第62話 暗殺者と銃

 レンは、索敵で捕捉した相手がどのように動いてくるかを考えていた。尾行してくると思っていたが驚くことになる。


「尾行って距離じゃない……!!」


 気配が徐々に迫って来ていた。感じるものは明らかな殺気。


「死んでもらおう……」


 レンの横に男が立っていた。レンは準備していたのに反応に少し遅れる。


 速い……


 男が振るったナイフが喉元に迫ってくる。このままでは、即死だろう。だが、レンもそう簡単にやられない。


「くっ……」


 なんとか喉は回避したが頬に少しかすっただけで済んだ。確実に相手は自分を殺すつもりできている。


「アレを避けるか」


 と男が言う。


「喉を狙った攻撃……お前がギルドに捕まえたスティグマを殺した奴か?」


 実力的にも暗殺出来そうだと思った。


「ああ、余計な情報を漏らされても困るからな〜」


 と言いながら男はフードを外す。


「変わった仮面だな……流行ってんのか?」


 男は仮面を被っていた。不気味なドクロのような文様が入っている。


「素顔を知られていたら暗殺者なんて出来ないからな。特注品だ。それにしてもナイフに毒を塗っていたのに効かないのか?」


 不思議そうに男が問いかける。


『状態異常耐性で毒を無効化しております』


 とナビゲーターさんが言う。本当助かったよ。耐性が無ければ死んでたかもしれない。


「俺に毒は効かない」


 と言いながら剣を出す。


「良いスキル持ってるじゃんか〜。まあどうせ死んでもらうからな〜自己紹介しておこう。俺は、スティグマ暗殺部隊筆頭シャン」


「名を名乗るなんてな……大事な情報を漏らしたな……スティグマ!」


 そして2人の武器、剣とナイフがぶつかる。



 たしかに俊敏性が凄いな……だが追いきれないわけじゃない。心で思いながらレンは、剣を振るう。


 お互いに致命傷は回避しつつダメージを与える。


「決定打に欠けるな……」


 間合いを取りながら呟く。攻撃の受け流しも上手いように感じた。


「思ったよりも強いな……!お前は」


 シャンがレンの評価を上げた時に事態に動きが生じる。


 パァン!


 乾いた発砲音が路地裏に鳴り響く。





「やっぱりレン殿を狙ってきましたか……」


 そこには、ハルカが立っていた。さらにレンの目線はハルカの持つ武器に注がれる。


「それは、銃……」


 ハルカが持っているのは、まさしく元の世界で銃と呼ばれているものだ。


 弾丸は、シャンの腕を撃ち抜いていた。


「まさか、英雄様まで出てくるなんてな……こんな腕じゃ殺せないか。それに撃たれてなくても分が悪いな」


 と言いながら閃光弾を投げる。路地に光が溢れた。


「くっ!」


 レンとハルカは目を塞ぐ。


 目を開けた時には、シャンの姿はなかった。索敵を使うと、凄まじい速さで索敵範囲を超えていった。



「ハルカさん、どうしてここに?」


「もしかしたらレン殿を狙って来るかもと思って、隠れていたのですが、詰めが甘かったみたいですね」


 さすがは英雄と呼ばれる人物だ。なかなかに勘が鋭いなと思った。レンでさえハルカが近くにいることに気づかなかったのだ。


「ハルカさんが使ってる武器は銃なんですか?」


「ええ、これだけじゃないですけど銃を使っています」


 と言い銃を見せてくれる。


「この世界には、銃が存在するのか……」


 もし銃がこの世界にあるのなら敵が使っていると厄介だ。


「いいえ、これは私がこの世界に召喚された時に持っていたもの……なんで銃が私の武器なのかはわかりませんが」


 と説明してくれた。


 テレビ番組なんかで銃を見たことがあるがハルカさんの銃の見た目は元の世界では見たことが無いようなものだ。


 アニメの世界で出てきそうな武器だな……と思う。


「怪我は大丈夫ですか?私は、回復魔法は使えませんので治せないのです」


「少し切られただけですから大丈夫です。もうほとんど塞がりました」


 スキルによってあっさりと怪我が治った。とても便利なものだ。


「良いスキルを持ってますね……興味深いですね〜ふふ……ゴホン!一応宿までお送りします」


 一瞬、ハルカさんの言葉遣いが変化したことが気になったが気にしないことにした。


 フィレンの言っていた戦闘好きというのは考えないことにしていたのだ。




「詳しいことは明日にでも聞かせてもらいますね。では、今夜はごゆっくり休んでください」


 宿に到着し、ハルカは帰っていった。


 部屋に戻りながら宿の時計を確認する。大体夜の10時といった所だろう。異世界の一般的な宿屋にある時計は大雑把なのだ。


「思ったより疲れたな……お風呂に入って寝よう」


 と言いながら歩いていると自分の部屋の前でエリアスが待ち構えていた。


「お帰り、遅いから心配したよ!」


 と言いながらレンの身体をペタペタと触り怪我をしてないか調べてくる。


「大丈夫だよ!そっちも何もなかった?」


「うん、こっちは大丈夫だったよ。でもレンからは血の匂いがするし、大丈夫だったとは思えないんだけど……」


 エリアスは鋭いな……と思い説明することにする。


「ここで話すのもアレだし、部屋に入ってからでいいか?」


 さすがに宿にスティグマがいるとは考えられないが、一般人に聞かれるのは避けたい。


「ルティアはどうするの?」


「うーん……俺達についてくる以上、知っていた方が良いだろうな。呼んできてくれる?」


「わかった!待っててね」


 と言いエリアスはルティアを呼びに行くのだった。

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