第125話 筆頭逃走と寿命

「デリート!」


 レンは、マグノリアに向かってスキルを放つが間一髪の所で転移門で逃げられたように見えた。


「我らが筆頭を逃すことが出来たのだ。我らを勝利の糧に……」


 勝てないと悟った部下達が自害して、地上に落ちていく。



「逃げられたか……」


 レンは元の姿に戻りながら地上に降り立つ。意外と消耗が激しかった。まだまだ慣れが必要なんだと実感する。


 地上では、すでに魔物が討伐されており、エリアス達が待っていた。


 そこまでキツいわけではないがエリアスが肩を貸してくれたのでありがたく借りる。


「今度は勝ったよ!」


「余裕だったわ!」


 キメラにリベンジを決めたエリアスとルティアは嬉しそうだ。


「はぁぁぁぁぁぁ、死ぬかと思った……」


 毎度毎度、ミラは命がけだ。生きた心地がしなかっただろう。


 アンナとアイリの2人も無事だった。


 急なスティグマとの戦闘ではあったが、なんとかなるのだった。



「お姉ちゃぁぁぁん、良かったよぉぉぉ……」


 戦いが終わり緊張感がほぐれたためかアイリは、泣きじゃくっていた。それをアンナが抱きしめている。


「ごめんね。あなたを1人にして悲しませた」


 とアンナも謝っている。彼女は、これからクランについてのことなどの説明をギルドにしなければならないため色々と大変そうだ。


「それにしてもレンの姿かっこ良かったね!」


 とミラが先程のレンの戦いについて言ってきた。


「まあスキルを色々とコントロール出来てきてるんだ」


 と言っておく。


「改めて感謝します、レン・オリガミ。ようやく長い悪夢から覚めることが出来た……。妹とも会えた」


 アンナがお礼を言ってくる。その表情は、人形と言われていた彼女とは違う、生きているものだ。


「最後までどうにかしようとしたアイリの思いが俺達を導いてくれたんだ。アイリの頑張りを労ってやってくれ」


 アイリに会わなければ、助けようと考えなかったかもしれない。彼女の頑張りを見たからこそのレンのサポートだ。



 そのまま解散することになった。交渉に来たはずが戦闘になるし、真紅の宝剣は滅びるし、で凄い時間だったなと思う。


「異世界って色々なことが急すぎるな……」


 誰にも聞こえないようにレンは呟く。







 どこかにある、スティグマのアジト……


「はぁはぁ……かなりのMPを消費したわ。味方を呼ばなければ死んでた」


 転移門で現れたマグノリアが呟く。


「マグノリア様!」


「迷宮都市から戻ったわ。休憩させて」


 アジトに残っている魔法部隊のメンバーが来るのに対して答える。


「そんな……マグノリア様……それは」


 部下の戸惑いの視線が多く集まり、マグノリアは不思議そうに思う。


「一体どうしたと言うの?え……」


 今気づいた。マグノリアは、自らの左腕が無くなっていることに……


 レンのデリートは、マグノリアまで完全には届かなかった。だが、腕を一本消し去ることは出来ていたのだった。


「痛みもない……それに何も感じない。元から無かったみたいな感覚……破黒の英雄、よくも私の腕を奪ってくれたわね」


 マグノリアがより一層怒りに燃えたのは言うまでもない。





 スティグマとの戦いの後、迷宮都市は、バタバタとしていた。


 突然のクラン真紅の宝剣の壊滅、そしてクランリーダーであるアンナ・フェロルが洗脳されていたことなどが明らかとなった。


 アンナは、洗脳されつつも状況が見えていたため、しっかりとした説明をギルドでも行うことが出来た。


 どうして洗脳が解けたのかなど、レンが関わった事は上手く話してくれたようでギルドからレンに対して何か聞かれることはなかった。


 迷宮都市の人々は大いに驚いていた。すぐさま新聞などになり、ばら撒かれている。


 レンも町の様子を眺めながら、それは驚くことになるよなと思った。


「突然、迷宮都市屈指のクランが消滅したんだからね……驚かない方が難しいわ」


 レミが答える。レミは、町の人達の治療に専念していたため戦いには参戦出来なかった。スティグマに逃げられた事は残念そうだったが、被害が大きくならなかったことは喜んでいた。


「いつもこんなことに遭遇してるのか?」


「ええ、スティグマを追ってるから、規模がこんなに大きいのは初めてだけど……」


 と答える。


「ようやく、一区切りついたから色々と聞きたいことがある」


 ここまでスティグマ絡みで全く話が出来てなかった。


「そうよね。何でも聞いて」




「この世界に来て何があったのか……」


「最初に少し話したけど、交通事故に遭って神様にこの世界に送られた。別に何かをやって欲しいとは言われてないけど、お父さんって優しい人だったでしょ?だから悪いことをする人が許せなかったみたい」


 確かにレンも父のことは、優しい人という印象だった。困っている人は放っておけないような……


「それでスティグマと?」


「ううん……スティグマが現れる前にもね。悪は沢山存在したのよ。私達は、その時代に現れた悪と常に戦ってきたの。だから今の時代の悪……スティグマを倒そうとしている」


 両親は、色々な敵と戦ってきたようだ。


「いや、待ってくれ。スティグマが現れたのはここ最近って訳じゃない。悪が沢山いたのっていつのことなんだ?」


 自分の知らない組織が多く存在しているのかと思った。


「150年くらい前……かな。昔過ぎて忘れちゃったわ。遥かに前のことだから」


「150年!そんなことがあるはずない!それならとっくに寿命が……」


 レンはここで1番驚いた。150年前にすでに両親は、この世界にいたことになる。


「驚くわよね。でもね事実なのよ。私とお父さんは、200年前にこの世界に来た。100年くらい前にね、お父さんは寿命で亡くなったの……私の魔法でも死はどうしようもなかった。最後までレンに会いたいって言ってたわよ!」


 とここでレミが涙を流しながら伝えてくる。


「そんなことが……」



 異世界での突然の本当の母親との再会、そして知らされる父親の死……レンは、涙を流す母親を前に言葉に詰まるのだった。

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