第126話 父の最後とジョーク
「お父さんもね、ステータスのお陰で普通の人よりは長く生きることが出来たんだけどね。やっぱりこの世界に来てから100年ちょっとが限界だったの……」
「………なんて言ったら良いんだろうか……本当にそんなことがあったんだ……」
母親にも会えたから父親にも会えるかもしれない……甘い期待はあっさりと崩れ去った。
「本当に二度もあなたを置いていくことを後悔してたわ。絶対にレンの元に帰るって生きてきたから……」
世の中そうそう上手くはいかないものなんだろうなと思う。
「寿命がまだ来ない身体の私は、お父さんの思いを引き継いで、戦ってるの。まさかあなたに会えるとは思ってなかったけどね……」
レンも同じだった。まさか異世界で親に会うとは思わなかった。
「あなたには、もう別に母親と呼べる人がいるものね。安心した、あなたがしっかりと育ってて……少しでもあなたと話せて良かった!」
と言いながら歩き始める。
「どこに行くんだ?」
「またスティグマを探すわ。レンもなんだか私がいると居心地が悪いだろうし……それじゃあ、さようなら!エリアス達によろしくね」
歩いて行ってしまう。
『マスター、ここでさよならはいけませんよ!』
ナビゲーターさんが言ってくる。
「待って!」
レンの言葉に母親が振り返る。その頬からは先程よりも多くの涙が流れていた。このままでは、二度と目の前に現れてくれそうにない感じだ。
「父さんのことは残念だけど、俺はお母さんに会えて嬉しかった!エリアスに会えたのもお母さんのお陰だよ。だからありがとう!またね」
レンは、手を振って答える。ようやく戸惑いから解放された気がした。
レミも手を振って答え、歩いて行った。
「お父さん……レンにもう一度会えたんだよ。それに言ってくれた……お母さんって。二度と呼んでもらえないと思ってたけど」
スマホに映る夫に話しかける。悲しみの涙はいつの間にか喜びの涙に変わっていた。レミは再び歩き出す。スティグマを見つけ出すために。
「行っちゃったんだね」
宿に戻ってきたレンにエリアスが声をかける。
「ああ、またスティグマを追うんだって」
「また会えるんでしょ?」
「ああ、また会えるさ」
とレンは笑う。エリアスも嬉しくて微笑むのだった。
それにしても迷宮都市に来ていきなりこれか……と思わずにはいられない。
「本当に色々なことがあって頭がついていかないよ」
レンは呟く。
「私も充実し過ぎてるって感じがするなぁ」
エリアスも同意見のようだ。
なんだかレンが色々と呼び寄せている気がするけど、それはないかと思っておく。
「こっちに来てそんなに時間経ってないし、まだ王都の武道大会は、始まらないもんな……」
まだ一ヶ月は期間がある。また物騒なことが起きるのは勘弁して欲しいものだとレンは思うのだった。
「なんなら、50階層の先に行ってみる?」
エリアスの提案はレンにとって断れないものだった。
「ああ、行ってみたいな!」
レンはすぐさまエリアスの手を取って転移で迷宮の入り口まで跳ぶ。
出来るだけ人がいない所を選んで転移したので、レン達が突然現れたと思っている人はいないだろう。
「早速、51階層に向かうとするか!」
と言いエリアスの手を引いて歩き出す。イージスからは、51階層にまだ行ってないけど直接行けるようにしたと言われたので、すぐに行ける。
迷宮の周囲には、冒険者達も何組か歩いており、50階層を攻略したレンとエリアスは非常に目立つ存在だった。
「視線がたくさんあるね。何かを狙っているような……」
「ああ、何気に活躍してるからな俺達……良からぬことは勘弁して欲しいんだが…」
都市で1番の実力があるクラン真紅の宝剣が壊滅したことにより、空席の1番を狙い他のクランが競争を始めようとしていた。
力を付けるためには、やはり団員を増やす必要がある。パーティで行動しているレン達に目を付けるのも頷ける。
だが、レン達ほどの実力者に声をかけるとなるとスカウトする側にも勇気が必要だ。少しでも機嫌を損ねればどうなるかわからない。個人の力としては、圧倒的にレンが上なのだ。
「さすがに声をかけるのは……まだ厳しそうだな……」
「ああ、間違えて怒らせたら何をするかわからないからな……個の力ならば奴が都市で1番だろう」
レン達に聞こえないようにスカウト達が話している。
彼らの考えはほとんど正しい……間違いがあるとすれば、クランで挑んだとしてもレン1人に勝てないだろうと言うことだ。
それだけレンの力は、圧倒的になりつつある。
51階層……美しい花畑が広がっている場所。戦いというものを忘れさせるほどの綺麗な景色だ。
「なんだか、迷宮って感じじゃないステージだよな50階層からだけど……」
「そうだね。デートで来たくなるような場所だよね、はっ!あわわわわ。ちょっと待って今のなし!」
突然エリアスが挙動不審になる。自分でデートなんて言ったからだろうか。思いっきり顔を隠して震えている。
「残念だけど、今回は俺との2人でのデートというか攻略になりそうだな!」
空気を和ませようとギリギリを責めたジョークのつもりだったけど、それを聞いたエリアスは真っ赤になり今にも爆発しそうだ。
「残念じゃない……」
エリアスは小さく呟くのだった。
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