第76話 圧倒と暴走

『マスター!目を覚まして下さい。マスター……』


 真っ白な空間の中、金髪の美しい女性が叫んでいる。


 そう彼女は、ナビゲーター。レンをサポートするスキルだ。


 いつもであればこの場所からレンの目を通して、外の世界を見ることが出来ていたがそれが今はかなわない。


『マスター……』


「確かにこの状況はあまり良いとは言えないね……」


 どうしようもない状況のナビゲーターに声がかかる。


『まさか……あなたは』


「実際に会うのはこれが初めてかな?僕の名前はレイ。はじめまして、ナビゲーターさん。それにしても驚いたよ、君も人型になれるんだね」


 白髪の少年が答える。

 彼は黒龍戦でのレンの姿に酷似しているのだ。



『ええ、私にも人型はあります。それは置いておいてあなたは何者なのですか?マスターの中に存在するということは、あなたはマスターの一部……』


「いや、僕はレンではないよ。簡単に言えばナビゲーターさんと同じさ。僕もレンのスキルだ」


 とレイは語る。


『私はマスターのスキルを全て知っています。ですが、意思を持つスキルなど私以外には存在していません』


「ああ、それはね……もう時間か。ごめんねナビゲーターさん、長くここにいられないみたいだ。説明をしている余裕がないから大事なことだけ話す。レンを助けられたら、レンにこの力を制御できるようにさせてくれないかな?ここままじゃレンは、破壊の化身になってしまう」


『わかりました。マスターをそんな者にはさせません』


 とナビゲーターが答えた時には、レイの姿はもうなかったのだった。



『しかし、まずはマスターが正常に戻らないとどうしようもないですね』


 とナビゲーターは考えるのだった。どうやってレンを助けるかを……


『こうなったらマスターを探すしかありませんね』


 と言い駆け出す。






「消してやる」


 レンの呟きにシャンはもう驚きを隠せないでいた。


「いったいお前は何者なんだよ……」


「俺は……僕は……誰なんだろうか?そんなもの今は関係ない。ただ、ゴミみたいなお前を消すだけだ」


 憎悪の視線……、そして嫌悪の言葉。


「理性すら怪しいな……」


 シャンは、会話することも出来ないかと諦める。




「レン……どうしたの?あなたはそんなことを言う人じゃない……」


 エリアスが呟く。


「この世から消し去る……」


 3人のシャンが武器を構え、レンに攻撃を仕掛ける。


「だけど全て消し去るのもつまらないか……デリート」


 1番近くにいたシャンは、ナイフを振り下ろしていたがいつのまにか腕ごと消え去っていた。


「腕がないだと……」


 何の痛みもなく、シャンの腕は消え去っていた。もとからそこに腕がなかったかのように。


「コントロール出来てきたな……」


 レンは、他の2人の方を向きながら腕が無いことに驚くシャンにデリートを唱える。悲鳴を上げることもなくシャンが消え去る。


「後は、2人……」


 レンが一歩また一歩と歩いてくるのを、シャンは動けないでいた。


「まとめて消えろ!デリート」


 裁きを下すかのようにレンは言う。


「クソっ……」


 シャンが諦めたように呟き、目を瞑る。




 しかし、シャンは消滅しなかった。


 シャンの目の前には、障壁が展開されてデリートを受け止めていた。とはいえ、障壁はデリートを受けすぐに崩壊したが…


「随分と楽しそうね?シャン」


 にこやかに笑う女性がシャンの隣に立っていた。


「テメェ、何でここにいやがる?」


「あなたを迎えに来たのよ。光明の魔女が迫ってるわ」


 光明の魔女という言葉にエリアスが反応するが話は続く。


「それはマズイなぁ……さっさと逃げるべきかー」


「そうね。目の前の子もなかなか危なそうだし」


 レンが攻撃を放とうとしているが、女性は魔法を唱える。


「シャドウ」


 黒い煙が放たれ、レンは2人の姿を見失う。


 視界が見えない中、声だけが聞こえる。


「私は、スティグマ魔法部隊筆頭、マグノリアよ。また会いましょうね、破黒の英雄くん」


「次あったら殺してやるからな……」


 黒い煙が晴れるとそこには誰もいなかった。




 エリアス達は、強力な敵が去ったことに安堵するが、すぐに現実に引き戻される。


「レン、しっかりして!元に戻って!」


 エリアスの呼びかけにレンは反応しない。


 全てを消し去ろうとしているかのような表情があるだけだった。



「ルティア、動ける?レンを止めるよ!」


 と言いエリアスは漆黒の細剣を取り出す。


「レンに挑むっていうの?」


「ええ!私が弱かったからレンは、ああなった。だから私が元に戻す。力を貸して」


「わかったわよ」


 ルティアも杖を構える。


「ライトニング!」


 エリアスは叫び、レンに突っ込むのだった。

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