第75話 ピンチと怒り
レンとシャンは、お互いの武器をぶつけ合い戦闘していた。
敵は確実に自分を殺そうとしている。レンは、殺気からそう確信していた。
「仲間が気になっているのか?集中できてないぞ」
とシャンはレンの喉元を狙う。
「お前の言葉には乗らないぞ!」
レンは、攻撃を回避しながら答える。
「まぁ、お前の仲間も後を追わせてやるさ。お前を倒した後にな、いやもうキメラに殺されてるかもな〜」
クク、と笑いながらシャンが答える。
シャンの言動に苛立ちを覚えながらもレンは、速く決着をつけようと武器を構える。
「転移!」
シャンの背後に移動し剣を振るう。
「おっと……危ないな〜。時空魔法なんてあんま相手にしたくねーよ」
ギリギリの所で回避してシャンは言う。
シャンのような実力の暗殺者には不意打ちは効果があまり無いようだ。
「さて〜俺も全力で行きましょうか……クク」
シャンが不気味に笑う。
「なっ……」
突然、レンの隣にシャンが現れ攻撃を放つ。シャンが正面にいたため、横に現れたことに驚いた。だがさらにレンを驚かせることが起きる。
「なんで2人いるんだ……?分身じゃないよな」
「実体を持ってるさ〜。あと2人だけじゃないぜ?」
さらに2人のシャンが現れた。
「嘘だろ……」
両方から迫ってくるシャンに対して剣をもう一本だし、応戦する。
2人のシャンの攻撃には確かに重さを感じた。
「どっちも本物か……一体何のスキルだ」
いくらレンと言えども4人を同時に相手するのは厳しいものだった。
『もしかするとユニークスキルではないかと考えます。分身を自在に顕現、消失させることが出来るならギルドに捕らえた者の暗殺も容易く行えたのかもしれません』
ナビゲーターさんの意見は最もだ。
ナイフが頬をかすめたため、転移で一度退避する。余裕がない。
「さすがに厳しいな……」
一旦レンは距離を取るために、屋根に乗る。
「お!オーガごっこでもするか?」
とシャン達が追いかけてくる。
オーガごっこ?鬼ごっこじゃないのかよ……
と一瞬考えるがすぐに頭を切り替える。
いくつかの屋根を移動しながら距離を取っていたレンは、衝撃を受けた。
レンが目にしたのはエリアスとルティアがキメラによって吹き飛ばされる所だった。エリアス達の周りには2体ほどキメラの死体があり、連戦をうかがわせる。
「な……まずい!」
すぐに助けに入ろうとしたレンをシャンが邪魔をする。
「行かせないよ〜ここで仲間が死ぬところを見てもらおうかー?」
2体のキメラに対してエリアスがルティアを守るように立ち塞がる。
エリアスもボロボロになっており、とてもじゃないが戦えるとは思えない。
「転移!……なんで発動しないんだ……」
レンはすぐに魔法を唱えるが、場所が移動できていない……発動しなかったのだ。
驚くレンに手に何かを持ったシャンが声をかける。
「時空魔法を発動させない魔法道具だぜ。便利だろ〜?魔法全部は無効化出来ねーけど、こういう時に役立つなぁ」
「そんな……」
レンが驚きシャンは追い討ちをかける。
「良いな絶望した顔!汚れた獣人が死ぬのをみるのは爽快だ〜」
ピシッ……と頭の中で何かが割れるような感覚があった。
これを本当の怒りと呼ぶのだろうか……
エリアスのことを汚れた獣人といわれレンは怒りを覚えた。
「今、汚れたって言ったのか……?エリアスのことを?」
レンは、声のトーンを落としながら聞いた。
「なんだ?獣人なんていない方がいいだろう?だから狼人族なんかの村も滅ぼされたんだぜ。獣人の中から獣王が出てきたら厄介だからな」
「お前達は……」
レンの怒りが限界に達しようとしていた。
「お!キメラがトドメを刺しそうだな〜やっちまえー」
あと数秒でエリアスとルティアが死ぬ……考えろ、考えろ!どうにかする方法を、絶対に助けないといけないんだ。走っても邪魔されて届かない……どうしたら!
怒りが頭を支配し始めながらも思考を放棄しないように努める。
レンは必死に頭を回し、1つの結論に至る。あの力、黒龍すらも圧倒した力をもう一度使えれば……
頼む、発動してくれ!エリアス達を助けてくれ!
「デリート……転移」
レンが呟き、エリアスの前に現れる。
「魔法道具が効かなかった?どういうことだ」
シャンは少し驚いた。手に持つ魔法道具が消え去っていることに気づく。
「お前ら消えろよ」
レンが手を前にかざすとキメラが消滅した。元から何も無かったかのように。
「レン……?」
エリアスは、レンに抱えられた。
レンの髪は真っ白に染まっており、いつもの優しい雰囲気は薄れて怒りが感じられた。
「ごめんな、少し、待っててくれ。生命魔法……」
エリアスとルティアの傷が一瞬にして消え去る。
「レン、なの……?」
起き上がったルティアも呟く。ただレンの変化に驚いているのだ。
だがレンはそれに答えずに、シャンの方を向く。
「消してやる……」
と言いながらアイテムボックスから漆黒の剣を取り出す。なんだか、意識が侵食されて行く感覚があるが構わない……
「なんだよその姿は?」
シャン達は衝撃を受けていた。
レンは、転移を使い一瞬にして距離を詰め、1人目を切り捨てる。シャンはレンに反応できなかった。
「消えろ!デリート」
切られたシャンは跡形もなく消えた。
「さっきまでと動きが違いすぎる。それに消滅させただと……」
シャンは、距離を取りながら呟いた。
「お前達もすぐに消してやる」
とレンは言いながらシャンに向かって歩き出すのだった。
『マスター!落ち着いて……下さい!マス……タ…ー』
ナビゲーターの呼びかけも途切れた。消してやると言ったレンにはすでに本人の意識がなく、そこにいるのは唯、彼の怒りを具現化した存在だった。
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