第150話 進行と苦手
水を重力魔法によって左右に分けたレンは、前に進みながら元の世界での世界史の内容を思い出す。
「誰だったか……モーセだっけ?海が真っ二つに分かれて通れたのは」
確かそうだったなと思う。こっちの世界に来てからは、元の世界の勉強なんてしていないため記憶も薄れていく。
「随分深いのね、ここら辺」
周りを見ながらルティアが言う。
「周りに避けた水が降ってきたらと思うと怖いなぁ」
上を見上げながらミラが言っている。レンが魔法で水を抑えているためそんなことは起きないが、不安に思ったのだろう。
「魚も泳いでるね!」
とエリアスが楽しそうに見ている。水族館のように感じるなとレンも思った。
「あれ見てお姉ちゃん!大きな魚がこっちに泳いでくるよ」
とアイリがアンナに声をかけながら指を指す。
「本当だな!ドラゴンにも似ている。それに動きが早いな」
珍しいものだとアンナもそちらを向く。水族館に来た姉妹のようだ。
「あれが、レンの言う魔物でしょ!」
とステラが言いながら武器を構える。
「「あ!」」
アイリとアンナもすぐさま気付き武器を構える。
素早い動きで一行を襲おうとした魔物だったが、レン達に近づくことが出来なかった。
ガァァァン!
と音がなり魔物が後ろに下がる。
「やっぱりいたか。でも俺の魔法の方が硬かったな」
レンが使った魔法は、氷魔法。それで魔物が来る場所の水を凍らせていたのだ。
ガンッガンッと魔物は何度も頭をぶつけて突破しようとするが上手くいっていない。
「近くで見ると怖いわねぇ」
レンの後ろにピタリと引っ付いてルティアが答える。
「あ!ルティア、離れてよ」
レンに引っ付いているルティアをエリアスが引き剥がそうとする。
「ルティア、そんなに引っ付かなくても守るから大丈夫だぞ」
若干照れながらレンが答える。こんな形で引っ付かれるのはあんまりない経験だ。
「ぐぬぬ、せっかくのチャンスだから逃さないわ」
腕をレンの腰に回してルティアが抗う。
「こうなれば私が!エリアスは右を」
と言いミラがルティアの左足を掴んで引っ張る。エリアスが右足を引っ張る。
「ちょっと!千切れるじゃない!」
ルティアがレンに掴まりつつ暴れようとするが、エリアスの力からは逃れられない。
「ルティア!手を離すか、千切れるか選んで」
とエリアスが言い、ルティアは諦めて手を離すのだった。魔物にあった時よりも恐怖を感じたと本人はいずれ語る。
「魔物がいるんだから、遊んでる場合じゃないぞ」
とアンナが言う。
「ああ、それは大丈夫だ」
とレンが指差すと魔物は氷漬けにされていた。
「うわぁぁ、凄いです!レンさん」
氷漬けになった魔物を見てアイリはテンションが高い。
途中の島で休憩を挟みつつ、ボス部屋の扉がある島へと着実に向かって行った。深い場所はとことん深いようだが、浅い場所もあった。そういう作り込みなのかもしれない。
「もしかすると、ボス部屋も水が多いステージになるのかもしれないな」
アンナが言う。
「ああ、だとしたら厄介だ。みんなそこまで水中戦は得意じゃないだろう?」
とレンがみんなに聞く。
「逆に得意な人がいたら驚きよ」
「魔法で強化すれば水泳選手よりは速く泳げる自信があるよ!」
ルティアの言葉を受け、ミラが手を上げながら答える。
「泳ぎと同時に戦闘まではこなせないだろう?水中の魔物は水の中じゃかなりのスピードを出すからな」
レンが一度泳いでいて遭遇した時に見た魔物、レンの全力ではないにしろしっかりついてきていた。
「それじゃあ無理だね。食べられちゃうよ」
とミラが答える。
「私もそこまで泳げる自信はないな……レンやエリアスの2人なら水中でも素早く動けると思うのだがな」
とアンナが答える。
「え!えっとぉ……」
エリアスが耳をピンと立ててモジモジする。
「どうしたんだ?あんたの実力なら大丈夫だと思うけど」
とステラがエリアスに目を向けて言う。
「どうしたんだ?エリアス」
レンは、エリアスの様子が気になって声をかける。
「その……私……泳げないの……」
と顔を赤くして恥ずかしそうにエリアスが答えるのだった。
「「「「「「え〜」」」」」」
と一同が驚く。
「その……私達の一族って浅い川位しか行かないし……まさか迷宮で泳ぐ必要が出るなんて思わなかったし」
人差し指同士を合わせる仕草をしながらエリアスが言う。
「そんな弱点があるなんて思わなかったわ」
とルティアは驚いている。
「完璧な人はいないってことだなぁ」
とミラが呟くのだった。
「浅瀬なら大丈夫だけど、少しでも足がつかないと……」
とエリアスが言っている。
「まあ、苦手の一つや二つあるもんだ。気にせずに頑張ろう!」
とレンが元気に声を上げるのだった。
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