第146話 神獣といつか訪れる戦い

『力が欲しいか?』


 という問いかけにエリアスは、


「あ、結構です!」


 と答えた。


 声の主としては、とても驚いてしまうものだ。


『え!欲しくないの?強くなれるんだけど!勿体無い』


「なんか……胡散臭いと言うか……レンも簡単に強くなれるって言うのは罠だって言ってたし」


 とエリアスが答える。当然、知らない声よりもレンのことを信じる。


『うわぁ……こんなにあっさり断られるなんて〜、これは直接会った方が早いね』


「え?それは一体……」



 次の瞬間、エリアスの目の前には、クランハウスの庭ではなく真っ白な空間が広がっていた。


『初めまして、エリアス・ミリー。あなたの実力を見込んでこの場所に招きました』


 エリアスの前には、魔物……否、神々しさすら感じる存在が佇んでいた。先程とは話し方が変わっていた。


「まさか……あなたは……」


『知っているようですね?私の名はフェンリル。神獣です』


 と名乗る。とてつもない強さを感じた。レン以上の存在感を感じる。


「本当に存在したんだ……」


『ええ、あなた方狼人族は私を信仰してくれていた。なのにあなたの家族を助けられなかった……私を許してはくれないでしょうか?』


「え?ええ、フェンリル様が謝ることじゃないです!あれは、スティグマが」


 突然の謝罪にエリアスは驚く。


『ありがとうエリアス。そうスティグマ、奴らです。これからスティグマとの戦いも過激なものになるかもしれません。その時のために力を託したいと思って声をかけました』


「私なんかで良いんですか?」


 自分がフェンリルに声をかけられたことに未だに驚いている。


『あなただからです。私の力はそうそう使いこなせるものではないのです。ですがあなたならきっと……』


「なら私は、大切な人を守るために力を振るわせてもらいます!二度と目の前で失わせたりはしない」


 自分でも驚くほどすんなりと受け入れることができた。狼人族だからだろうか?


『これから、レン・オリガミは様々な苦難に巻き込まれていきます。力を使いこなして彼の側で戦ってください。あなた方に神獣の加護あれ!』


 レンがこれから苦難に巻き込まれる?そんなことがあるのだろうかと思ってしまう。


「フェンリル様!私は………」


 エリアスの声が完全に届くことなく光が溢れた……



 エリ………


 アス


 エリアス!




「エリアス!」


「へっ!私は……」


 エリアスは、レンに揺さぶられていた。


「大丈夫か?ボーッとしてたから……」


「うん……大丈夫!本当にボーッとしてたみたい」


 レンに心配をかけてしまったなと思う。


「なんともないなら良いんだ!ステータスに状態異常はないな……」


 安心出来てないようだが、ステータスを見て納得する。


「心配かけてごめんね。私は、大丈夫!」


 エリアスは、立ち上がりはっきりと言う。


「何かあったら俺に言ってくれよ?例え呪いだろうとなんだろうと救ってみせるから」


 とレンが言う。本当に彼は優しいと思った。そして彼のためになら自分はなにをかけても惜しくないとも。


 フェンリルが言ったのは、まだもう少し先に起こりうることだろう。その時に、大切な彼と共にいられるように自分ももっと頑張ろうと思うのだった。








「与えたのかい?フェンリル」


「ああ、あんたかいヨルムンガンド。確かに私の力の一部あの子に託したさ」


 フェンリルが向いた方には大蛇のような存在がいた。


「そうか……スティグマとかいう連中がいずれ行うであろうことには神の力も必要になるだろうね」


「ああ、それに彼女の仲間……レン・オリガミ。彼は、その戦いのためにこの世界に呼ばれたのかもしれない」


 この世界に突如現れ、神の力と言っても良いスキルを使い、力を上げている男レン・オリガミ……


「徐々に集まっているな……覚醒してないにしろ彼の周りには、聖女、賢者、剣神、盾神そして、神獣フェンリルの使い……まだ遥か先のことではあるだろうが、なにが起きるか」




 これから世界はどこに向かっていくのか……それは神のみぞ知る……否、神すらもわからないものになっていく……

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