第151話 人魚と刺激

 エリアスが泳げないということに驚きつつも再び進むことにした。


「はぁ……バレた……泳げないの……はぁ」


 と先程からエリアスは、呟いている。エリアスとしては、泳げないのがレンにバレたのがショックだったのだ。レンにどう思われてしまうかなと考えてしまう。


「エリアス」


「ど、ど、どうしたの?レン」


 レンが声をかけると明らかな動揺とともに返事が返ってきた。


「後で、海のある階層に行って2人で遊びがてら泳ぐ練習をしないか?俺もスキル無しじゃそこまで泳げないからさ!」


「ひぇ、えっと、喜んで!」


 レンの提案にエリアスは、これまで以上に顔を赤くしながら答える。




 エリアスが嬉しそうにクネクネしながら歩き始める。あんなに喜ぶ姿を他のメンバーは見たことがないかもしれない。


「私も泳げないって言えば良かったわ」


 と悔しそうにルティアが呟く。


「エリアスには、どうやっても勝てないんじゃない?」


 とミラがルティアに声をかける。


「むむむ、どうにかチャンスを……」


 とルティアは考えていた。




「レンさん、素敵ですね。格好いいです!」


 後ろの方ではアイリが前の様子を見ながら言う。泳げなくで落ち込むエリアスへのレンのフォローに感心したのだ。


「レンは、なかなか鈍感な所が多いのだが、突然爆弾を放り込むことがあるからな」


 アンナが腕組みしながら呟く。


「さすがは破黒の英雄という感じか?時には大胆な攻撃をするもんだ」


 とステラが面白そうに言う。




 エリアスは、この展開を狙ったわけではないためレンと2人で泳ぐ練習が出来るということに内心ガッツポーズをするのだった。


(泳げなくて良かった)


 この日エリアスは初めて自分が泳げなくて良かったと思うのだった。






「さぁ着いたぞ!ここだ」


 島に上がった一同の前には、ボス部屋の扉がはっきりと見えた。


「この前は、ドライアドだったわね。今回は、どんな奴が出てくるか!」


 とルティアが言う。ドライアドに対してはかなり根に持っているのかもしれない。


「じゃあ開けるぞ」


 と言いレンがボス部屋の扉に手をかけ開ける。



 ボス部屋の中は足場は、いくつかあるが水辺も多くあるステージだ。


 そして真ん中の島には、美しい青い髪の人魚が楽器を使って綺麗な音を奏でている。


 持っている楽器はハープだろうか……と思いつつレン達は進んでいく。


「ようこそ、私達の階層に。あら?素敵な殿方がいらっしゃいますね。ぜひのんびりして行ってくださいね」


 優しく微笑みながら人魚がレンに声をかける。


 よく見ると人魚はなかなかセクシーな格好をしている。胸の周りに水が浮いているため見えることはないがなかなか刺激が強いなと思った。


「なかなか刺激が強い………え!」


 とレンが人魚を見ながら言っているとエリアスがレンの正面に立ち顔を両手で掴む。


「注目禁止!」


 エリアスがレンの顔を無理矢理別の方向に向ける。


「これは、男を誘惑する類のものか?」


 ステラが言いながら弓を持っている。


「その通り、私達の歌や演奏は殿方を魅了するもの。そこの男はかなり優れた者ですね。是非とも欲しいものです」


 と人魚が言う。


「人魚ってそういうものよね。本性がわかればすぐに倒すわ」


 ルティアが杖を構える。


「ふふふ、そう簡単に倒せますかね?」


 と言いながら人魚が水中に飛び込む。


「ふふふふふふ」


 水の中にいるはずの人魚の声が聞こえてきて不気味に感じる。


「気持ち悪いわね……」


 とルティアが言いながら火人形を周囲に展開する。


「こちらですよ?」


 一行の後ろの水から人魚が飛び出してきて、ステラに狙いを定める。


「はぁぁぁぁぁぁ!」


 だがアイリがそれを許さず盾で人魚を弾いた。


「助かるよ!」


 そこにさらにステラが弓矢で打ち込み人魚を倒すのだった。



 絶命した人魚が、水中に落ち水が赤く染まる。


「やったみたいだね!案外大したことないね」


 とミラが言う。


「待ちなさい、ミラ!それ言ってはいけないセリフじゃないかしら?」


 とルティアが慌てて言う。レンに聞いたことがあり、絶対に言うなよと言われたお約束的なものだ。だが、ここでミラが言ってしまう。


「あ、しまった!」


 とミラが言う。


 ザバァァン!


 とあちこちから水から出る音が鳴り人魚が飛び出してくる。


「こんなにいるのかよ!」


 とレンは声を出す。



 レンにとってはなかなか刺激が強い光景だ。むしろ見るなと言う方が難しい。おお!凄い凄い。


『マスター、ご注意を』


 ナビゲーターさんの声が頭に響く。


「あ、ああ。気をつけないとな……人魚の見た目に惑わされちゃいけない」


 と心を落ち着かせようとするが、ナビゲーターさんの言葉が続く。


『いえ、エリアスの方に注意してください。マスターが人魚を凝視したので怒っていますよ』


「ヒェッ!」


 レンがエリアスの方を向くと、笑っていないような笑顔が張り付いていた。ピリピリと雷も纏っているようだ。



「ライトニング」


 エリアスが呟き、前に進み出る。


「まずはお前から喰らってあげましょう。不味そうな狼さん」


 と人魚がいいエリアスに向かって飛び込む。



「レンに邪な視線を向けたこと……許さない」


 エリアスが抜刀の構えをとる。


「それじゃあ、いただきまーす………え?」


「雷の剣……雷速……」


 すでに多くの人魚がエリアスによって斬られていた。斬られた人魚は、そのまま水に落ちたり足場に落ちるなどしている。



「速い!」


 アンナやステラが驚きの声を出す。


「まさか、ここまで使いこなしてるなんてな……」


 エリアスの動きに対してレンも驚きを覚えるのだった。

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