第145話 穏やかな日々と声

 クラン戦のレンの戦いからそこまで他のギルドが紫紺の絆に関わるってくることは少なくなるだろうと思っていた考えは、予想外の方向にいった。


「これらの素材を採取をお願いしたいのですが、引き受けていただけないでしょうか?」


 眼鏡をかけたヒョロヒョロの男がレンに言う。ペコペコした雰囲気だ。


「なるほど、良いですよ。報酬に関しても先程提示して頂いたもので結構ですよ」


 とレンが答える。


「本当ですか!他の冒険者に依頼を出すと高いし質は微妙だし……」


 とこぼす。


「出来るだけ良いものを持っていきますね」


 とレンが言うのだった。






「あったわ!これで必要なものは揃ったわね」


 と素材を採取しながらシャールが声をかけてくる。


「お疲れ様。それにしても手慣れてるな」


 採取を行う彼女の動きには無駄がない。


「まぁ、そこそこ勉強してるからね。お!あれは欲しいなぁ……」


 自分が欲しい素材を見つけたらしく、再び採取に勤しんでいる。



 すでにクラン戦からは1週間が過ぎており、変化のない日常を送っていた。レンは今回は、依頼の素材とシャールの採取に付き合っている。




 採取が終わり近くの階層にいるエリアスやルティアと合流する。


 ステラとセイン、ルノがおり、エリアス達と修行を行なっていた。


 ダークエルフのステラは、セインやルノよりも実力はしっかりと持っているため特に苦戦する様子はない。


 彼女自身、実力がある方だと思っていたようだが、レンの圧倒的な魔法を見せられて考えを改めることにしたそうだ。



 これは、まだまだ伸びるだろうな……とレンは思うのだった。


「2人とも調子はどうだ?」


 レンが、セインとルノに声をかける。


「俺、かなり強くなりましたよ!」


「そんなわけないでしょ!エリアスさん達がいなければ全然じゃない」


 セインは、すぐさまルノに突っ込まれる。


「2人とも仲が良いなぁ。ステータスは、しっかり上がってるからこの調子で頑張っていこう」


「上がってるってよ、やったぜ!」


「油断してるとすぐに足を掬われるからね」


 ルノは、かなりしっかり者だなとレンは思った。良い組み合わせだと思う。





 時間的にも遅くなってきたため帰ることになった。



 レンが依頼者にとれた素材を持っていくと、素材の質の良さに驚かれ約束以上のお金を渡されてしまった。相手も是非ともこれからもお願いしたいと言っていたため良い取り引き相手が出来たなと思うのだった。


 レン達、紫紺の絆は依頼を受けてからの納品が早く素材の鮮度なども高いため多くの人に評価されていた。


 みんな、レンがとても炎の双剣をボコボコにした人物の様には見えず街の人からの評判も良い。時々、街の人のお願いを聞いていたりと優しい人物だと認識されている。孤立するようなことがなくて良かったと思うのだった。








「マキシマムミーティア!」


 クランハウスの庭では、ミラがレンの魔法の練習をしていた。


 しかし、結果としては石ころが落ちてくるだけだった。


「出来ないかぁ……」


 と残念そうにミラが呟く。


「こんな場所で撃ったら危ないぞ?」


「そんなに威力は出ないのはわかってるから問題ないよ」


 レンが話しかけるとミラが答える。レンの魔法を見て、影響を受けた者にはミラも含まれる。


「俺だってナビゲーターさんにサポートしてもらわないと撃てないからな……のんびり頑張ろうぜ!」


 と声をかける。


「そうだね!まぁその内再現してみせるから。私は賢者になるんだからね」


 とやる気を取り戻す。




 エリアスとルティアは、2人で組み手をしていた。2人が戦うのはなかなか珍しいためついつい気になってしまう。


「行きなさい、ファイヤドール!」


「ライトニング!」


 エリアスに向かって10体ほどの炎人形が殺到するがそれを斬っていく。


「プラントドール!」


 突然庭の植物が急成長して、エリアスを捕らえようとする。


「ぐっ……雷突!」


 それに対してエリアスは、細剣で植物を迎え撃つ。植物を斬り飛ばして脱出したエリアスの周囲には、炎が舞う。


「ファイヤボール!」


「ライトニング!」


 その炎をエリアスは、自身のスピードを上げて回避していく。



「くうう、させないわよ!アクアウォール!」


 ルティアは、水の壁を張ってエリアスの接近を防ぐ。


「装備変更、大剣!はぁぁぁぁぁぁぁ!」


 対してエリアスは、大剣を使って水の壁を弾き飛ばす。そしてルティアの前にたどり着き剣を突きつける。


「私の勝ち」


「まだよぉぉぉ!」


 その瞬間、ルティアが水となって弾け飛ぶ。


「なっ!オトリ」


 エリアスの背後から本物のルティアが攻撃を仕掛けようとする。


「もらったぁぁぁ!」


「と思った?」


 すでにエリアスは、ルティアの背後に回っていた。そして再び剣を突きつける。


「あらら、バレてたか……」


 と言いながらルティアが手をあげる。


 エリアスは、雷魔法で自身を加速してとてつもないスピードでルティアの背後に回っていた。


 これまでにないスピードでの移動を目にしてレンは驚く。



「今のスピード、これまでで1番だったな!」


 とレンが声をかける。


「少しずつだけど、身体も慣れてきたよ」


「私ももう1人くらいオトリを作れる時間があればなぁ」


 とルティアは、考え込んでいる。


 みんながやる気を持って頑張っている姿を見てレンも、うかうかしてられないなと思い始める。



「ナビゲーターさん、どこを鍛えたらいいと思う?」


『そうですね……ここは、新たな戦闘スタイルを考えるのも良いのではないでしょうか?』


 と提案される。


「戦闘スタイル……そうだな、新しい武器とかも作って考えてみるよ!」


 とレンも考えることにする。






 レンが去った後エリアスは、さらに自分を鍛えるために魔法を使う。


「まだまだレンには届かない……私は、どうしたら更に強くなれる?」


 自問自答をしている。



『力が欲しいか?』


 声が聞こえた。


「え?声が!」


 エリアスは驚き周囲を見回すが周囲には誰もいない。


『心に話しかけておる……どうじゃ?力が欲しいか?』


 どこか優しそうな声、それに対してエリアスは……



「あ、結構ですっ!」


 と答えるのだった。


『そうかそうか、では、えええっ!今なんて言った!』


 と声が驚くのだった。

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