第68話 上達と強い殺意

 エリアスは雷を纏った剣によってスティグマを確実に追い込んでいた。


「いける!」


 スティグマの動きが素早いため、剣を掠らせることしか出来ないが剣に纏った雷魔法により確実に体力を削ることが出来ていると確信していた。


「おのれ!獣人の分際で」


「我らが滅ぼしてきた亜種族同様、殺してくれる」


 スティグマも追い込まれていることで怒りがあらわになってきている。


「やっぱり、お前達は私の村と同じように多くの種族を傷つけてきたのね……許せない」


 エリアスの剣に纏う雷が一層強くなった。スティグマの挑発は、エリアスに油を注ぐ結果となった。エリアスは、怒りによってさらに強い出力で雷魔法を使えるようになったのだ。



「食らえ!」


 先ほどよりも動きが増したエリアスの攻撃にスティグマは回避が間に合わず、受け止めるしか出来なかった。


「ぐ、あぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 スティグマの身体には、強力な雷撃が走る。しかし、気絶しないのはスティグマがそれだけ強いということだろう。


「しぶとい。むっ!」


 もう1人のスティグマが攻撃してきたため、エリアスは、目の前のスティグマから飛びのく。


「がはっ……」


 だがエリアスの雷撃を食らったスティグマは満身創痍になっていた。


「後は1人……降伏した方が良いと思うけど?」


「冗談じゃない……命が無くなるまで戦うまでだ」


 ナイフを構えて殺気を飛ばしてくる。


「魔力が切れたらまずい……すぐに決める」


 かなりの出力で雷魔法を使っているため、エリアスのMPも少なくなってきている。さすがにMP切れは命取りだ。


「我らはどんな手を使っても勝つ。悪いが貴様の魔力が切れるまで待たせてもらおう」


 と言いスティグマは森に姿を消す。


「匂いも感じないし、場所的にも相手に分がある。なら……」


 相手が出てきたら対応出来る自信があるが、見えないのでは動きようがない。MPポーションを飲もうとすれば攻撃されることだろう。




 少し時間が経ち、エリアスの剣に纏っていた雷が消失した。


 その瞬間に、森から飛び出す気配を感じた。


「悪いな……死んでもらう」


 とスティグマは勝ちを確信してエリアスに飛びかかる。


「それはどうかな?」


 エリアスの剣に再び雷が纏う。


「な!どういうことだ」


 スティグマは、すでに回避が間に合わない距離まで接近していた。


「ただ一回雷魔法を解除しただけ、魔力はまだ残ってる」


「フェイント!そんな単純なことに……」


 獣人の魔力はそこまで多くないということで魔力は切れてると思っての攻撃だったがそれは失敗に終わる。スティグマも慌てていたため大きな油断が生まれたのだろう。


「まさか、ここまで雷魔法を使えるようになるとは思わなかった……」


 とエリアスは呟くのだった。





 ルティアは、自分に向かってくるスティグマに対して炎の魔法を沢山放つ。


「ファイヤボール!ぬ……一個くらいあたりなさいよ」


 魔法は敵に回避されていた。


「無駄だ。貴様の攻撃では、私に当てることなど出来ん」


「く……言ったわねぇ!覚えときなさいよ」


 レン達も戦っているため、助けを求めることは出来ないだろうとルティアは考える。実際は、レンはいつでもフォロー出来るように準備はしていたのだが、対人戦闘を経験させるのも大事だと思い手を出さないでいる。


「ファイヤウォール!」


 ルティアは、スティグマとの間に炎の壁を作り出した。少しでも時間を稼ぐため相手を妨害する。


「チッ、回り込むしかないか…」


 スティグマは舌打ちし、炎の壁を避ける。


「ファイヤボール!」


「くっ!ちょこまかと……」


 スティグマは、ルティアの魔法により接近出来ずにいた。ルティアの魔力は、レンほどでないにしろレベルの割にかなり多い。魔法を放ち放題なのだ。


「ラチがあかないわね……何か良い方法がないかしら?」


 ルティアは戦いながら突破口を考えていた。


「私の得意なことを活かす……回復、いや生命魔法を」


 ルティアは、現状自分1人では相手を捕らえられないと考えた。ならどうしたらいいか……捕まえる者が複数いればいいのだ。


「ファイヤボール……そして、生命魔法」


 ルティアの周りに出現した複数のファイヤボールに生命魔法を注ぎ込む。


 徐々にファイヤボールがグニャグニャと動き出し人型に変形する。


「何なんだそれは……」


 スティグマは、恐怖を感じていた。弱いと侮っていた相手がまさかの隠し球を出してきたのだ。


「炎の人形……ファイヤドールといった所かしら?捕まえなさい」


 スティグマを捕らえるために多くの火の人形が動き出す。


「なっ!素早い……」


 動きが速い上、数もあるため避けようがない。


「切っても再生するのか!」


 ナイフで火の人形を切るもダメージはない。


「貴方の物理攻撃なんて効かないわよ」


 と言うルティアの言葉にスティグマは覚悟を決める。


「うぉぉぉぉぉぉ!」


 自ら火の人形に突っ込み火傷を負いながらもルティアに突貫してきた。


「嘘でしょ……」


 自殺に近い行動にルティアは、驚き動けないようだった。


「お前を殺せばいいだけだ。死ねぇー!」


 動けないルティアの喉にナイフが突き刺さるのだった。

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