにした。
「む……私は……」
と言いアンナが目を覚ます。
「起きたか?突然倒れてビックリしたぞ」
「いや、あまりのことに驚いてしまったようだな。私としたことが恥ずかしいものだ」
とアンナは顔を赤くしている。
「立てそうか?」
「いや、恥ずかしいことに腰が抜けてしまって立てそうにない」
とアンナが答える。
「そうか、なら居心地が悪いだろうがしばらくはこのままで我慢してくれ」
とレンが言う。
「レンの冗談で気絶するなんて、アンナが1番のビビリね!」
とルティアが声を出す。
「お姉ちゃん、そんなに怖いのが苦手だったんだね!」
とアイリが言う。
「良かったぁぁ、私が1番ビビリだと思ったから仲間がいて」
とミラは逆にホッとしている。
「私は、ビビってなんかいないからな」
なんだか、ステラは残念な存在に感じる。
みんなの言葉を聞いてアンナが言う。
「レンの冗談?みんな何を言ってるんだ?」
「え?だってさっきのはレンの意地悪だよ?」
とエリアスが答える。
何この展開とレンは、思い始める。
「どう言うこと?お姉ちゃん」
「私は、後ろを振り返ってしまったから見たんだが……本当に白い女の人がいたぞ……」
とアンナが言う。
「え!嘘でしょ……」
その一言でレン達一行の空気が再び凍りつくのだった。
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