第144話 大会に向けてと動き出す者達

「こちらが、今回の勝利条件になっていたお金となります」


 ギルドの受付嬢からお金を受け取る。


 今回のクラン戦で、相手に勝利の対価に何を要求するかで特に欲しいものもなかったのでお金にしておいたのだ。


「とんでもない額ね……これだけあれば、うふふ」


 ルティアの目がお金になっている。これは不味いためすぐにアイテムボックスに仕舞い込む。


「はしたないですよ?王女様」


「ああ!もう少し見てたかったのにぃ……賭けで勝ったお金を見るとするわ」


 またもやルティアは、クラン戦で賭けに全財産を出していたらしい。もちろん紫紺の絆に賭けていた。


「いつの間にやってたんだろうね……」


「これが王女だなんて王国は大丈夫かしら……」


 お金を眺めるルティアを見ながらエリアスとミラが呟く。





 クラン、炎の双剣は今回の損失を受けて解散することになったそうだ。素行の悪さが目立っていたため解散しても問題ないようだ。


「あいつらが炎の双剣を潰した紫紺の絆だろう?」


「ありゃ手を出したらいけない部類だ。都市ごと地獄送りだぜ」


「友好的なら優しい奴らだがな……」


 と会話が聞こえてくる。クラン戦の効果がしっかりあったようだ。レンの見せた力があまりに圧倒的過ぎたようだが……


 クランが潰れるというのはそこまで聞かない話ではない。クランなど10人から作れるため、毎日クランが潰れては新たに出来てということが多いのだ。だが、ここまで大規模なクランが壊滅するのは珍しいと言えた。




 だが、そんなことがあっても気にしない人が多い迷宮都市は、特に大して変わらない日常になった気がする。


「これで、私達に何かしてくるクランは無くなったとは思うけどこれからどうしよう?」


「何もないで暇よね」


「荒ごとは勘弁してほしいなぁ……」


 エリアス、ルティア、ミラは、何かイベントを欲しているようだ。


「もう少ししたら王都に戻って武道大会があるだろう?それに向けて修行するのが良いんじゃないか?」


 とレンが提案する。


「あんなのレンの、流星群撃って終わるわよ。修行なんていらないんじゃない?」


 とルティアが言う。


「いや、相手は救国の英雄最強の男が来るんだろう?今のままじゃ勝てない気がする。現状で、ハルカさんにも勝てるか分からないから」


 武道大会にハルカが出るとは限らない。それに最強の存在……まだ自分では届かないと思っている。


「それなら迷宮が良いかな?私もレンみたいに強くなりたいから」


 とエリアスが言う。


「ああ!一緒に強くなろうな!」


 とレンがエリアスに答える。



「ホント、あの2人気が合うわね。ぐぬぬ」


「なんならルティアも戦闘職になったら?聖女よりかは確実に向いてるよ!」


 ここぞとばかりにルティアにミラが毒を吐く。


「なら、あなたも戦闘職になったら?へっぽこ賢者よりも囮役がお似合いじゃない?」


 ルティアも負けていない。


「なにおぉぉぉ!」


「なによぉぉぉ!」


 2人の取っ組み合いが始まった。




「「あの2人気が合うなぁ」」


 それを見ていたレンとエリアスが言う。


「「合ってないから!」」


 とルティアとミラの声が迷宮都市に響くのだった。







 王国より遥かに離れた地、そこから先は人間はほとんど近寄ろうとしない。


 魔境線……


 一歩でも足を踏み入れれば命の保証はない。魔族の領域だ。ありとあらゆる魔物が闊歩し、獲物を狙う。並の冒険者では一瞬で八つ裂きになる。


 人と魔族の住む場所の境界、王国、帝国などのいくつかの国がそこに面している。


 さらにそこから遥か先の国で動きがあった。



「クシフォン様!本当に行かれるんですか?魔王様がお許ししてくれませんよ?」


 灰色のセミロングのつり目女性が、先を歩く子供に声をかける。


「フィーズ、何度も言っておるのじゃ。妾は、ここでの退屈な日々に飽きたと。お父様にはバレないように出るのじゃよ!」


 と言い歩き出す。


「そんな!では私もお供します!」


「うーむ?勝手についてくるのじゃ。なんでもアルセンティア王国では、武道大会なるものがあるらしく楽しみなのじゃ」


「あまり、人間の所は……私が守らねば……」


 と言いフィーズも歩き出す。


「人間の国、楽しみなのじゃぁぁ!素敵な出会いがあると思うのじゃ〜」


 スキップでもするかのようにクシフォンが行く。


「最近我々に接触を図ってくるスティグマとかいう連中にも注意せねば……フィーズ・ファル、命に替えてもクシフォン様をお守りします」



 魔王の娘というとんでもないものが王都に入ろうとしていた……





「さてと、そろそろ王都に向かって移動を始めるとするか?」


 ドラゴンの死体に座りながら男が言う。緑色の髪の少しやんちゃそうな男だ。


「まだ早いんじゃないかい?あんたの足ならパーっと帰れるだろう?」


 女性が答える。


「たくっ、俺はババアに気を使ってやってんのによぉ」


「ほう、ガキが言うじゃないか?」


 男に女性の拳が落ちる。


 ゴチンッ!



「いったぁ!やったな、ネーヴァン。相変わらず短気だな」


「あんたが余計なことを言うからだろう?アルファード。全く、こんなのが救国の英雄最強とは世も末だねぇ」


 拳を振りながらネーヴァンと呼ばれた女性が言う。


「それはあんたもだろう、拳で戦う聖女様がいてたまるかよ。ドラゴンも拳で倒してんじゃねぇよ」


 と周辺に転がるドラゴンの死体に目を向ける。



「ガァァァァァァァア!」


「無駄話をしてたら魔物が来たみたいだね。とっとと倒しちまうよ」


「ああ、少しは手応えがある相手が欲しいものだな。武道大会までもっと戦うとしょうか!」






「ぼちぼち王都に向かう準備を始めましょうか、アリー」


「そうですね。ギルド長」


 フェレンスのギルド長室、フィレン・アーミラが受付嬢のアリーに言う。


「レンやエリアスも出るでしょうから楽しみね」


 フィレンが楽しそうに笑う。






「武道大会、今年も私自慢の結界の出番……私の凄さをみんなに知ってもらおう!救国の英雄が誇る賢者の力を!」


 暗い部屋でボサボサ髪の女性が笑う。






「強い人が集まってきますね。とても楽しみです!さあ、レン殿は、迷宮都市でどれだけ強くなってくるでしょうか?」


 王都を歩きながらハルカが呟く。彼女は、とても楽しそうに歩いて行った。






 武道大会に向けて、それぞれが動き出していくのだった。

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